血糖値を上げない?世界初の「テーラーメイド食事療法」とは

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医療の世界では、最近、遺伝子診断などで事前に体質を調べ、その人に最も適した治療法や治療薬を選択する「テイラーメイド医療」の実用化が進む。ならば、食事についても、一人ひとりの体質に合った「あなただけの健康食」があっても良さそうだ。それを実現に近づける、食事と個人差の関係が、ビッグデータ解析から浮かび上がってきた。

血糖値をあげやすい食べものは個人個人で異なる!?

訪れたのはイスラエルにあるワイツマン研究所。広大な敷地内に立ち並ぶ建物の中では、軍事から科学技術、医学まで、多岐にわたる分野での先端研究が行われている、まさに世界をリードする研究所だ。ここで「糖尿病患者や予備群の人たちに対する全く新しいコンセプトの食事療法」が開発された。

血糖値の上昇の個人差を突き止めた実験の風景
血糖値の上昇の個人差を突き止めた実験の風景

今回、この新たな食事療法が生まれるきっかけとなった実験の現場を見せてもらうことができた。研究所の一室、4名の実験参加者が座るテーブルの上には、ベーグルやチョコレートケーキ、バナナなど、糖質を含み血糖値を上げる様々な食品が並んでいる。実験参加者の腕には血糖値の変化を常時モニターできる直径5cmほどの丸いパッチが貼られている。

研究者の合図で、4人は一斉に、配られたベーグルを食べ始めた。そして1時間後、4人の血糖値が測定された。血糖値が最も大きく上昇したのは体格の良い男性、一方、血糖値の上昇が最も小さかったのはスリムな女性だった。2時間の休憩をはさんで、続いてはチョコレートケーキで同じように実験を行った。この時、最も血糖値が上昇したのは、先ほどの男性ではなく、先ほど最も血糖値の上昇が小さかったスリムな女性だった。続いてはグリンピース。最も血糖値が上昇したのは、大柄な男性でもスリムな女性でもない、色白な男性。またまた別の人物だった。研究所では、800人の実験参加者について、同じような実験を行った。その結果、分かったことは「血糖値を上げやすい食べ物は個人個人で異なる」という事実だ。

[血糖値の変化]ベーグルを食べた時
[血糖値の変化]ベーグルを食べた時
[血糖値の変化]チョコレートケーキを食べた時
[血糖値の変化]チョコレートケーキを食べた時

従来、食品ごとの血糖値の上がりやすさは、GI値(グリセミックスインデックス)という値で示されてきた。糖尿病患者や肥満者は誰もが、このGI値を頼りに、血糖値を上げやすい食べ物を避けるという食事療法が行われてきた。例をあげると、、、ベーグル:33 スパゲッティ:38 小麦パン:80 焼いたポテト:85。スコアが大きいほど、血糖値を上げやすい食品。つまり、小麦パンや焼いたポテトより、ベーグルやパスタの方が血糖値を上げないので、おすすめということだ。つまり、血糖値を上げやすい 、血糖値を上げにくい食べ物は、誰にとっても同じという前提なのだ。しかし、ワイツマン研究所の実験から、話はそれほど単純ではないことが明らかになったのだ。

血糖値上昇の個人差を生み出すカギは"腸内細菌"

では、一体、何がこの血糖値上昇の個人差を生み出しているのだろう?ワイツマン研究所のエリナフ博士、セガール博士はチームを組み、その理由を突き止めるために様々な調査や研究を行った。先述の800人の実験参加者について、血液や唾液、便などのサンプルを集め、血液成分やホルモン、遺伝子、腸内細菌などを分析、血糖値上昇の個人差を何が生みだしているのか、ビックデータ解析を行った。

私たちの腸内には30万種類もの腸内細菌がいる

その結果、血糖値上昇の個人差と最も強い関係があったのは、腸内細菌だった。私たちの腸内には、実に、1000種類、100兆個以上の腸内細菌がいる。消化吸収しきれず腸に届く栄養を食べてエネルギーを得て、代謝物を吐き出す。腸内細菌の組成は、食生活によって大きく変化する。一人ひとりの腸内細菌の組成は異なり、一人として同じものはない。さらに、最近、腸内細菌が吐き出す代謝物が、病気を引き起こしたり、逆に健康維持に深く関わっていることが分かり、研究が活発化しているが、今回の研究から、血糖値の上昇にも、腸内細菌が深く関与していることが新たに分かったわけだ。

もう少し具体的に説明すると、例えば、分解されにくい食物繊維などの糖質を、甘い糖へと分解する腸内細菌がいた場合、その腸内細菌が多い人は、本来は血糖値を上げにくい食物繊維の多い糖質でも、血糖値が他の人よりも上昇することになる。そして、この腸内細菌の違いを生かした、「テイラーメイド食事療法」が実用化された。それは、一体どんなものか。

『あなただけの健康食を!世界初のテイラーメイド食事療法【後編】』を読む