【あの人の健康法】作家・市川拓司 発達障害の特徴を抱えながら生きる方法とは?

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作家・市川拓司さん

各界を代表する方々の健康の秘訣や闘病記をご紹介する「あの人の健康法」。
今回は、ベストセラー小説「いま、会いにゆきます」の著者でもある作家の市川拓司さん。
正式な診断がおりたわけではありませんが、市川さんは幼少期から多動や多弁、他にも人とのコミュニケーションが苦手など、発達障害の多くの特徴があてはまると医師に告げられています。
そんな市川さんが、どのように社会生活を過ごしてきたのかを伺いました。

市川さんが抱えた発達障害の特徴

発達障害は、人とのコミュニケーションが苦手だったり、特定の物へのこだわりが強いなどの症状がある「自閉スペクトラム症」、集中できない・じっとしていられないなどの症状がある「注意欠如・多動症(ADHD)」、読み・書き・計算が極端に苦手といった特徴がある「限局性学習症」などがあります。市川さんは、幼い頃からこうした複数の要素に悩まされてきました。

Q:子どもの頃は、どんなお子さんだったんでしょう?

市川「とにかく落ち着きのない子でしたね。ひたすら走り回って、教室でも自分の席に座っていなくて、とにかく机と机の間をほふく前進して、ひとりひとり頭を叩いて相手が振り向くとニコッと笑って、それをずっと繰り返していました。」

Q:そういう行動をご自身は、どう感じていたんですか?

市川「普通だと思っていました。酷いときは学校から外に出ていっちゃいますから。自分だけのルール、自分だけの時間で自由に動いていました。毎日10kmくらい、いろいろなところに走り回っていましたね。それくらい多動で教室をちょっと混乱させていたらしいです。本人は、そのつもりないんですけどね。」

勉強が苦手だった一方で得意だったこと

とにかく落ち着きのない子だったという市川さんですが、発達障害の特徴はそれだけではありませんでした。勉強が本格化する中学生の頃には、記憶することが苦手なため学力が急に下がったといいます。
しかし、その一方で想像力が豊かだったため、国語の授業中に原稿用紙20枚の物語を書き上げ、先生に評価されるという一面もありました。
さらにそれだけではなく、頭の中に浮かぶ世界を自分の手で再現することを得意にしてきたといいます。

Q:こちらは、どういうものなんですか?

市川「これは、転がりおもちゃで、建物の中を玉が上から下に転がり落ちていきます。模型の構造のイメージは頭の中にあるので、設計図がなくても作れます。逆に設計図があるとうまく作れません。例えば、このコウモリの骨格を羽ばたかせるおもちゃも、からくりの動き方は図面には表現されませんが、頭の中ではからくりを動かすことができるので、設計図よりも効率が良く作ることができるんです。」

得意な部分を"生きる力"につなげる

想像力を作家という職業に生かしているという市川さん。小説を書くときは、最初に物語のエンディングが映像として頭に浮かびます。
頭の中に浮かんだ場面をまるで映画を撮影するかのようにカメラアングルを決め、音楽を流し、自分が登場人物になりきって演じた上で、小説を書くと言います。

そして、市川さんと親交のある専門家の上野一彦さんは、そうした突出した能力が生きる力につながっていると言います。

上野「発達障害を抱えている人たちが、あらゆる面で優れているわけではありませんが、彼らを特徴づける一番大事なことは、持っている能力に得手不得手があり、デコボコしているということなんです。能力がデコボコしている中で、突出した部分が活きる力につながったときに初めて良い成果を上げられる、ということなんです。市川さんの場合は、豊かな想像力を生かし、それが作家という道がつながったということなです。」

市川さんが考える発達障害との向き合い方

発達障害の特徴を多く抱える市川さんは、「逃げる」ことが大事だったと言います。つまり、自分にそぐわない場所には身を置かない、ということ。
実は、市川さんは大学卒業後、かなり大きい会社に入社しましたが、わずか3か月で退社しました。建前と本音など、社会特有の考えに耐えられなかったのです。

その後、大きな会社を避け、数人しかいない会社に入社した。しかし、今度は記憶力があまりないことから、仕事のやり残しなどのトラブルが頻発したのです。そして、最後は作家という一人でやる仕事に移っていきました。結局、自分にとって一番、居心地の良い場所に落ち着いたというのです。

Q:"逃げる"ということは、市川さんにとってはネガティブな行動ではないということですか?

市川「結果として自分に良いことであれば、周りから見れば逃げているように見えても、自分の中では逃げているという気はありません。無理して自分とは全然違う土俵でたたかい続けても、自分にとっては何もいいことはないので、自分の得意なところとか自分が居心地が良いところにどんどん移っていくというのが自分の中の形ですよね。」

発達障害の啓発活動に込める思い

現在、市川さんは発達障害の理解を広げるため、全国で講演を行っています。そうした活動に込める思いとは?

市川「一般的な発達障害のイメージが『うまくものごとができない』『色んな問題を抱えている』というネガティブなイメージが強いと思うんですよね。しかし、その対局には僕のように、それを武器にして世界を舞台に活動できる人もいる。そういうポジティブなサンプルとして、みなさんに自分の姿をお見せできれば良い。という思いです。」