【世界の先進事例】発達障害のある人が大活躍!

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脳機能がアンバランスに発達することで、得意なことと不得意なことの差が大きく、社会生活に困難が生じる「発達障害」。就職が難しい、長続きしない、コミュニケーションが苦手などの悩みを抱える一方で、細部にまで目がいく、記憶力がずば抜けてよいといった突出した能力を持つ人たちもいます。
いま、発達障害のある人たちの「得意なこと」に目を向けて、その能力をいかそうという動きが世界で始まっています。人材活用の最前線を取材しました。

【放送予定日】
「国際報道2019」10月28日(月)BS1 後10:00
「所さん!大変ですよ 発達障害スペシャル」10月31日(木)総合 後7:30

ハリウッドで発達障害のある人たちが活躍!

今、映画の都アメリカ ハリウッドで、発達障害のある人たちの能力が活用されています。
2014年にできた映画やテレビの映像加工を行うスタジオ「エクセプショナルマインズ」。このスタジオで作業をするスタッフ約20人全員が、コミュニケーションが苦手という特性のある自閉スペクトラム症です。

彼らが担当するのが、視覚効果(VFX)と呼ばれる映像加工。例えば、撮影時に使用したワイヤーなどを映像から消したり、グリーンバックで撮影された映像にCG処理をしたりといった作業です。このスタジオでは、設立から5年間で、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』や『アベンジャーズ』シリーズなど、約200本の映画に関わってきました。
しかし、なぜ、ハリウッドで自閉スペクトラム症の人たちが活躍できているのでしょうか?

自閉スペクトラム症の人たちと視覚効果の親和性

それは、自閉スペクトラム症の人たちの持つ能力と視覚効果の作業の親和性にあります。
今、ハリウッド映画では、よりリアルで高精細な映像が求められ、CGや実写を合成して現実にはない映像を作り出す視覚効果(VFX)の技術が欠かせないものになっています。その作業は、とても細かく、時間がかかり、集中力を要する作業です。

ところが、自閉スペクトラム症の人たちの中には、「細部にこだわる」「集中力が高い」「ITに強い」などの能力を持つ人たちがいて、その能力を視覚効果の仕事にいかしているのです。

自閉スペクトラム症の人たちの仕事をしている様子

デンマークでは「採用方法」を工夫

コミュニケーションが苦手な自閉スペクトラム症の人たちにとって、採用試験の際に、壁となるのが「面接」です。そこで、自閉スペクトラム症の人たちなどの就職支援を行っているデンマークの会社「スペシャリスタネ」では、別の方法で彼らの特性や能力を把握しています。

その1つが、レゴブロックを使ってロボットを作る様子を観察することです。ロボットの完成までには数週間かかるため、じっくり様子を見ます。自閉スペクトラム症の人たちは、場に慣れてくると、本来の力を発揮できる場合も多いからです。作業を通じて、その人が、自主的に作業するのか、他の人と交流を図って作業するのか、指示を理解できるか、といった点を見ているといいます。

特性を見るために行う、レゴブロックを使ってロボットを作る様子

この作業やそのほかの実習の様子を観察し、その人がどんな仕事に向いているのか判断したり、ブロックの作業を企業の担当者に見てもらって「採用試験」にしたりもしています。そうすることで、自閉スペクトラム症の人たちが持っている能力を企業に十分に知ってもらえるからです。スペシャリスタネを通じて、多くの自閉スペクトラム症の人たちが大手IT企業に就職して、活躍を見せています。

思いの込められた「タンポポ」のロゴ

「スペシャリスタネ」の会社のロゴはタンポポをモチーフにしたものです。そこには、創業者であるトーキル・ソンネさんの特別な思いが込められています。

「スペシャリスタネ」の創業者、トーキル・ソンネさん

「タンポポの本当の価値を知らない人にとっては、タンポポは雑草ですが、タンポポの使い方を知っている人にとっては、薬草になります。自閉スペクトラム症の人も同じです。自閉スペクトラム症の人を理解すれば、彼らは会社にとってとても役に立つ存在となるのです。どんな人でも働けるし、どんなタンポポでも役に立てる草として評価される可能性があると私たちは思っています。」

スペシャリスタネでは、自閉スペクトラム症の人たちが働きやすい環境を作るために、企業へのアドバイスも行っています。そうした活動が評価され、今や、デンマークだけでなく、12の国と地域に展開していて、関連した事業なども含め、世界で約1万人の雇用をうみだしてきたそうです。

アメリカとデンマーク:共通点は親の気づき

アメリカとデンマークの2つの事例には共通点があります。それは、自閉スペクトラム症の子どもを持つ親の気づきがきっかけとなって組織ができ、大きくなっていった点です。

アメリカで「発達障害のある人たちの能力を映画業界でいかせる」と考えたのは、長年ハリウッドで働いてきた発達障害のある子どもを持つ親たちでした。自閉スペクトラム症の子どもに、コンピューター・アニメーションをやらせてみると、活発になり周囲の人たちとの関わりも増えていったそうです。それが気付きとなり、2011年に視覚効果とアニメーションを3年間かけて学ぶ職業訓練学校が設立されました。初めは10人でスタートしましたが、今では全米から学生たちが集まってきています。そして、学校で学んだ卒業生たちが活躍しているのが、その後、創設されたスタジオです。外部のスタジオに即戦力として採用される卒業生も増えてきています。

視覚効果とアニメーションを3年間かけて学ぶ職業訓練学校

デンマークの会社の創業者トーキル・ソンネさんの三男も自閉スペクトラム症です。息子さんが7歳の時に、ヨーロッパの地図に書かれたいくつもの数字を丸暗記して書き起こすという出来事があったそうです。その時に、自閉スペクトラム症の人たちの細部への関心や、高い記憶力といった優れた能力を、「社会の中でいかしていかなければ"もったいない"」と考え、起業に至ったのです。「スペシャリスタネ」とはデンマーク語で「専門家」という意味。専門的な力を持った人たちが社会で活躍できるようにという思いが込められています。

日本でも応用できそうなことは?

デンマークの会社の創業者トーキル・ソンネさんが、自閉スペクトラム症の人たちの活躍の場を作るために特に重視したのは、①採用方法を見直すこと、②自閉スペクトラム症の人たちが働きやすい環境を作ることです。この2つのポイントは、日本の企業などでも真似できる部分があるのではないかと思います。

自閉スペクトラム症の人たちが働きやすい環境を整備し、明確でわかりやすい指示を出すなど、コミュニケーションの仕方を工夫した結果、その他の従業員の人たちにとっても、より働きやすい環境になったという事例もたくさんあるそうです。

また、2つの事例に通じる、「得意なことに目を向ける」とか「個性や特性をよく知る」という点は、発達障害のある人に限らず、子育てにおいてや、全ての人がより自分の能力を発揮していくために重要な点だと感じます。

取材の中で多くの当事者の方たちが「働けるようになって生きがいを感じる」「自信を持てた」と話していて、改めて「働く」ことの意義を考えました。個性や、他の人にはない発想が求められる今、発達障害のある人たちの能力が日本でも見いだされ、活躍の場が増えるとよいと思います。

職業訓練学校