大人の「自閉スペクトラム症(ASD)」とは?特性の理解が大切!

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発達障害脳・神経

大人の「自閉スペクトラム症(ASD)」とは

大人の「自閉スペクトラム症(ASD)」とは

「自閉スペクトラム症(ASD)」は、コミュニケーション・対人関係の困難とともに、強いこだわり・限られた興味を持つという特徴がある発達障害です。「スペクトラム」とは、「連続している」という意味で、ASDには、自閉症・高機能自閉症・アスペルガー症候群などが含まれます。

ASDは、注意欠如・多動症(ADHD)と同じく、子どもの頃から症状が現れるものですが、大人になってから診断を受けるというケースが増えています。子どもの頃から症状があっても、それが大きな不適応に至らず、知的能力も平均以上の場合は、社会人になってから社会生活や人間関係における困難に気づくことがあります。近年、ASDの診断は子どもより大人になってから受けるケースが多くなっています。

大人のASD コミュニケーションの特徴

ASDの人のコミュニケーションの特徴としては、「相手の立場に立って考えることが苦手」ということがあります。相手との距離感がつかめず、不用意な発言をすることで、困難を招くことがあります。

相手の立場に立って考えることが苦手
相手の立場に立って考えることが苦手

「相手の立場に立って考えることが苦手」であるケースの例です。大人のASDのある会社員・Aさんは、上司にパソコンの業務用ソフトの使い方に関する研修を受けたいと申し出ました。上司が理由を聞くと、Aさんは「そのソフトが使えると、転職するときに有利だと聞きました」と答えました。
それを聞いた上司は腹を立ててしまいましたが、なぜ怒っているのか、Aさんにはよくわかりませんでした。このように、相手の立場に立って考えることが苦手なため、悪気はなくても相手に不快な思いをさせることがあります。

さらに、ASDでは、「言葉を文字通り解釈する」「想像力が乏しい」という特徴がみられます。言葉のニュアンスや表情から状況を察することが難しく、社交辞令や冗談が通じないことがあります。また、「適当に」や「もう少し」、「多めに」など、日常や仕事上でよく使われる、幅のある表現を受けての判断や対応が難しい場合があります。ASDの人に業務指示を出すときは、例えば「あと30分以内に」や「15部印刷してください」など、はっきりとした表現や数字で示したほうがよいでしょう。

大人のASD 強いこだわりによる困難

ASDのもうひとつの特徴、「強いこだわり・限られた興味」からトラブルが起こることもあります。興味の対象が限定的で、好きなことには仕事を忘れて没頭するという特徴があるため、例えば、仕事を忘れてゲームに打ち込むという人もいます。強いこだわりから、いつもと違う状況に対応できず、「融通が利かない」と思われてしまうこともよくあります。

大人のASDの二次的な症状

大人の自閉スペクトラム症(ASD)の二次的な症状

ASDの人は、その特性から、周りに「配慮がない」「空気が読めない」と思われてしまうことがあります。結果として、職場などで孤立してしまうことが多く、それが原因で二次的な症状を伴うこともあります。伴いやすい症状として、人間関係で孤立する状況などから、「引きこもり」「うつ病」につながることがあります。また、ASDの人は不安や恐怖に敏感なため、強いストレスを受けやすく、「パニック障害」「対人恐怖症」などを伴うことがあります。

そして、ASDとADHDを併せ持つというケースもよくあります。ADHDの「注意欠如・多動」という特徴は、ASDとはかなり違うものに見えますが、実際の診療の場面においては、ADHDとASDの症状が似ていることがあります。
例えば、感情のコントロールが難しいことや衝動性などが、似ている特徴として挙げられます。また、アメリカの研究では、成人のASDの59%がADHDの診断基準を満たすという結果もあります。両者の区分が難しいケースもありますが、適切に対応するためには、慎重に区分し、見極めることが大切です。

大人のASD 輝ける場所は見つかる!

ASDの治療に有効とされる薬は、現時点ではありません。そのため、本人の思考や行動パターンを変え、行動を改善することが治療の中心になります。特に、社会の中で生きていくためのソーシャルスキルの習得などが重要です。そのため、これから就職を目指す人や、既に仕事をしている人のために、それぞれの目標に合った専門のグループケアなどを行っている医療機関などもあります。

また、全国のハローワークや、障害者職業センター、発達障害者支援センターなどでは、発達障害の特性に合った職業相談・就職支援を行っています。

自分の特性をよく理解し、不得手な場面での対処法を身につけることで、ASDの「こだわり」や「興味のあることに打ち込む」という面がプラスに働くこともあります。

ルールやマニュアルがしっかりしている職種(経理・法務など)、または数字は論理で対応できる職種(プログラマーなど)は、ASDの特性にフィットする可能性が高い仕事です。自分の得手・不得手なことを見極め、就きたい職業を具体的に検討してみてください。

周りがサポートできることは?

周りの人は、本人の特性を理解し、その特性に応じた配慮が必要になります。例えば、職場では、集中して仕事ができるように、一度に複数の仕事を頼まず、1つずつお願いすることも役に立ちます。

また、ASDでは光や音などに敏感な「感覚過敏」もよくみられます。その場合は、音を配慮して静かな環境で仕事できるようにするなどの配慮が必要です。

ASD当事者の話

友人とのつきあいで失敗

ASDの人は実際にどんな行動や思考をしがちなのでしょう。

30代の男性・山田さん

30代の男性・山田さん(仮名)はやはり、人とのコミュニケーションに苦労してきました。「友人に、会えないか会えないかと何度もメールや電話をしてしまった。相手の予定を考えなかった。友人はうんざりしたらしく、しばらく会いたくないと言われた」。また、職場で女性の上司と面談したときは、「何でも話してくださいと言われ、性的な悩みを話してしまった。仕事に関してなら何でもいいという意味だったようだが、僕はプライベートでもいいと思った」。こうしたエピソードには、はっきりした言葉で言われないと相手の意向をつかみにくいASDの特性がよく現れています。

また山田さんは、こだわりの強さが勤務中にも現れます。たとえば仕事にマニュアルがないのはおかしいと感じました。「最低限のマニュアルは必要。しかもマニュアルはフルカラー印刷で、図をふんだんに使い、文字も大きくて読みやすいものにすべき」。仕事で使い終わった書類を誰も整理しないことも許せませんでした。「整理しなければ書類はどんどんたまっていく。自分が整理しようとしたら、それよりこっちの仕事を先にしなさいと言われた。変だなと思った。職場には ”整理整頓” というポスターも貼ってあるのに」。しかしこうした態度は周囲の人には「融通がきかない」と思われることがあります。

自分を見つめて改善

山田さんはあるとき「自分が絶対正しいと思うから怒りがわくのだ」と思うようになりました。そこで日々の怒りをノートに記録して見つめ直すことにしました。その結果、「そこまで怒ることはないのかもしれない」「大目に見ることや若干の誤差は許してもかまわない」と気持ちを切り替えるようになりました。自分の特性を冷静に観察することで人づきあいを改善させていったのです。

ASDの人たちがグループで学ぶ

昭和大学烏山病院が行う、ASDの人たちがグループでコミュニケーションのコツを学ぶ場

一方、昭和大学烏山病院ではASDの人たちがグループでコミュニケーションのコツを学んでいます。参加者はそれぞれの悩みや思いを打ち明けながら話し合います。精神保健福祉士など複数の専門家もアドバイスします。「関係性を深めるには」というテーマでは「相手のことをよく知るのが大事」「最初は自分のキャラを抑え気味にしたほうがいい」などの意見が出ていました。

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詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2022年11月 号に掲載されています。

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