大人の「注意欠如・多動症(ADHD)」とは?特徴や治療を解説!

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発達障害脳・神経

子どもだけではない!大人の「注意欠如・多動症(ADHD)」

「発達障害」は、子ども特有のものではありません。成長した後も症状が持続したり、大人になってから気づく人も増えています。中でも、「注意力に問題が生じる・落ち着きがない」などの特徴がある「注意欠如・多動症(ADHD)」は、成人の3〜4%が持っていると言われており、診断を受ける大人が増えています。

発達障害は、子どもの頃から症状が現れ、大人になってから発症するものではありません。しかし症状が軽い場合、または周囲の環境によっては見過ごされることもあります。大人になると、就職や結婚などによって行動の範囲や人間関係が複雑になります。それに対処しきれなくなったときに問題が表面化し、症状に気づくことがあります。

大人のADHDの特徴

ADHDは「注意欠如・多動症」ということで、子どもも大人も同じく、「多動性・衝動性」による特徴と「不注意」による特徴があります。

多動性・衝動性による特徴

多動性・衝動性による特徴

多動性・衝動性による特徴として、「目的のない動きをする」「感情が不安定になりやすい」「過度なおしゃべりや不用意な発言」などがあります。

多動のある方は、行動として現れるため、子どものときに気づかれる可能性が高いと考えられます。大人になると目に見える多動症状はおさまってくることが多いのですが、手足や内面の落ち着きのなさが残ることがあります。

不注意による特徴

ADHD 不注意による特徴

不注意による特徴として、「注意を持続するのが難しい」「ケアレスミスが多い」「片づけが苦手・忘れ物が多い」などがあります。

大人になると許容されないことの範囲が広くなり、本人が負う責任も大きくなります。不注意による症状は、特に社会に出てから仕事などに支障を来し、問題につながることが増えます。ADHDの特性から社会生活がうまくいかず、それが本人の自己否定感を強める原因にもなります。そういったストレスから、二次的にうつ病やパニック障害、対人恐怖症などを伴うことがあります。

しかし、こういった症状をうまくコントロールしている人もいます。大人では、自分の特性を理解し十分なスキルを獲得すれば、不得手な状況に対処して、個性を強みに変えることもできます。
例えば、「1つのことに考えが集中できない」ということは、アイデアが豊富で好奇心があるとも言えます。また、地道な作業などは苦手でも、フットワークの軽さや瞬発力が求められる場所では、もっと個性をいかすことができます。

大人のADHDをコントロールするためには?

ADHDの特性をうまくコントロールすることで、よりスムーズで快適な社会生活を送ることができます。治療としては、薬で症状をやわらげることや、行動の改善を図り、対処法を身につけることなどが行われています。しかし、大人の場合、薬以外の治療法はほとんど普及していないのが現状です。

大人のADHD 薬による治療

大人のADHDの治療薬として認可されているもの

大人のADHDの治療薬として認可されているものには、「メチルフェニデート徐放錠」と「アトモキセチン」、「グアンファシン」があります。中でも「グアンファシン」は、2019年6月にADHDの大人への使用が新しく認可されました。これらの薬は、いずれも「多動・衝動性」、「不注意」といったADHDの症状に広く有効だとされています。

比較的早めに効果を得たいときは「メチルフェニデート徐放錠」を選択します。のんだ直後から効果がみられ、12時間程度続きます。また、「アトモキセチン」や「グアンファシン」は効果が持続することが特徴ですが、効果が現れるまでに時間がかかるという面もあります。症状や人によって、違う薬が効いたりします。またどちらかだけでは不十分なときは、複数用いることもあります。

これらの薬の副作用としては頭痛・食欲不振・吐き気などが挙げられます。「メチルフェニデート徐放錠」には、不眠や動悸(き)がみられることもありますが、いずれも軽微なものだと言われています。様子を見て容量を徐々に増やしていきます。

大人のADHD 行動療法

しかし、薬はADHDそのものを根本的に治療するものではありません。薬は一時的に自己コントロールの困難を改善しますが、薬だけで生活全般が改善するわけではないため、行動の改善を図ることも必要です。まずは、教育を通して、ADHDの特性をよく理解することが大切です。自分を理解することで、自己肯定感を高めることにもつながります。そして、実生活における具体的な場面の対処方法を身につけ、習慣化していくことが重要です。

その方法の1つとして、医療機関で行っている「グループ・プログラム」があります。自分の特性に関して、または日常の忘れものや時間・金銭の管理、対人関係などについて、グループで話し合います。知識やスキルの習得だけでなく、同じ悩みをかかえる仲間と出会い、悩みを共有し共感することで、自己理解が深まることが期待できます。

このようなグループ・プログラムに参加できる場所は、かなり少ないのが現状です。今後、対応できる医療機関を充実させることが大きな課題になっています。参加したい場合は、主治医や医療機関に相談、または地域の精神保健福祉センターに問い合わせてください。

ADHD当事者の話

仕事でミス、パニック

ADHDの人たちは実際にどんな苦労をしているのでしょう。

30代の女性 北村さん(仮名)

30代の女性・北村さん(仮名)は「会社に遅刻する、電車を乗り過ごす、出勤の曜日や時間を間違える」など不注意によるミスを連発します。仕事は通信販売のウェブサイト制作ですが、「あるとき価格を間違って少ない金額を表示してしまい大変な騒ぎになった」と言います。また感情が不安定になりやすく「会議中に社長の意見とぶつかり、大泣きして「もう会社を辞める」と声を上げてしまった」そうです。

20代の女性 天野さん(仮名)

20代の女性・天野さん(仮名)はホテルのブライダル関連の受付をしていますが「一度に多くの電話が入るとパニックになる。予約を書き漏らし迷惑をかけたこともある」とのこと。マルチタスク(仕事の同時進行)がADHDの人は苦手なのです。また「クレジットカードで買い物をし過ぎた」ことも。好きなことに熱中し過ぎるのもADHDの特性です。人によっては薬物、アルコールなどにも依存しやすいため注意が必要です。

50代の男性 墨田さん(仮名)

50代の男性・墨田さん(仮名)は、大学を卒業し半導体メーカーに就職しましたが「仕事の段取りができず期限を守れなかった。さぼっていると思われた」と言います。会社の評価は下がり昇進も遅れ「なんで俺はできないんだ。生きている価値もない」とまで思いました。ADHDと診断されたのは入社して20年近く経ってから。「もっと早く気付いて対処していたら自分の人生も変わったのでは」と語っています。

自分の努力で切り抜ける

この3人は自分の特性にどう対処しているのでしょう。たとえばこんな努力をしています。

忘れ物をしないために、電子タグを財布などの大事なものには必ず入れる

北村さんは忘れ物も多いため「それを防ぐ電子タグを財布などの大事なものには必ず入れておく。見失ったらスマートフォンを使って見つけ出す」と言います。

聞いたことは何でもメモ帳に書く

天野さんは「聞いたことは何でもメモ帳に書く。入り口の鍵の番号からスタッフの名前や電話口での印象まで」。メモ帳はお守りのようにポケットに入れているそうです。

妻の腕時計を借りて使う

墨田さんは妻の腕時計を借りて使います。「男性用の腕時計はかさばるので、つい外してしまい、外すと必ず置き忘れる。妻の時計は小ぶりなので外さない。外さなければなくさない」というアイデアです。

また、3人ともADHDの薬を処方され効果を実感しています。北村さんは「のまないと頭の中がざわざわし、考えがぐちゃぐちゃになったり、動き回ったりしてしまう」と言います。墨田さんは「段取りが多少は読めるようになる。そうすると周りも評価してくれる」と言います。

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詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2022年11月 号に掲載されています。

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