心不全の薬による治療

心不全の治療の基本は生活習慣の改善と薬の服用です。
心不全の薬にはさまざまな種類があり、主に4つのタイプに分けられます。これらの薬は効能が似ていても作用する場所がそれぞれ異なり、数種類の薬を併せて服用する場合もあります。
心臓を保護する薬

ACE阻害薬、ARB、アルドステロン拮抗薬などは、特に心不全の初期の段階から使われます。血圧を上げるホルモンの働きを妨げることで血圧を下げ、心臓を保護します。
心臓を休ませる薬

β(ベータ)遮断薬は、血圧を下げたり、脈を遅くしたりすることで心臓の負担を軽くします。少量から始めて徐々に増量していくと心臓の働きがよくなっていきます。
心臓を楽にする薬

利尿薬は、体の余分な水分を尿として排出させるものです。むくみや息苦しいなど、うっ血による症状を改善させます。
心臓を力づける薬

強心薬は、心臓の筋肉に作用して、血液を送り出すポンプ機能を強くします。
新しい治療薬の登場
最近、4つのタイプの薬とは異なる仕組みで心不全を改善させる薬が登場していて、特に注目されているものが次の3つです。
ARNI(アーニー:アンジオテンシン受容体遮断薬・ネプリライシン阻害薬)
血圧を下げて心臓への負担を軽くし、心臓を守るホルモンの量を増やして、むくみなどの症状を改善する薬です。既存の薬からARNIに替えたことで心不全による入院が約20%減ったというデータがあります*。
* McMurray JJ, et al. N Engl J Med. 2014
SGLT2阻害薬
尿から糖を排泄させる薬です。血糖値を下げ、体の余分な水分や塩分を排出させる作用があります。高齢者や再入院を繰り返す人、腎機能が低下した人、比較的症状の軽い人などにも幅広く使える薬だと考えられています。
イバブラジン
心拍数を下げることに特化した薬です。心拍数が下がると心臓を休ませることができるので、心臓の機能の維持・回復につながります。
以前から、心拍数を下げるためにβ(ベータ)遮断薬が使われていますが、β遮断薬には心臓の機能を一時的に下げるという働きもあります。これに対してイバブラジンは、心拍数だけを下げるため、よりきめ細かい治療が可能になります。
そのほか、近年、HCNチャネル遮断薬、sGC刺激薬も心不全の治療薬として承認されています。
重症心不全の治療

心臓の機能がひどく低下し、生活習慣の改善と薬の服用では進行を抑えるのが難しい場合を「重症心不全」といいます。
重症心不全のうち、心臓が正常に収縮しなくなった一部の人に、「心臓再同期療法」が行われます。これは特殊なペースメーカーを使い、心臓の左右を同時に刺激することによって、心臓が血液を送り出すリズムを調整する治療法です。
さらに重症の場合は、心臓移植が検討されます。心臓移植には、亡くなったあとに心臓を提供してくれるドナーが必要となりますが、その数が圧倒的に不足しているのが現状です。そこで、心臓移植を待つ間、低下した心機能を補うために、補助人工心臓を使うことも検討されます。
心機能の低下を回復させるには

心不全は、心臓の機能が低下して十分な量の血液を全身に送り出せない状態です。心臓は1日10万回以上も拍動しているため、健康な人でも年齢が高くなるにつれ、心臓の機能は低下していきます。
心不全を完全に治すことはできませんが、治療を継続することで心臓の機能を回復させることは可能です。心筋梗塞や高血圧などから「急性心不全」が起きたとしても、きちんと治療を継続すれば、日常生活を普通に送ることができる人もたくさんいます。
しかし、薬の服用や治療を中断したり、放置したりすると、急激に心機能が低下します。入院を繰り返すうちに機能がどんどん落ちて、やがて命の危険にまでつながってしまいます。
日常生活で注意すること(塩分のとりすぎや感染症など)

【日常生活で注意すること】
- 食塩のとりすぎ(目安:1日7g以下)
- かぜなどの感染症
- 疲労感や息苦しさなど症状の悪化
- 薬の勝手な中断
日常生活で気をつけたいのは「食塩のとりすぎ」です。食塩をとりすぎると血圧が高くなり、心臓に負担をかける原因となります。食塩の摂取は1日6〜7g以下を目安として減塩を心がけましょう。
また、かぜなどの感染症にも注意してください。特に、発熱をきっかけに心不全が悪くなることがあるため、日ごろから気をつけて、予防することが大切です。
疲労感や息苦しさは、肺に水がたまったりして起こる症状です。以前よりひどくなったと感じたらすぐ受診しましょう。そして、自己判断での薬の中断はけっして行わないようにしてください。