2017年11月25日(土)未来人のコトバ

カリフォルニア大学教授・医師 新原豊さん 「常に喜んで挑む」

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アメリカで、強い痛みを伴う難病と長年向き合ってきた医師がいます。カリフォルニア大学の教授、新原豊(にいはら・ゆたか)さんです。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校 医学部教授 新原豊さん
「患者さんにしかわからない痛み。バットで足のすねを思いきりたたかれるような痛み、それがずっと続く。」

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血液中の赤血球が鎌のような形になり、血管を詰まらせる「鎌状赤血球症」です。治療法が確立されておらず、あまりの痛みに、自ら命を絶つ患者もいるという病気です。新原さんは自力で治療薬を開発し、2017年、アメリカで承認を受けました。25年間、研究を続けた末の偉業でした。

患者
「薬のおかげで、ようやく自分の人生を楽しめます。」

多くの困難を乗り越え、患者たちが待ち望む薬を開発した新原さん。そのコトバに迫ります。

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野口
「今日(25日)の『未来人のコトバ』は、カリフォルニア大学・医学部教授で医師でもある新原豊さんです。「鎌状赤血球症」というのは、アフリカ系の黒人を中心に世界で2,500万人の患者がいると言われます。その治療薬の開発に四半世紀もの時間をかけた新原さんなんですが、通常、新薬の開発には大手製薬メーカーが巨額の資金をかけて行いますけれども、新原さんは自力で開発を続けてきました。その結果、アメリカ中の賞賛を集めたこの新薬の開発。25年に渡る開発の支えとなったコトバは“常に喜んで挑む”です。」

●常に喜んで挑む

11月、一時帰国していた新原さんを訪ねました。

野口
「“常に喜んで挑む”、この言葉の由来は?」

カリフォルニア大学ロサンゼルス校 医学部教授 新原豊さん
「聖書の中にある。クリスチャンの家庭に育ち、いろいろなことを教えられてきた。“常に喜んでいなさい、必ず守られるから”という意味。いろいろと振り返ってみると、どんな逆境のときでも常に前向きに進んでいると乗り越えられた。守られているという気がしてきて。守られているなら、くよくよせずに言われたとおり喜んでいればいい。自然と、それが自分の心の中でモットーになっていった。」

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カリフォルニア大学・ロサンゼルス校、通称UCLA。新原さんは、この大学で、長年、鎌状赤血球症の治療薬の開発にあたってきました。鎌状赤血球症は、赤血球が鎌状に変形して血管に詰まることで、骨の壊死(えし)や心筋梗塞を引き起こし、死をもたらす病気です。

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新原さんは東京都出身の58歳。アフリカで医療活動に取り組んだアルベルト・シュバイツァーに憧れ、アメリカの大学に進学しました。医師になりたてのころ、鎌状赤血球症の患者の診察を行い、衝撃を受けたと言います。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校 医学部教授 新原豊さん
「バットで足のすねを思いきりたたかれるような痛み。それがずっと続くんだと言う。実際に目の前で患者さんを見ていると、本当に悲惨で。私より若い人たちが苦しんで、退院できるときもあれば、亡くなる方もいる。これは何とかしないといけない。」

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当時、治療薬につながるさまざまな物質が研究されていましたが、有効なものはありませんでした。そんな中で新原さんが試したのが、アミノ酸の一種、グルタミン。患者に投与したところ、鎌状の赤血球がなくなり、元の丸い形になっていたのです。

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野口
「普通に戻っている?」

カリフォルニア大学ロサンゼルス校 医学部教授 新原豊さん
「(正常に戻るのは)8~12週間。患者さんの症状は2日目ぐらいから劇的に変わっている。100%効いていると確信できた。」

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しかし、薬の開発に向けた本当の戦いはここからでした。通常、新薬の開発は、副作用などを確認するための「治験」に、何百億円もの資金が必要です。新原さんは製薬会社に協力を求めましたが、アメリカ国内での患者数は少なく、大きな収益が見込めない薬を開発しようという会社はありませんでした。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校 医学部教授 新原豊さん
「製薬会社に『興味ありますか?』と、いろいろ行ったが、ほとんど課長以上まではいかなかった。ほとんど無視される状態。これはもう(薬は)できないのかな。」

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それでもあきらめなかった新原さんは、ベンチャー企業を設立。自ら、投資家や企業を回り、病気の苦しみを訴えることで資金を集め、研究を軌道に乗せました。しかし、最終段階で新たな壁が立ちはだかります。一部の資金を出資していた投資ファンドが突如、会社の乗っ取りを図ろうとしたのです。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校 医学部教授 新原豊さん
「ちょうど国際医学会で発表して、研究の面では頂点に立ったときに、急に襲ってきた。私を会社から追い出すことに彼らは成功して、私もそんなに強くないから、あきらめそうだった。そこにくるまでに500人近くの人たちが、私たちを信じて出資してくれた。彼ら(ファンド)に任せたら、彼らだけが儲けて会社をつぶすのがパターン。そんなことさせたら、とても自分は生きていけない。」

新原さんは、不当な乗っ取りだということを立証するため、ファンド側の言動を細かく記録。訴訟の構えを見せたところ、ファンド側は経営から撤退しました。会社に戻り、研究を続けた新原さん。2017年、アメリカで医薬品としての承認を受けると、メディアは大きく報じ、患者からは喜びの声が上がりました。

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治験で薬を服用した患者
「ようやく自分の人生を楽しめます。グルタミンのおかげで私の生活は大きく変わりました。ほかの患者たちにも、ぜひこの薬をすすめたいです。」

野口
「今振り返って、ちょうど25年間。どんなふうに感慨を持たれる?」

カリフォルニア大学ロサンゼルス校 医学部教授 新原豊さん
「だいぶ失敗したと思う。失敗をしても、どこかで守られている。」

野口
「言葉はそのときに支えになった?」

カリフォルニア大学ロサンゼルス校 医学部教授 新原豊さん
「すべてうまくいっているときは必要ないが、だめになったときに“喜んでいなさい”と言うと、必ず何かが起こるという気持ちになる。きっとこれも何かの糧になるから、必ず正しいことだったら道が開けるから、という確信がどこからか湧いてくる。」

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野口
「“常に喜んで挑む”という新原さんのコトバですけれども、相場さんはどんなふうに聞きましたか?」

作家 相場英雄さん
「非常に小説向きですね。ただし、私向きではないです(笑)」

野口
「でも、1つのことを成し遂げる、もちろんすべてうまくいっていたわけではないでしょうけど、やっぱり意思の強さも感じましたが?」

作家 相場英雄さん
「やはり使命感の強さ、その一筋だと思うんですよね。私にはとてもまねできません。」

野口
「まねできないですけど、やっぱり敬虔なプロテスタントでいらっしゃいますし、意思が強いんだなと痛感しました。」

八木
「柔らかさもあって、芯も強くて、すばらしい方ですね。」

野口
「この医療用のグルタミンを製造する技術を持っているのは、実は日本のメーカーは多いそうで、今後、日本の企業にもいろんな影響があるかと思います。」

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