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平成20年2月12日
NHK第2次コンプライアンス委員会


経営委員会からの特別要請事項に対する緊急提言
―NHK職員の株取引不正疑惑に関する事後対応に関して―

 本緊急提言は、経営委員会からの特別要請事項として発せられた「今回のNHK職員による株取引に関する不正疑惑を受けての事後対応」に関するコンプライアンス委員会としての考えをまとめたものである。
 言うまでもなく、公共放送NHKの職員が、報道目的のための情報を私益のために悪用したことは放送人としての精神を踏みにじる行為であり、言語道断のことである。こうした報道機関の根幹を揺るがす重大事態を引き起こし、再び、視聴者の皆さまの信頼を損なったことで、NHKはいま、未曾有の危機に直面していると言わざるをえない。
 当然、NHK関係者は、今回の事態を深刻に受け止め、深く反省するとともに強い危機感を共有することが強く求められる。経営委員会の諮問機関であるコンプライアンス委員会としても同様の思いであるが、さらに加えて、NHKという組織に対し、強い憤りと不信感、さらには、既になされている改革提言が全く生かされていないことへのもどかしさを禁じえない。前期および第2次コンプライアンス委員会は、これまで、視聴者の皆さまに負担していただく受信料によって成り立つ公共放送NHKにとって、コンプライアンスの徹底はきわめて重要であり、会長以下経営陣が強いリーダーシップを発揮し、真に実効性ある体制を構築するよう、強く求めてきたところである。
 また、個々の不祥事を生み出した根底には、NHKの組織構造や組織風土、役職員の意識のありようの問題があることを、再三強調し、抜本的な組織改革、意識改革に取り組む必要性を訴えてきた。
 今回の不正疑惑については、事柄の性質およびそれらがもたらす社会的影響において、これまでの不祥事とは比べ物にならないほどの重大さと深刻さが潜在しており、当委員会のこれまでの指摘や提言が、結果的に、NHKという組織やその役職員の全員の心には響いていなかったのではないか、あるいは、その特権意識によって等閑視され、真摯には受け止められていなかったのではないか、ということで、大変残念な思いである。
 このうえは、新会長以下経営陣が、「もう後はない」との強い決意と覚悟をもって思い切った改革を断行しないかぎり、失われた視聴者の皆さまの信頼を取り戻すことはできないし、NHKに未来はないということを銘記すべきである。
 そのために、現在執行部において実施・検討中の施策で事足れりとするのではなく、本年1月24日の経営委員会からの申し入れはもちろん、当委員会の以下の緊急提言もとり入れた、真に効果的な施策に早急に取り組み、コンプライアンス体制および組織の立て直しを早急に図るべきである。

1 全国緊急調査の評価および全容解明・原因究明に向けた施策

(1) 事態発生後、即座に全国緊急調査の実施に踏み切ったことは、統一的な対応方針や体制がない中での拙速の感は否めない。今後の検証や再調査の結果、すでに発表した結果を修正するといった愚は避けねばならない。

(2) 全国緊急調査の設問等実施方法について、職員の私的財産に踏み込む調査ゆえの限界はあるにしても、結果の信用度を高めるための、以下のような工夫の余地があったと思われる。

1 本人の株取引の有無のみを問うのではなく、同僚ないしは知人による株取引の見聞きの有無を問う設問方式を追加すること。

2 NHK外部に窓口等を開設したうえでの、匿名によるアンケートを実施すること。

(3) NHKによる全国緊急調査は、事態発生を受けてただちに行われた暫定的な調査ということから、今後も精査を継続するとともに、早急に外部有識者を長とし専門家で構成する第三者委員会を設置し、本格的な全容解明・原因究明と実効ある再発防止策の検討にとりかかるべきである。

(4) 再発防止のためには徹底した全容解明と原因究明が必要である。今回のポイントとしては、以下の点が挙げられる。

1 手口ないしは手段について全容を解明すること

2 このような行為に及んだことに対する理由、およびそれに対する本人の意識について究明すること。
このための本人ヒアリングは、上司や職員ではなく、外部の第三者が温情等を排し客観的な立場で行うことが望ましい。

(5) 原因究明にあたっては、予断を排して臨むべきである。とくに、本人だけが悪いというだけですむのか、3人に共通の日常の仕事ぶり、人事評価や組織的な問題はなかったのかという視点をもって作業に当たるべきである。

2 再発防止策の策定にあたって

 今般発覚した事態の重大さおよび深刻さからして、社会は、事後対応としてNHKがどのような再発防止策を打ち出すかを注視している。一般的な予想ないしは期待に十分応えるだけのインパクトや効果をもつ防止策を打ち出さないかぎり信頼回復が遠のくことを、銘記し、特に以下の点に留意した対策を講じるべきである。

(1) インサイダー取引に関する内部規定の整備と今回の事態への対応
 職員就業規則等にインサイダー取引に関する禁止や違反の場合の厳しい処分並びにその抑止のための関連規則を明確に規定し、所要の手続を経て周知徹底すべきである。また、今回の不正疑惑の関係者に対しては、同様の事犯抑止や綱紀粛正の観点も加え、厳正かつ適正な処分を行うべきである。

(2) インサイダー取引防止のための研修等の強化
 NHKも上場企業並みに、インサイダー取引について敏感で正確な知識をもち、その防止対策に真剣に取り組む必要がある。インサイダーについての研修の一環としてe−ラーニングを行う際には、一般的な知識に加えて、異常な取引は常に監視されており摘発される可能性が高い、つまりインサイダー取引は、結局は割に合わない違法行為であるという点まで、徹底的に頭に入れさせる必要がある。

(3) ニュース原稿等へのアクセスの厳格化
 報道情報端末へのアクセス記録の長期保存はもちろん、ニュース原稿の取り扱いに関する責任体制の明確化とあわせて、報道情報端末にアクセスできる職員や契約スタッフ等の範囲の絞り込みが急務である。その範囲の見直しあたっては、ゼロベースから統一的な基準を作成したうえで、個別の必要性を厳格に判断すべきである。その際、1人ではなく複数の目によるチェックが必要である。また、インサイダー情報に接する可能性のある者には、その在職中は一切の株取引を禁止するなどの方策を検討するほか、定期的に(例えば、年1回)株取引の有無やインサイダー取引はしてない旨の確認書の入手を検討すべきである。

(4) 厳正な情報管理の徹底
 上記(3)を含め、より一般的に厳正な情報セキュリティ対策の構築が急務である。これまで頻発した情報漏えいやリークも含め、全役職員がまず、情報管理の重要性についての意識改革を図る必要がある。そのために、情報管理ルールの整備やシステム改善はもちろん、情報関係の研修や啓発活動の位置づけを見直すなど日常的な取り組みを怠るべきでない。

(5) 組織改革のための緊急特別プロジェクトチームの編成
 会長以下経営陣がリーダーシップをとって、放送現場での正当な規制を忌避する“聖域”意識を払拭するための組織改革を強力に進める必要がある。そのためには、NHKの現状を真に憂える、旧来の組織風土にしばられない若手職員数名(自薦ないしは他薦)による、各部門からの選出者から成る緊急特別プロジェクトチームを会長直属のもとに組織し、期間限定による改革作業を行わせ、その工程を記録にとどめ、後日、公表することを求める。

(6) 役職員の意識や行動の健全性についての検証の強化
 当委員会としても、今後は、NHKのコンプライアンスの取り組みに  ついて、形を整えるだけで終わらずに、各役職員に確実に浸透しているかどうかを徹底的に検証する必要性を痛感している。そのためには、組織と個人の信頼関係に立脚しつつも、全役職員の意識や行動の健全性を個別具体的にチェックする仕組みを強化すべきである。単に、コンプライアンスの徹底に向けた「工程表」の策定、あるいは各種対話活動や視聴者(信頼回復)活動に取り組んでいる、というだけではコンプライアンスの徹底の傍証にはならないものと心得なくてはならない。

3 内部統制システムの問題点と是正方向

 今回の事態をきっかけに浮き彫りとなったNHKの内部統制構築上の問題点は次のとおりであり、早急に是正を求める。

(1) 内部統制システム構築の中で、各職場、各業務のリスク洗い出しとそれへの対応は重要な要素をなすが、ただ洗い出して並べるだけでなく、緊急度および重要度に応じてランク付けをし、緊急度および重要度の高いリスクには即座に、機敏に対応するという姿勢が不可欠である。このような視点から全役職員がリスクに対する意識そのものを改めるとともに、その洗い出しの作業を見直す必要がある。

(2) これまでのコンプライアンス施策も包含する形で内部統制システムの構築を進めているが、NHK本体だけを先行させるのではなく子会社等も含めたNHKグループ全体として、統一的なIT統制を的確に組み込んだものとすべきである。

(3) 内部統制は、NHKの職場によって除外や例外を設けるのではなく、NHK全体に業務プロセス統制とともに全社統制が効果的に作用するような経営管理の手法として一律的に構築すべきである。

4 その他

(1) 全国緊急調査を担当した理事が全容解明を待たず辞任したことは、責任放棄ととられてもしかたがない。両理事、さらには、その後辞任した会長等に対しては、一定期間、調査や再発防止策の検討を指揮した者として、その過程での所見等を、第三者委員会が聴取する必要がある。

(2) インサイダー取引疑惑の隠蔽工作があったとする、一部週刊誌報道に対しては、その報道の真偽に関する誤った憶測を排するため、NHKが正式に証券取引等監視委員会に対し、NHKに通知した日時を問い合わせ、回答をもらうことにより、正確な事実関係を公表するという方法も検討に値する。