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NHKコンプライアンス委員会 最終答申 |
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平成19年6月26日 |
コンプライアンス委員会(以下、本委員会)は、平成18年12月26日に経営委員会に第一次答申を提出後、さらに6回の正式会合のほか、NHK経営委員会、NHK‘約束’評価委員会、およびNHK職員(含む地方局)との意見交換を複数回実施することで、NHKを取り巻く全社的な改善の現状についての確認を行った。
また、平成18年8月以降実施された全部局業務調査や職員意識調査を含め、NHKがこれまでに実施してきたコンプライアンス対策について客観的かつ独立的な立場から検証を行うとともに、本委員会が公表した第一次答申についても当初の趣旨に従って自らフォローアップを行い、諮問に対する最終答申を行いうる段階に至ったものと判断した。
以上の検討を踏まえ、本委員会は、平成18年9月26日付の経営委員会からの諮問事項である「NHKのコンプライアンス抜本対策(含む全部局業務調査)に関する評価と提言」に対し、以下のとおり「最終答申」をまとめ、経営委員会に提出した。
1.現状認識
(1) NHKは、放送法に基づく特殊法人として昭和25年に設立されたわが国唯一の公共放送であるが、その起源は、大正13年11月の設立にまで遡ることができる歴史ある公共放送機関である。現在は、テレビ5波(地上2、衛星3)ラジオ3波の8チャンネルを通じ全国に放送サービスを提供しており、その事業規模は役職員数約12,000名、渋谷の放送センター以外に53の地域放送局を全国に擁し、受信料を中心とした事業収入は約6,400億円(平成18年度収支決算ベース)と、最大民間放送局の1.5倍を超える、わが国最大の放送局でもある。設立以来数十年以上に亘り、NHKは視聴者・国民に最も身近な放送局として、その社会的任務を遂行するため様々な努力を重ね、今日のブランドを築いてきた。
(2) しかし、平成16年7月に発覚した芸能番組プロデューサーによる経理不正事件を契機とする複数の不祥事等が明らかとなるとともに、会長以下執行部の経営判断を含めた事後対応の不適切さも相俟って、NHKはそれまでに築いてきた視聴者・国民の信頼を大きく失墜させることとなった。かかる事態は、ピーク時には128万を超える受信料の不払い・保留の発生という形で顕在化することで、NHKの存立基盤である受信料制度をも揺るがし、政府・政党の委員会や国会等の議論にまで発展したのである。その結果、昨年6月の「通信・放送の在り方に関する政府与党合意」においても、NHKのガバナンス改革やコンプライアンス態勢の強化が指摘されるに至り、今やNHK改革は視聴者・国民の重大関心事となっている。
(3) そうした中、NHKとしても平成16年の夏以降、経理および業務の両面での不適正な事案を是正および撲滅するため、様々な取り組みに着手することとなった。すなわち、かかる取り組みとしては社外有識者からなるNHK会長の諮問機関「NHK業務点検・経理適正化委員会」の設置、会長を長とするコンプライアンス推進委員会の設置、外部通報制度の創設、全部局を対象とした業務総点検活動の実施、コンプライアンス研修の拡大・充実および役職員を対象とした倫理行動憲章や行動指針の制定、さらには他社に先駆けたCOSOフレームワークの導入等々が挙げられる。また、昨年1月には新生NHKの構築に向け、平成18年度から20年度を対象とする3か年経営計画を公表、その中で、改めて視聴者第一主義を宣言し、コンプライアンス(法令等の遵守)の徹底を最重要課題に掲げる等、自らの改革に取り組む強い決意を示したのである。
(4) しかし、このような改革に向けた取り組みを進めていた矢先の昨年4月、新たに深刻なカラ出張問題が発覚した。これはNHKの役職員に強いショックと無力感を与えたが、その後も不適切な経理処理以外でも、職員が摘発・逮捕されるといった社会的・倫理的に問題のある事案も多数発生しており、全職員の精神面でのカウンセリング等も含め、抜本的な対策が不可避とされている。確かに、NHKにおいては、既に全社的な視点にたっての種々の改善策を講じてきてはいるものの、いまだ十分な成果を見届けることができず、結果として受信料の不払いを含め、様々な問題が未解決の状態にあるのである。ただ、幸いにも平成18年度に入り、受信料については徐々に回復傾向を示しているが、NHKがこれまでに失った信頼を取り戻すことは決して容易なことではなく、新生NHKの構築に向けた改革の道のりは極めて厳しい状況にあると捉えられる。
(5) このような現状に関して、NHK経営委員会は、強い危機感を抱き、有識者や専門家の意見を踏まえ、NHKのコンプライアンスに関する監視・監督を一段と強化する方針を明らかにした。その結果、平成18年9月26日、経営委員会は自らの諮問機関として「NHKコンプライアンス委員会」を設置し、「NHKのコンプライアンス抜本対策(含む全部局業務調査)に関する評価と提言」を諮問したのである。コンプライアンス委員会としては、NHKの既存の仕組み、施策および体制のどこに問題が潜んでいるのか、或いは、NHKの構成員としての全ての役員及び職員の意識に緩みや甘えはないかなど、全てを原点に戻して、改革のための原因究明を行うとともに、実効性ある内部統制システムの構築に向けた提言を行うことを、今般の最大の課題と認識し、この9か月間、論議・検討を重ねてきたものである。
2.問題意識
1.NHKに対する批判について
- 視聴者のNHKに対する批判には、申し開きのできない経理・業務管理面での不適切な処理に対する糾弾、番組内容等に至るNHKの日常的な業務運営や組織体質に対する疑念等複数の要因があるが、最近は、さらに受信料の支払契約に関わる不公平感や、受信料制度に基づく放送の仕組みそのものへの不満等が高まっているように感じられる。
- したがって、NHKが、NHKという事業体に対する出資者とも言うべき視聴者の信頼基盤を確かなものとするには、まずは、経理・業務の適正化(不正の撲滅)と視聴者志向の組織体質への転換を図り、「受信料の適正かつ効果的・効率的運用」を実現していくことが何よりも重要なことである。同時にまた、公共放送として、視聴者に対し、受信料対比でより一層高い付加価値を提供し、公共放送の具体的成果を目に見える形で示していくことが求められる。
2.これまでのコンプライアンス対策について
- 経営委員会は、かつて「NHKにはハコモノはあるが魂が入っていない」と指摘したが、NHKにおけるコンプライアンスの徹底状況は、平成16年の不祥事発覚以降の様々な取り組みの前後で、どの程度改善したのか、また職員全体の意識や士気はどう変化したのか。端的に言えば、外形的には一般企業に見劣りしない仕組み、施策および体制が整備されているにもかかわらず、運用面での有効性がなかなか現れていない。そればかりか、むしろ役職員の間には、コンプライアンスの更なる徹底に対して、疲弊感や閉塞感さえ漂っている。このことは、これまでの仕組み、施策等が決して十分に機能していないことを端的に示すものである。
- これらは「既存の仕組み、施策等のフォローアップがない」「仕組み、施策等が実際の業務やリスクへの対応に合致しない」、「NHKに固有の役職員の意識や組織体質等を踏まえた対応策になっていない」、或いは、「そもそも問題の所在を的確に把握していない」等々が要因と考えられるのであり、これまでの取り組みに対する総括を含めた早急な原因の究明と、それへの迅速かつ的確な対応が必要である。
3.組織風土と役職員の意識について
- 役職員一人一人に、「NHKの事業は受信料により成り立っている」との自覚が不足ないし風化してはいないか。公共放送(人)としての使命感や価値観が揺らいではいないか。また、経営層や管理職層においては、内部統制に対する正確な理解と説明責任に対する明確な意識が備わっているのか。NHKでは会長以下執行部において、常時、こうした課題を的確に検証し、必要な措置を迅速に講ずる姿勢が強く求められる。
- NHKの重視する、報道の自由、編集権および良い番組を制作するための創造性(creativity)の確保と、コンプライアンス(法令遵守)の徹底および受信料の効果的・効率的運用は、いわば信頼に足る活力あるNHKを確立するために不可欠な対応と言える。しかしながら、役職員の一部には、未だに、これをトレードオフの関係と解し、旧態依然とした過去の組織風土に執着を示すものもいる。そうではなく、過去との毅然たる決別を前提に、上記の対応措置は当然にして全てが達成されるべきものであることを、NHKの組織内に浸透させ、全役職員の意識改革を図ることが極めて重要なことである
4.NHKにおけるガバナンスの特殊性
- NHKのガバナンスやコンプライアンスのあり方を議論する際、以下のように、一般企業とは異なるNHKの特殊性を正しく理解しておく必要がある。
- 第一は、NHKは「特殊な負担金」とされる受信料により安定的収入がほぼ保証されている中、官公庁同様の予算執行型の事業方式(単年度予算主義)をとることである。このため、番組・サービスの改善やコスト削減等の効率化努力によって収支構造(営業業績)を改善させようという力が自律的に働きにくい。
- 第二は、NHKの組織が、会長を最終責任者とし副会長や理事を会長の機関とする会長の独任機関であり、また、典型的かつ強固な機能別組織によって構成されることである。理事等は会長により任命されるため、会長と理事等との間には、一般企業の社長と取締役との間に見られるような相互牽制機能が発揮されにくい。
- 第三は、報道機関として政治や行政と一定の距離を置き、中立性や多様性を確保する必要があるとして、NHKに対する第一義的な経営監視機能を、視聴者の代表からなる経営委員会が担っていることである。
- このようなNHK固有の特殊事情を鑑みるに、一般の企業に導入された手法や、株主によるガバナンスを模した仕組み、或いは、経営層における相互牽制関係を前提とした施策などを、NHKにそのまま導入しても、それだけでは期待通り機能しない可能性がある。
3.評価と提言
1.トップマネジメントのリーダーシップの強化
平成18年12月26日第一次答申
トップマネジメントである会長以下執行部は、NHKに課されている社会的使命(ミッション)を明確に認識するとともに、リーダーシップを発揮して、NHKの現状に対しての危機意識を全役職員に示すことで、役職員一丸となった改革のための取り組みを実践することが喫緊の課題といえる。併せて、現在のNHKの仕組み、施策および体制がどのように機能しているのか、各業務部門縦割りの弊害を除き、会長および理事が自ら直接報告を受け、指示ないし指導を行うなど、組織横断的な風通しの良い経営が推進される環境を構築することが求められる。
(1)現状認識の共有
- 会長以下執行部は、自ら指示・要請したコンプライアンスに関する方針・施策等がこれまで十分に機能しなかったことを真摯に受け止めるべきである。コンプライアンスに関する執行責任は会長以下執行部にあり、コンプライアンスの徹底は、トップの意識ややる気にかかっているのである。
- 会長以下執行部は、これまで以上に一体となり、自らの危機意識を明確に発信し、かつ、実践・行動に移すべきである。昨今、会長以下執行部から視聴者および職員に発せられる、公共の意識に基づいたメッセージが増えていることは評価すべきである。但し、職員の間には、「執行部と現場第一線には距離がある。執行部にはもっと現場を知って欲しい」、「現場第一線にわかりやすい情報提供をして欲しい」といった声も根強く、具体的な成果が得られるには至っていない。職員に発信した方針やメッセージを放置せず、それがどの程度職員に浸透しているかをフォローアップすることが大切である。
(2)組織横断的な経営の推進
- 内部統制システムを、適切に運用かつモニタリングし、その効果を評価することは会長以下執行部の主要な役割である。現行の仕組み、施策および体制がどのように機能しているのかを(現場レベルの)担当部門の評価だけに任せず、会長以下執行部が自ら評価結果の報告を受け直接指示ないし指導を行うといった、組織横断的で、かつ、風通しの良い経営が推進される環境を構築することが求められる。役職員に対し、直接的なメッセージを繰返し行うだけでなく、コンプライアンスに関する明確な基準・ルールを示し、それを公正かつ厳格に適用することなどにより、トップのリーダーシップを鮮明に打出していく必要がある。
- 一方で、視聴者に近い現場第一線や地方局職員の危機意識や問題意識については、これを収集することに努めるだけでなく、その本質を突き止め、しっかりと経営諸施策に反映させるとともに現場第一線からの提案を積極的に取り上げるといった敏感な経営感覚を醸成していくことが、時宜に適った改革を加速させる上で、極めて重要である。
2.モニタリング態勢の強化
平成18年12月26日第一次答申
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モニタリング機能は、トップマネジメントの管理ないし統制機能を補佐するだけでなく、独立的視点から業務執行そのものを評価するものであり、健全かつ有効な組織環境を構築するために不可欠なものである。現時点でのNHKにおけるモニタリング態勢は、複数の不祥事等を防止できなかったことに鑑みて、十分な態勢にあるとはいえない。従って、健全な組織の構築を目指して、機動力と会計知識等の専門性を備えたモニタリング部門の再構築が必要である。同時に、現在、監査室、コンプライアンス室、経理局(中央審査センター)など複数あるモニタリング部門の役割・責任を明確にし、相互の重複も排除し、各々の職務遂行状況を適切に評価していくことが緊急の課題である。 |
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内部論理優先の思考ないし行動を改め、視聴者と真正面から向き合い、NHKすべての関係者に自ら説明責任を果たすことが求められている。当面は、第三者機関の活用等、外部の経営監視を強化することで自律的マネジメントを確立することが求められる。 |
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なお、公共放送の特殊性を考えた時、国でも政府でもない中立的機関として経営委員会が、より一層リーダーシップを発揮し、NHKへの監視・監督にあたることが極めて重要である。 |
<組織内部でのモニタリング>
(1)モニタリング部門の機能強化
- 健全かつ有効な組織環境を構築するためには、モニタリング部門の態勢強化が不可欠であるが、現在のモニタリング部門には意識面、職務遂行面で無視できない温度差があり、質量両面で早急な立て直しが必要である。
- 各部門の業務を円滑に遂行し、真に使命・役割を果たし得る組織とするため、現在、監査室、コンプライアンス室、経理局(中央審査センター)など複数あるモニタリング部門の役割・責任を明確にし、相互の重複も排除し、各々の職務遂行状況を適切に評価することが緊急の課題である。
- 内部統制強化の観点からは、モニタリング部門の一本化を含む統合・再編や、複数あるモニタリング部門を横断的にコントロールし、かつ、イニシアティブを発揮し得る会長直属の組織を整備することも検討すべきである。
- 今般、放送法改正対応の観点からも、NHKにおいて業務プロセス全体の見直しを含めた内部統制システムを構築するため、会長を長とする組織横断的プロジェクトを立上げたことは理に適ったものである。但し、複数のモニタリング部門が並存する中で、それぞれが独自の取り組みを、あれもこれもと現場第一線に発信し、職員にとって何が重要な取り組みなのか、何が主要課題なのか優先順位が判然としないといった状況とならぬよう施策や指示を交通整理することが必要である。
(2)監査室等の強化
- モニタリング部門の中心的役割を担う監査室の機能強化が必要である。監査手法として、抜打ち監査の導入や外部監査機関の活用等により監査の実効性を高めることも求められるが、現状ではNHKの事業規模や多様な職務内容から見ても専門能力、経験職種、年齢構成や人員数の面で限界もある。したがって、まずは、会計および経理等の基本的知識を始めとする専門性の強化が必要であるが、重点監査等掘下げた監査を行うには監査の機動性も重要であり、その際は経験以外のfresh-eye(新鮮な見方)の確保も必要である。
- 監査室等のモニタリング部門と様々な部門との間で、中堅や若手職員の人事交流を進めることや、コンプライアンスマインド(健全な遵法精神)を組織内に浸透させるため、一般企業でも採用されているように、将来のリーダー候補にいわば登竜門としてモニタリング部門を一定期間経験させることなども検討すべきである。
(3)日常的な業務プロセスにおける牽制体制の強化
- これまでの経験も踏まえ、不祥事発生リスクの高い部門があれば重点的な監査を行うことは当然である。例えば関連団体を含め外部との取引金額・件数が多い、職員の有する経費面の裁量が大きい、業務の独立性が高く相互監視も効きにくい等の観点から、高リスクと判断される部門があれば、重点監査を実施することが必要である。
- トップやモニタリング部門への情報の伝達のされ方(レポーティングライン)、トップと現場第一線職員との意思疎通のあり方、さらには、職員相互間のコミュニケーションの活発化等について必要な方策を講じるべきである。また、相互にチェックし合える職場の風通しの良さを確保しながら、既に設置されている通報窓口制度については、より実効性を高めるための工夫や方策を具体的に講じていくことが必要である。
<組織の外側からのモニタリング>
(4)外部による経営監視の強化
- NHKは、内部論理優先の思考ないし行動があれば、今こそこれを改め、視聴者と真正面から向き合い、受信料の適正かつ効果的・効率的な活用等について、NHKの全ての関係者に対し自ら説明責任を果たすべきである。報道の場面で、他者に向ける厳しい切口を自らに向ける必要がある。
- そのためにも‘約束’評価委員会等の第三者機関から得られる知見を経営諸施策に一層反映させるなど、外部の経営監視を強化するとともに、必要があれば調査機関の外部化も検討し、緊張感のある、自律的マネジメントを確立する必要がある。
(5)経営委員会の監督強化
- 今般国会に提出された放送法改正案が成立するならば、監査委員会の設置など経営委員会の責任・権限の強化、明確化を含む改革がなされるものと思われる。公共放送の特殊性を考えた時、国でも政府でもない中立的機関としての経営委員会が、いわば視聴者の代表として、あるいは視聴者利益の受託者として、より一層主導性(リーダーシップ)を発揮し、かつ高い透明性を持ってNHKへの監視・監督にあたることが不可欠である。それは、NHKの自治を守り、NHKの職員にもプライドの持てる、自立した組織へNHKを変革するために極めて重要なことである。
- そうした意味で、経営委員会が本年2月13日、コンプライアンス委員会第一次答申を踏まえ、会長および執行部に「コンプライアンスの徹底に向けた申し入れ」を行い、かつ、その進捗状況を定期的にモニタリングすると表明したこと、さらには、こうした取り組みを対外公表したことは極めて意義深いものといえる。経営委員会が自主自律を堅持し、会長以下執行部に対する適切な評価など、自らの権限を的確に行使することにより、経営委員会と執行部の緊張関係を高めることが、視聴者第一主義のもとでNHKの改革を加速するために必要である。
3−(1).全部局業務調査について
平成18年12月26日第一次答申
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現状を危機的状況と認識し、本調査に踏み切ったこと自体は評価に値する。但し、この調査のために投入された資源と手法に鑑みて、その効果は限定的であり、また局所的なものと解される。 |
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なお、この全部局業務調査の最終結果については、当該報告書の内容を踏まえ、コンプライアンス委員会としての評価は、再度行うこととする。 |
(1)調査結果の評価
- 平成18年8月から12月に実施された全部局業務調査については、会長以下執行部が現状を危機的状況と認識し、全組織を挙げて実施に踏み切ったこと、また業務管理の徹底や不正の防止・抑止といった面で、職員意識の向上に一定の効果があったことは評価する。但し、469名の職員による1063件、1137万円の不適切事案が明らかになったこと、また、これによりベテラン管理職を含む5名が懲戒処分となり、全体では183名の職員に処分が発せられた現実を踏まえれば、残念ながら日常の勤務管理、経費管理、業務管理といった基本動作が組織全体に十分に浸透していないと評価せざるを得ない。不適切事案の多くを占める出張旅費や交通費の精算等に限っても、これらは役職員が広く対象となる経理処理の基本であり、今後ルール・手続の妥当性の検証とともに、現場第一線レベルにおいて一定の相互牽制が働く仕組みを用意する必要がある。
(2)調査の目的と手法の検討
- 当該調査に投入された資源、期間、手法に鑑み、その効果は限定的・局所的と解すべきである。また、今後同種の調査を実施する場合には、調査目的を部局への牽制等に限定し、効果および効率の観点から手法も改善し、あるいは、監査室や中央審査センターの実施する日常的監査に組み込んで行うべきである。
- 今回のような形式的かつ総花的調査で把握可能なのは、いわば過失レベルの原始的な不正等の問題事案に限られ、平成16年度の不祥事以降連続して発生した確信・故意レベルの問題事案を明らかにすることは困難と理解すべきである。これら事案の摘発・防止の実効性を高めるためには、過去の不祥事の動機や手法を徹底的に分析し、リスクが大きいと予測される部門に抜打ち的な調査・監査を実施する等の対策が必要である。
3−(2).職員意識調査について
(1)調査結果の評価
- 外部機関に調査を委託する形で、職員の意識調査を実施した点については評価に値する。但し、調査結果からも明らかなことは部門・職種・年代層によっては未だに過去の慣例・慣行から抜け出せず、現状に危機感を持てない職員がいることであり、これは問題と言わざるを得ない。
- 一方で、この種の調査では1回限りのアンケート結果が示す数値自体にはあまり意味がなく、現状の数値を活用し、次に何を行い、次回調査でいかに改善させるかの方が遥かに重要である。したがってコンプライアンス諸施策に対する職員の受け止め、職場のコミュニケーションや風通しの良さ、通報制度等の活用状況、不正根絶のために職員が必要と感じる事柄等については、今後も定期的に調査を行い、その改善状況を定点観測してフォローアップを徹底することが必要である。
(2)調査結果の活用
- 調査結果をNHK内部の職員にイントラネットで公開するだけでは、情報発信の効果は極めて乏しいといえる。調査結果を材料に研修や職場討議を行う、あるいは責任者会議を開催するなどアンケートに協力した職員に実質的なフィードバックを行い、現状の共有と改善策の検討に有効利用することが重要である。そうしなければ、この種の意識調査は意味がないばかりか、次回以降のアンケートには二度と職員がまじめに協力しなくなる虞さえあることを理解すべきである。
- 今回のように、独立外部機関に委託した調査により、一定の客観性が担保されているのであれば、調査の内容と結果を広く一般に公開し、視聴者や世間の評価ないし意見を得ることも考えられる。外部の空気を敏感に感じとり、また、危機感をもって取り組んでこそ改革は成し遂げられる。透明性を重視した活動により経営の‘見える化’を進め、視聴者への説明責任を積極的に果たすことが極めて重要である。
- なお、この1年、経理面の不祥事以外に、一般刑事事件の部類に入る不祥事が増加傾向にあることについても留意すべきである。これらの不祥事がNHKの事業特性によるものなのか、職員個人の精神面での特性によるものなのか明確でなく、外部機関等を活用しつつ、十分な調査と冷静な判断を行っておくことが必要である。
4.組織風土と職員意識について
平成18年12月26日第一次答申
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報道、番組、技術等部門間の縦割り構造は極めて弊害が大きく、NHKの組織全体の円滑な意思疎通を遮断している側面がある。したがって、早急にこれを是正する方策を検討する必要がある。 |
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NHKが、公共放送として自らの編集権や創造性を重視するのは当然である。但し、これらはコンプライアンスや受信料の効果的・効率的運用といった原理・原則を遵守してはじめて享受できるものと理解することが大切である。 |
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コンプライアンスマインドの醸成、視聴者志向に根ざした組織風土の育成、組織全体にわたる公平感の浸透等、この機に、全役職員に対して、一丸となって働くことのインセンティブを与えるシステムや、人事面での公平な処遇システムについて、全社的視点から見直していくことが求められる。 |
(1)縦割り構造の是正
- NHKは、報道、番組、技術等の部門が独立して業務を行い、職員採用も別に行うなど部門間の縦割りが強い。これについては、専門性の育成・発揮といった側面では意義があるが、NHKとしての全社的な方針が十分に浸透せず、相互監視が効かず、協力体制が取りにくく、かつ、唯我独尊の内向き志向を助長する可能性もある。さらに、無用な対立軸やヒエラルキー、あるいは派閥や権力闘争を生みやすいといったマイナス面も大きい。職員が良好なコミュニケーションをはかり、共通の足場を築くことが極めて重要である。
- NHKにおいては、既に組織が官僚的になっており、現実問題として外部環境の変化に対し組織全体として適切に対応することが難しくなっているのではないか。また視聴者対応等についても、直接の当事者だけが対応し、関係部署間のチームワークで問題を解決するといった発想や姿勢が十分でない。問題の解決は当事者対応が基本であるとしても、視聴者第一主義を掲げる以上は、「組織横断的な対応や、部署間の意思疎通が不可欠である」との職員の声を真摯に受け止める必要もある。
- 組織風土は一朝一夕には変わるものではないが、全社一丸となって取り組むことができるのであれば、必ずや「変えられる」のであり、トップの意思と行動力により、早急にこれを是正する方策を検討する必要がある。
(2)放送局としての編集権、創造性と、コンプライアンス
- 公共放送の使命を果たすためにも、NHKが報道の自由、編集権、良い番組の制作および創造性(creativity)等を重視することは当然である。但し、報道の自由を守り、良い放送さえできれば他のことは黙認されるといった、思考・行動パターンが残っているとすれば、不正を見逃したり黙認したりすることに繋がりかねず、厳に改めるべき問題であるといえる。
- 実際、コンプライアンス諸施策に対する受け止め方は職種間、職場間で格差がある。地方局や営業担当など視聴者との接点に立つ職員はコンプライアンス活動を当然のものと理解する一方、それ以外の部署では、締め付け感を訴えるとともに、いまだにNHKの業務の特殊性のみを強調し抗弁する者も散見される。
- NHKの事業は公金ともいえる受信料収入により成り立っており、一般企業で言えば出資者にあたる視聴者の意向を何より尊重すべきである。編集権も創造性もコンプライアンス(法令遵守)や受信料の効果的・効率的運用といった原理・原則を遵守してはじめて享受できるものと理解することが大切であり、「当たり前のことを当たり前に行う」との考え方を組織に浸透させていくことが重要である。
(3)人事トータルシステムの見直し
a.管理職層(ミドルマネジメント)の意識改革
- 若手・中堅職員に改革に対する前向きな意識や、コンプライアンスマインドが高まりつつあるものの、職員を指導・統制すべき立場の管理職層においては、いまだに過去の慣例・慣行ないし金銭感覚から抜け出せないのか、不祥事の当事者となったり、プロ意識の不足した職員が散見され、職場の業務管理やマネジメントが脆弱になっている。NHKの屋台骨である中間管理層(ミドルマネジメント)の危機意識の欠如は、問題の長期化・構造化に繋がる虞がある。コンプライアンス対策として様々なメニューを開発・発信・消化しても、管理職層の意識が根本的に変わらなければ、成果を期待することは困難である。
- 長年にわたる慣行・慣例に浸かった職員意識を払拭することは容易ではなく、研修や役員対話等では解決されない可能性がある。トップ自らが、「遵法意識と倫理意識を踏まえた抜本改革を成し遂げなければNHKの将来はない」といった切実感を持ち続け、管理職層と膝詰談判を行ってでも意識改革を断行する必要がある。
- なお、中高年齢層職員の一層の活用を進める観点からは、新たな職務の開発や職務内容の見直しを含めた人事措置も実施すべきである。例えば、執行部の方針や具体的な取り組みを現場第一線に確実に伝えるとともに、現場第一線の情報を正確に経営に伝達するといったNHKにおいて十分機能してこなかった役割を課すことなども検討すべきである。
b.評価・処遇体系の見直し
- 教育・研修の充実あるいは懲戒処分の厳格化等もあって、職員の公金意識やコンプライアンス意識については、一定の改善が見られるように思われる。しかし、コンプライアンスマインドの醸成、視聴者志向に根ざした組織風土の育成、組織全体にわたる公平感の浸透および職場の業務管理やマネジメントの適正化等をより一層推進するためには、全役職員に対し、一丸となって働くことのインセンティブ(動機付け)を提供するシステムや評価・処遇体系、さらには、関連団体への再就職も含めた人事面での公平な処遇システムについて、全社的視点から見直していくことが求められる。
- 例えば、人事考課項目に「資金の効率活用」や「リスク情報の報告」等、内部統制意識に関する項目を追加すること、縦割りの役所方式となっている評価・処遇体系を真に働きぶりや成果に基づく人事制度に変革すること、さらには、管理職層における新鮮な視点での取り組みを促すと共に、過去の慣行に基づく硬直的な直属上司といった上位の者による評価だけでなく下位の者ないしは同僚等による多面的評価(360度フィードバックサーベイ)の段階的導入などを検討すべきである。
c.人事ローテーションの見直し
- 視聴者との距離の近い地方局の現場第一線と、東京本部(放送センター)との間、営業担当部門とそれ以外の部門との間では、視聴者への説明責任の重要性やNHKの現状に対する危機意識に大きな格差が見られる。
- 世間ないし視聴者の抱く思いとNHK役職員の有する感性ないしは常識との間の乖離を埋めるためにも、こうした部門・職種間、地域・職場間の人事ローテーションの活発化と人事異動の公平運用が極めて重要である。
5.コンプライアンス態勢の再構築に向けて
平成18年12月26日第一次答申
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基本的なルールおよび手続きの明確化と、その公平かつ厳格な運用が重要であり、また、これらを‘見える化’し、役職員の誰もが明確に理解し、かつ実践に移すことが求められる。 |
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公共放送の価値を高める観点からは、内部統制の基本的な枠組み(通例、COSOの内部統制フレームワークと称されているもの)を導入することは有意義である。但し、それを実効性あるものとするためには、トップマネジメントの側における意識改革、必要な経営ないし組織改革および人事ないし業務の改革、さらには、規定やルールの見直し等が並行して達成されなければならない。 |
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なお、NHKにおける情報公開と説明責任をより一層強化し、NHKの行う事業の透明性をさらに高めることが期待される。 |
(1)仕組み・施策のフォローアップ(PDCAサイクルの徹底)
- 既存の仕組み、施策および体制が機能しなかったのは、端的に言えば、目に見える形でのフォローアップが不十分であったことによるものといえる。平成16年8月に設置した会長の諮問機関である「業務点検・経理適正化委員会」が本委員会第一次答申における指摘事項と同様の問題意識を持ちながら具体的な成果をもち得なかったこと、および、この3年間に講じた諸施策が十分な効果を発揮し得なかったことは、成果レベルの具体的な目標設定が不十分であり、施策の羅列と発信に終始し、モニタリングや効果の検証、さらには取組状況の外部への適時・適切な公表を怠ったために、それぞれの施策が点と点の関係のまま、有期的に結びつかなかったことに主たる原因がある。会長以下執行部が、矢継ぎ早に種々の指示を出すことに力点を置き、チェックやフォローアップを実施しなければ、いずれ施策は全て尻つぼみになり、効果が上がらないばかりか、高い意識をもって取り組む者とそうでない者との格差も埋まらず、職員全体の士気にも影響を与えることになる。
- 内部統制システムの構築・整備・運用においても、日常の業務レベルに落し込んでアウトプットベース(発信ベース)ではなくアウトカムベース(成果ベース)でPDCAサイクルをキチンと徹底して回すことが重要であり、効果なき施策等については、早急に総括のうえ廃止することも念頭に置き、検証を行うべきである。例えば、通報制度についても、「制度を知っているか」「いざとなったら活用するか」は最低限検証・確認すべき事項であり、さらには、「通報に対し、いかなる対応がなされ解決されたのか」を通報者のプライバシーを守りつつ職員全体に周知していくプロセスが重要である。
(2)ルール・手続きの明確化
- コンプライアンスの徹底にはルール・手続きの明確化と、責任のとり方も含めた例外なき公平・厳格な運用が不可欠である。またルールは簡潔にし、‘見える化’‘オープン化’を進め、全ての役職員にとって、わかりやすいものとし、かつ、実践に耐えるものとすることが重要である。これらは「何を評価し、どこで判断するか」といったモニタリングの基準を明確にし、監査や評価の実効性を高めることにも繋がるものだからである。
- NHKにおいては、経理処理ルールの厳格化により説明責任が高まり、徐々に自律性や公金意識の向上が進んでいるが、現場第一線において、形式的なルール至上主義になる等「手段の目的化」が図られることがないように留意すべきである。「遵守するにはあまりにも煩雑・過多であり現実的でない」といった職員の声は、ルールの形骸化(守られないルール)に繋がる可能性を孕んでおり、そういったルールについては見直しを検討すべきである。
(3)COSOの内部統制フレームワークの導入について
a.現状の評価
- NHKにおいては、約3年前のH16年度から内部統制の基本的な枠組み(通例、COSOの内部統制フレームワークと称されているもの、以下、COSOのフレームワーク)を導入したと聞くが、内部統制関係者および一般職員と意見交換を行った限り、極めて遺憾なことではあるが、COSOのフレームワークおよび、これに代表される改善・改革の方策ないし考え方について正しい理解を得ている役職員は、殆んどおらず、したがって組織に根付かないままに議論が先行していると言わざるをえない。一般の事業会社同様、NHKにおいても、器だけの内部統制議論が先行している感がある。内部統制の構築に向けてNHKが向かうベクトルが正しい方向にあるのか、検証が必要である。
b.COSOフレームワークの意義および目的
- 公共放送の価値を高める観点からは、自主自律の堅持も含め、NHKの内部統制を強化すべきであり、そのためにCOSOのフレームワークを導入することは有意義である。但し、これを実効性のあるものとするためには、会長以下執行部が率先してその意義および目的を明確に理解したうえで、全社的に浸透させることが不可欠であり、一部の経営管理担当者や経理担当者だけで機能させることはできない。
- COSOのフレームワークは、従来の内部牽制と内部監査をベースとした会計・監査廻りに特化した内部統制議論とは明確に一線を画すものである。そうではなく、付加価値の高い競争力のある事業活動を達成することを目的として、有効かつ効率的な業務運営を行うことを中心的命題においた経営管理のためのプロセスなのであり、その結果として不正の事前防止・早期発見にも有益なツールとされるものである。したがって、COSOのフレームワークを機能させるためには、評価対象にトップ自身を含めた監視体制を築きトップ自らがこれを管理・活用すること、明確な職務の分掌と適正なルールを確立することで職員一人一人の業務と一体化したチェックシステムを構築すること、問題を現場第一線や地域任せとせずに、情報の伝達機能を一層強化するなどトップと現場第一線の間で円滑に情報共有や意思伝達ができる環境を整備することなどが不可欠である。
c.COSOのフレームワークを機能させるための改革
- 幾重にも部局組織が重なり、かつ、部門間障壁の高いNHKの縦割構造は、実際の業務とルール・手続きがねじれたり乖離したりしている虞もあり、既存のシステムのままではCOSOのフレームワークにはなじまない。したがって、まずはこうした組織構造を検証・是正するために必要な、経営、組織、人事の改革や、職務権限等諸規定・ルールの見直しを急ぐ必要がある。
- 特に、上下・左右・内外に風通しの良いフラットな組織環境を構築することが重要である。「報告ルートや意思伝達系統を明確にし、風通しの良い職場環境を整備すべき」といった職員の声にこそ耳を傾けるべきである。
- トップマネジメントのコミットメントないし率先垂範の無い内部統制議論はあり得ない。その意味で今般、NHKにおいて従来の経理的不祥事の防止にとどまらない、業務全体のプロセスの見直しを視野に入れた内部統制を構築するために、会長を長とする部門・組織横断型のプロジェクトを立上げたことは、理に適ったものである。
- 但し、内部統制を現場第一線に落し込む過程で危惧されるのが現場第一線における職員の疲弊感である。例えば、文書化等の作業を、‘こと’の軽重や重要性を加味せず行えば現場第一線の共感を得られず、取り組み自体が形式に堕す虞がある。実効性の担保こそが重要なのであり、権限および責任の明確化を行ったうえは、業務レベルの内部統制については、各業務に潜むリスクを見極めることで重点チェックを徹底することが肝要である。また、既にマニュアルもあり、一定のリスクチェックも済んでいるのであれば全てをゼロからやり直すのではなく、これまでの調査、議論、規定・マニュアルといった蓄積の整理・修正により内部統制を再構築する、といったアプローチも十分あり得るものと考える。経営管理システムとして活用する以上、形式的ないし画一的な対応を避け、放送現場の特殊性を踏まえ、方針・ルールの押し付けだけでなく、現場第一線の改革提案も取り上げるなどして、各現場の業務実態に根ざしたNHK固有の内部統制システムを構築する必要がある。
(4)事業の透明性向上
- これまでも述べてきたところであるが、事業の透明性を向上させることにより、視聴者・国民の関心・協力を引出し、社外の経営監視を強化する中で、NHKが改革の努力を積上げていくことが、視聴者の信頼を回復する最短の道である。情報公開の推進により、NHKにおいて内外への経営の透明性が高まってきたとの指摘もあるが、さらに情報公開と説明責任を強化し、NHKの行う事業の透明性を高める必要がある。
- 例えば、番組単価の妥当性や契約の随意性の適否等についても、第三者機関が支出の適正性や妥当性を評価・査定するといった仕組みを検討することも必要であると考える。
4.結び
- 最終答申をまとめたこの段階で強く感じることは、昨年12月26日の第一次答申での結びの冒頭において記した、「NHKは、今こそ、公共の電波を守るとの使命感を持って、過去の悪しき慣習および慣行と決別し、最大の顧客である視聴者と真正面から向き合い、視聴者のためにいかなる価値を提供できるのかといった課題に対して、明確な回答を出すための大改革を断行すべきである」との思いと同一である、ということである。
- 本委員会委員で分担して行った今回の現場第一線職員との意見交換においても、若手・中堅職員を中心に、ほとんどの職員にあっては、公共放送としての社会的使命の達成に向けて、各持ち場の業務に誠心誠意務めており、新生NHKを達成する気概が認められたものの、視聴者の信頼を確固たるものとするための改革はいまだ道半ばであると云わざるをえない。むしろ、NHKにとっては、これからが、真の改革の始まりとも言うべきである。
- 会長以下執行部においては、現在の取り組みが新生NHKの構築に向けた第一歩である、との目的意識を改めて明確にしたうえで、各部局のマネジメントにあたるとともに、職員間の上下左右のコミュニケーションの円滑化を図ることで、役職員が改革を前向きなものとして捉え、これを推進し、視聴者の目に見える成果をあげることができるよう期待するものである。
- なお、本委員会では、第一次答申の後、時間・回数は限られたものの、机の上の議論や関係者ヒアリングだけでなく、いま一度各委員が直接第一線の現場に足を踏みいれた調査および取材活動を行い、NHKの組織全体についての診断、これまでNHKが取り組んできた施策の検証、さらには自らの第一次答申のフォローアップを厳正に行ってきた。本答申には、これまでの対策の評価とともに、今後のNHKの進むべき方向性を示し、そのために必要な施策についても可能な限り具体的な形で提言するよう努めたつもりである。しかし、NHKの改革がまだまだ道半ばであるのと同様、この答申もNHKの改革に向けた提言の一里塚をなすものにすぎないと考えている。
- 本答申をもって経営委員会に提言することで、同委員会における議論に付すとともに、視聴者の率直な意見を得られることができればと願っている。
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