ことじろう

誰でも使えるナイフとフォーク

2023年1月13日放送

取材・園山紗和記者

(松岡アナウンサー)
わたしたちが食事の時に使うナイフやフォーク。
当たり前のように使っていますが、病気やけがによるまひが原因で持つことが難しい人たちもいます。
どんなひとでも自分の力で、自由に食事を楽しめるようにしたい。
特別な形のナイフとフォークの製品化を目指すプロジェクトが進んでいます。

特別なナイフとフォーク

(声)
「かんぱーい!!」

去年12月。金沢市で開かれた食事会の様子です。
ふだん見慣れているものと少し形の違うナイフとフォークが使われていました。

このナイフとフォーク。
病気やけがで手や指に力が入らない人たちのために考案されました。
道具を握れなくても、指の間に差し込んで使い腕を動かすことで、食べ物を切ったり刺したり出来ます。

誰もが使える道具を

製作プロジェクトの中心、荒井利春さんです。
プロダクトデザイナーとして、多くのバリアフリー製品の開発に携わってきました。

(荒井利春さん)
障害がある人もない人も一緒に食事を楽しめるように、食事の道具を見直して新しい姿形を見つけ出そうと製作を始めました」

荒井さんが大切にしている製品のコンセプトは、使いやすさとともにスタイリッシュな見た目です。

(荒井利春さん)
「極力シンプルなデザインを目指します。単純であればあるほど使い方が分かりやすいし、メンテナンスも楽ですよね」

使い手と一緒に

今回、荒井さんと一緒にプロジェクトに加わっているのが、道具を使う側。
体に障害のある人たちです。

須永沙紀さんです。
胸から下のほとんどが麻痺し、日常生活に支障を抱えています。

(須永沙紀さん)
「メイクの時も、握力が無いことでキャップとかが開けられないので、手をひねって指の間に化粧品を固定させて塗ります。それがちょっと大変です」

食事を楽しめない

高校1年のころ。
トラックにはねられて大けがをした沙紀さんは、全身に残ったまひで、ものを握る力も失いました。

好きだった食事の時間も一変しました。
手にはさんで道具を使うことはできますが、ひとくち食べるのにも苦労の連続です。

(須永沙紀さん)
「食べ物を刺しているときに手が滑ってしまいます。両手で支えながら刺しますが、途中で疲れちゃって食べることをやめちゃったりします」

店でステーキやパンが出てくると、周りの人に代わりに切ってもらわなくては食べることができません。
人の助けが常に必要になる気苦労から、沙紀さんはしだいに食事を楽しめなくなっていきました。

(須永沙紀さん)
「フォークで刺せなくて、そのままズルズル滑って食べ物を落としちゃったりとか。自分のペースで、自分の好きなサイズで食べられないというのは生きている感じもしないし、なるべく人との外食を避けるようにしているのは本音です」

3年間の試行錯誤で

思う存分、好きなペースで、食事を楽しめる道具を作りたい。
プロジェクトに加わった沙紀さんたちメンバーは使い心地にこだわり、意見を出し合います。

(開発メンバー ゆたかさん)
「はめたときにちょっと違和感あるね。痛みも・・・若干あるかな」

指の間にフィットするよう、太さや曲げ方を何度も変えながら試作品の製作を重ねました。

(須永沙紀さん)
「うん、結構しっくりきていると思う」

開発のスタートから3年。
たどり着いたのは、重さ40グラム、ステンレス製のシンプルなデザインのナイフとフォークでした。

いざ、実食

12月。
荒井さんの工房に開発メンバーが集まりました。
実際に食事をして、うまく使えるか確かめるためです。

(開発メンバーたち)
「美味しそう〜!」

料理が運ばれ、さっそく切ってみると・・・

人の助けを借りず、好きな大きさにお肉を切ることができました。

(開発メンバー ひろゆきさん)
「すごくいいですね。気持ちよく、思い通りに食べられたというのがすごくうれしい」

フォークも滑らずうまく刺せました。

食べる苦労から解放されると自然と会話も弾みます。

(開発メンバー ゆたかさん)
「自分で切って食べるなんて夢のまた夢やったね。心に余裕が出来る

(須永沙紀さん)
「けがをしてから自分でカットしたことは1回もないのでうれしいです。 感動します。できるんや!と思って」

自分で、自由に食べられる

1人でも多くの人に食事の幸せを。
メンバーは、新しい道具が使う人たちの毎日を明るく照らしてほしいと願っています。

(開発メンバー えみさん)
「余裕が出来るので、会話をしながら食事が出来るというのはすごく楽しいことでしたね」

(須永沙紀さん)
「分厚いお肉が食べたいです!分厚いステーキを食べに行きたいです。  諦めてしまう人が多いと思うんですけど、同じように食事を楽しんでほしい。」

(松岡アナウンサー)
これだったら洗ったり乾かしたりするのもすごく楽そうですよね。

(熊谷キャスター)
スタイリッシュな見た目が使う場所も選ばないですね。

(松岡アナウンサー)
ご紹介したナイフとフォークは、ことし5月ごろの製品化を目指していて、クラウドファンディングで製品化に向けた活動を支援することもできるということです。(1月まで)

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