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障害のある人もない人もダンスを!

執筆者のアイコン画像九谷 博之 カメラマン
2023年01月20日 (金)

「みんなちがってあたりまえ」をテーマに能美市福祉課が12月上旬に開いた障害に理解を深めるイベントで、障害のあるなしに関わらず全員で助け合い楽しむダンスパフォーマンスが披露されました。知的障害のある中学3年生の娘を持つ父親としても、障害のある人がやりがいや楽しみを持てる場が多くあると心豊かな生活が出来ると思い取材を進めました。まずは能美市の練習場へ取材に向かいました。

 

コミュニケーションを深める練習

この日練習に参加していたのは30人ほど。知的障害や身体障害のある5人と障害のない大勢の子どもや大人が自由に歩き回ります。参加者がごちゃまぜに歩き、お互いの距離感をつかむ練習です。  

指導者は能美市のダンサーで振付家の宝栄美希(ほうえい・みき)さん。練習のねらいは、お互いのコミュニケーションを深めることです。houeisan.png「人の間を人にぶつからず、気遣いをしながら、気配を感じながら動く、相手との距離感を知りながら、自分ができる範囲で出来ない人のために出来る人がよけてあげるんです。私は思いやりを持つことは常に大事だと思っていて、コミュニケーションについて学んでもらっています」

 

個性を生かすダンス

宝栄さんがこのパフォーマンスを企画したきっかけは、思春期の時の友人関係と、大学時代に出会った細かい振り付けがなく自由な発想で踊るコンテンポラリーダンスでした。

「中学生の時にお友達に言われた "変わってるね" という一言が私のコンプレックスになって変わってちゃいけないんだと思って、高校卒業まではずっと自分を隠していたというか、とてもおとなしい子どもだったんですが、大学生になった時にコンテンポラリーダンスに出会い、個性があることが強みになるダンスで私の隠していた部分を認めてもらえるダンスなんだということを知った。」

5年前、自分のダンスを披露する能美市のイベントで障害者と出会って障害をマイナスではなく個性として捉え、障害のある人と自由な表現でコンテンポラリーダンスをしようとこのパフォーマンスを作ることになりました。

 

コンテンポラリーダンスで垣根をなくす

宝栄さんがこのパフォーマンスで大切にしていることがあります。障害のあるなしに限らず、性別、年齢を問わずみんなが対等な立場でダンスをする▼上手く踊ることや手順を覚えることよりコミュニケーションを大切にしてみんなで助け合う。障害のある人とない人が組んで、およそ40分の間に、家族の愛や命の大切さをテーマにした11シーンをコンテンポラリーダンスで表現します。一定のルールの中で細かい振り付けは決めず自由な発想で踊ります。みぞがない関係性の実現をめざし「GAPFREEパフォーマンス」と名付けました。   

このパフォーマンス、コロナ禍前の3年前にも行われ今回が2回目です。宝栄さんは練習を重ね障害者と接するうちに知的障害者の強みに気づいたと言います。houeisan.png「今回は振り付けがないダンスを踊ってもらっていて、出演者は自由に動くことを求められています。そう言われた時に一般の大人の方は恥ずかしさや間違ってはいけないという思いから、なかなか一歩前に出れずに動けなくなってしまう人が多いかと思うんですが、知的障害のある方たちはそういう壁を持っていないので逆に自由に動くことが得意で、一般の人が持っている精神の壁を簡単に乗り越えることができます。そして、彼らが動いてくれることで今まで動けなかった一般の方も正解はないんだということを体で感じて分かって動けるようになるという、障害を持つ方だからできることを練習の中で感じ取っていると思います」

ダンスを趣味にする40代の参加者は、障害のある人とのダンスを次のように話します。
「障害者の人って人によるんですけど、すぐに動いたり私たちが思いつかない動きをすることもあるし線がないっていうか境界線みたいなものがないのかなと思います。 動いているうちに合わせたり一緒な動きをしたりするとだんだん言葉じゃなくてもつながっていくのかなという気持ちはあります。楽しいです」

 

パフォーマンスに初挑戦 徳木晶大郎くん

 

ダウン症で能美市の小学校の特別支援学級に通う小学5年生の晶大郎くんは、言葉が通じにくく積極的に集団に入っていく性格ではないそうです。カメラの前では緊張して話してくれることはほとんどありませんでした。しかし、幼いころからダンスが大好きで自宅でアニメキャラクターのダンスを見て毎日のように踊ります。パフォーマンスの参加募集を知った母親が誘って参加することになりました。初対面の人が大勢集まる活動に参加するのは初めてです。

母親の徳木佳子さんは参加した理由を次のように話します。tokugihaha.png「親ができることってこの子たちが育つまでの間なので、この子なりに他の子と混ざっていくシーンを増やしていった方がいいのかな、私が考えているこの子の将来像とこのパフォーマンスの趣旨が合っていると感じました」

晶大郎くんは歩きながら相手の距離感をつかむ練習でハイタッチが出来ず距離感を縮めることができないでいました。  
しかし、大勢の子どもや大人と組むシーンに参加する晶大郎くんはダンスが始まるとダンス好きの個性を発揮します。カメラマン役の子どもが現れみんなでポーズを取る「ハイチーズ」のシーンでは、率先して前に出ます。鬼役の人の視界に入らないようにする「かくれんぼ」のシーンでも、みんなの輪の中に入って楽しみました。

家に帰っても父親とクライマックスに演じる手話ダンスの特訓を続けました。晶大郎くんはおよそ1ヶ月毎日続けたそうです。

父親は「手話ダンスだけでなく全部楽しいと言ってました。発表会に向けて楽しんで取り組み毎日練習するのが日課で楽しみになっています」と話し、今回のパフォーマンスの参加が晶大郎くんのやりがいになっていることが伺えました。

本番直前で・・・

12月10日、本番を迎えました。直前練習で晶大郎くんは緊張もせず生き生きとしていました。みんなで歩く練習では、ハイタッチを何回も繰り返します。私のカメラに近寄って笑顔を振りまき本番直前まで同世代の男の子とずっと遊んでいました。練習に付き添ってきた母親も初めて見る姿。およそ1ヶ月5回の練習でしだいに友だちを作ろうという積極性が出てきたようです。  
本番では、母親や家族が見守る中、晶大郎くんはハイチーズやかくれんぼのシーンでみんなの輪の中に入り順調に進みます。父親と練習を重ねた手話ダンスの2コーラス目に入ったところでトラブル発生です。機材トラブルで音楽が止まってしまいました。すると観客から手拍子と歌声が始まり、晶大郎くんたちは手話ダンスを続けることが出来ました。周りの方たちに支えられ最後までやり遂げることが出来ました。

舞台後、晶大郎くんと母親に感想をインタビューしていた時のことです。 晶大郎くんが誰かを大きな手振りで呼んでいます。やってきたのは本番直前ずっと遊んでいた男の子でした。晶大郎くんの小学校とは別の学校の小学3年生。いつの間にか仲良くなっていたそうです。二人に舞台を終えた感想を聞きました。      

冗談も言い合える友だちが出来ていました。そして私の前で自分の言葉で初めて話してくれた瞬間でもありました。

宝栄さんに晶大郎くんの成長について聞きました。houeisan.png「私はその一つの美しい流れを見せたいのではなくて輝いているいいところを見せたいので、そこには晶大郎くんの輝きがちょっと散りばめられていたということだと思います。晶大郎くんに大きな花丸をあげたいと思います、いろんな壁をなくして楽しんでいる、楽しめるようになる人前に立つことでですよ。ある種の才能の芽が出てきたのかなっていうことだと思うので周りの皆さんがそれを大事にしていけたらと思います」

取材後記 

宝栄さんに取材中「パフォーマンスの流れに何を見せたいかシナリオはありますか」と聞いたことがあります。答えは「見ている人が好きなように感じて欲しい」でした。ダンス好きの男の子の成長は、いっしょに楽しむ共通点があれば、ちがいはそもそもなく通じ合えるのではないかと私に教えてくれました。

能美市のこのイベントはことしも12月に開かれ、障害のある人が大勢参加できるように規模を拡大して募集をかけるそうです。

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#障害、ダンス、手話

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