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INTERVIEW 2022.11.06

実衣役・宮澤エマさんインタビュー

~鎌倉で権力を持つということ~

撮影開始から現在まで、現場や北条家チームの雰囲気はどのように変化してきていますか。

最初のころはお互いにまだ自分の役が定まっていなかったり、化学反応を見ながら探り探りでお芝居をしていたりする部分があったんですよね。お話も明るくて、ホームコメディーみたいな雰囲気で始まったので、和気あいあいとした現場でした。決して1年たって和気あいあいとしなくなったというわけではないのですが、物語が後半に向かっていくにあたって周りにいた人たちがどんどんいなくなり、北条家もちりぢりになっていって、撮影現場で1人になることが多くなったと実感しています。逆に今まで一緒にお芝居していなかった方とシーンが一緒になったり、若い世代の人たちが登場するようにもなっているのでフレッシュな感じでもあるんですけど、北条家の人間としては、長い時間をかけて全員が違うところに来てしまったんだなぁと感じます。

第30回で夫・阿野全成を失って以降の実衣の変化はどのように感じていますか。

やはり全成さんが亡くなったことは、実衣にとってのターニングポイントだったと感じています。序盤のころの実衣はそこまで強く権力に興味を示していませんでしたが、全成さんの死後、「権力を持たないとこの鎌倉で生き残っていくことはできないのではないか」ということを、すごく強烈なメッセージとして植え付けられたと思うんですよね。鎌倉って不思議な場所で、権力に近づき過ぎると命が危ぶまれるし、遠過ぎても危ない。そんな中、実衣全成さんの死後、だいぶ時間がたってから実朝乳母めのととして少しずつ政治に関わり始めていることを考えると、おそらく“なんの役割も持たずに鎌倉にいる”こともすごくつらいことなのではないかと。やることがないというのは、やることがたくさんあるのと同じくらいつらいことだなと思うので、実衣実衣なりに自分の立場をつくって守ろうとしているけれど、それが裏目に出たり、うまくいかなかったりしてきているのかなと思いながら演じています。

実衣は政子のように尼になるのではなく、かつての赤い着物姿に戻っています。衣装部の方とお話しされたことや、宮澤さんが想像されていることはありますか。

最初のころのエピソードで、伊豆山権現にかくまわれていたとき、姉上がもう頼朝様は亡くなったと思って、「尼になる覚悟はできていたのに」と言っていましたが、まさにそんな感じです。物語の進み方として頼朝様の死後に姉上が出家しているのを見て、「次は私だ」と思っていたし、撮影の準備がいかに楽かということも姉上から聞いていたので、心待ちにしていた…というのは少しおかしな話なのですが、尼になるのを楽しみにしていたんです。衣装部のスタッフさんもその心持ちで、衣装合わせの話も進んでいましたし。ところが、新しい台本が届いたら「私は尼にならない」と言っていたんですよね(笑)。驚きました。衣装合わせも「いつかなるであろう」という仮のものになってしまいましたし(笑)。ですが、尼にならないというのも、確かに実衣らしい気がしています。結局は実朝鎌倉殿になったときにかけを着ることになるのですけれど、それに関しては衣装部の方とお話しできる時間がなく、色味は「実衣といえばやっぱり赤なのではないか」ということで決まったようです。衣装はすごく人の行動を変えるので、掛を着たことで実衣は自分に対する見方が変わり、周りからの見え方も変わったと思います。何より色がかなり印象的なんですよ。どこにいても目にバンって入ってくる威圧感があるんですよね。もちろん全成さんに対しての思いも含めて、権力を持ち始めた実衣の強烈な意思表示を感じるような色だなと毎日感じています。

乳母として育ててきた実朝はどのような存在ですか。また、演じる柿澤勇人さんの印象も教えてください。

実衣が子育てをしているシーンはあまり出てきていませんが、実朝のことを自分の息子だと思って愛情を持って育てたんだろうなとすごく感じるんですよね。いかにして実朝を良い鎌倉殿に導くか、長い間権力の座にいてもらうにはどうしたらいいのかを考えているし、正しい鎌倉殿であってほしいと願っている。自分の夫が良くないまつりごとのうえで良くない方向に向かってしまった過去があるからこそ、実朝に対して過剰な期待をしているんだと思うんです。なので、母親が息子に向ける愛情とはまた違う方向で教育ママぶりがキツ過ぎてしまって、実朝の出すサインに気がつけなかったり、一人の人としての幸せよりも彼の役割のことを優先してしまったりしてしまう部分があるのかなと…。
実朝は兄である頼家とはだいぶ違うキャラクターで、あんなに明るい全成さんと実衣が育てたとは思えないほど繊細な心の持ち主なんですよね。周りの人の気持ちを大切にする優しさや責任感があるのはいいことですが、本当に自分がしたいことを言えなかったりできなかったりして、実際はそんなことはないのにどこか頼りない。そういう雰囲気を柿澤くんが表現してくださっていて、乳母として自然と「優しく導いてあげたい」と思わされます。

姉・政子とは頼朝の死後、お互いに様子をうかがって接しているような空気を感じますが、この姉妹関係についてはどう感じていますか。

家族にはさまざまな形があると思うのですけれど、「切っても切れない」とはまさにこのことだなと感じています。相手が傷つくことを言ってしまったりもするけれど、「家族だから」という一言で昔の雰囲気に戻れてしまうというのもまた家族の妙だなと感じるんですよね。姉上に対しては、愛と羨ましさからくるすれ違いがあったり、小さなひずみのようなものが大きなトラブルに発展してしまうこともありますが、女性陣は物語において要所要所で出てくるので、「ひとつ前のシーンではケンカしてたのに、今度は仲良さそうだな」みたいなこともあるんですよね(笑)。演じる側としては前の気持ちを引きずりたくなってしまうこともありますが、「まぁでも家族ってこんなもんだよな」とも思ったり。私自身姉がいまして、小池栄子さんもお姉さんがいらっしゃるので、たぶんこの姉妹感というものを2人とも理解していて、現場で「実衣ちゃんはきっとこうなんだよね」「でも姉上はこうなんでしょ」という話し合いをさせていただく機会も多いんです。お互い正しいけど、お互い間違っているというか、それぞれが自分の正当性を信じて貫くことで、ぶつかったり離れたりを繰り返しているのかなぁと感じます。だからこそ私としては、台本をいただくたびに「今回、姉上とどうなっているんだろう」とか「ここは姉上と一緒ではないんだ」とかが気になってしまいますね。

徐々に非情な判断も多くなってきた兄・義時のことはどのように見えていますか。

前半は前半で“下の妹に威張る”というような感じでないがしろにされることもありましたが、権力を持ち始めた義時からは、目線ももらえないことが多いんですよ。実衣の意見にはもう無関心な感じなんですよね。なので、たまに家族のシーンがあると関係性がほぐれるのですけれど、姉上より兄上は遠い存在なのかなと感じています。ただ、全成さんの死をしっかりと届けてくれたのは義時だし、小栗さんの持っている深い声で優しく伝えてくれたのは印象深くて、ほかの誰でもなく自分の兄から聞いたというのは実衣にとってすごく大事なことだったと思っています。もしかしたら、お互いをよく知っているからこそあんまり関わらないのかもしれないですね。頼りになるし、「この人に逆らっては鎌倉にはいられない」ということもよくわかっていると思うんですけど、前半のような親しさは少なくなった気がします。

今年7月に阿野全成のゆかりの地、沼津市で行われたトークショーに参加されましたが、実衣役を演じるうえで新たなインスピレーションは何かありましたか。

本当はもっと早くいろんなゆかりの地をまわってみたかったのですが、タイミングが合わずに行けなかったので、オフィシャルな形で訪れることができて、ピュアにうれしかったです。全成さんの領地とされる場所に行って「こういうところで暮らしていたのか」というのを感じることで、また地に足がつくような感覚にもなりました。お墓参りもさせていただきましたが、実は阿波局(実衣)のお墓はどこにあるのかわからないようで、実際訪れたお寺には、全成さんと息子の時元のお墓が仲良く並んでいました。お参りをしながら、「実衣全成さんが亡くなったあとにこうやってお参りに来たのかな」などと考えたりもしたのですが、そういうことは今まで考えたことがなかったので、不思議な経験でしたね。当時はあまりにも多くの人が亡くなっていくので、死に対してちょっと麻痺まひさせる作業をしながら生きていたような気がするのですが、それでもやっぱり実衣にとって全成さんの死はすごくショッキングな出来事だったと思うので、実際にお参りをさせていただいて、実衣の心細さを身をもって感じました。

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