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INTERVIEW 2022.10.09

脚本・三谷幸喜さんインタビュー

~不思議な因縁にインスピレーションを受けて~

物語も終盤になってきましたが、これまでの執筆の中でどのようなことを感じていますか。

今回この「鎌倉殿の13人」を書くにあたっては、今まであまり経験してこなかった不思議な偶然がたくさんあるんですよ。すごく大げさな言い方になりますが、神様が「書け」と言っているような。例を挙げると、まずは上総介広常の死について。彼が字を一生懸命練習していたという設定は、演じた佐藤浩市さんから「キャラクターに深みを与えられる設定が欲しい」とリクエストをもらい、「じゃあ、字が書けないというのはどうだろう」とアイデアを出したんです。一方で、上総介が死ぬのと北条泰時が生まれるのがほぼ同時期だったことが分かった。「これは泰時上総介の生まれ変わりだという設定もあるな」と思い、ハッキリと明言はしなかったけど、泰時が赤ん坊のときの泣き声を「ブエイ」にした。これは上総介頼朝を呼ぶときの決め台詞ぜりふ。実は僕はそれほど歴史に詳しくなくて、北条泰時が御成敗式目をつくることは知識としてあったけど、字の読めない御家人たちのためにわかりやすい文章で書いていたって知ったのは、この回を書き終えたあと。もうびっくりですよ。視聴者の方で、「三谷はそこまで考えて台本を書いているのか」と驚いてくれた人も多かったみたいですが、全くの偶然。不思議でしょ。

あとは、第33回で善児が修善寺で亡くなりましたが、これも「終わる善児」と「終善児」に掛けたんじゃないかと、たくさんの方に言われました。告白しますが、全く考えてなかった。指摘されて初めて気づいた。そもそも善児という名前は、「梶原善さんがキャスティングされますように」という思いを込めて付けた名前ですから。そういう不思議な偶然が今回は多いんですよね。がっかりしました?

数多くの登場人物たちを手にかけ恐れられていた善児の退場には、どのようなプランを立てていたのですか。

まず第1回を書き出す前に、全体の綿密なプロットを作り、それぞれの登場人物がどのような人生を送るのかを、史実に添って考えていきます。でも細かいところまでは決めない。例えば、善児はオリジナルキャラだったから、途中で死ぬことは決めていたけど、それがどのタイミングなのかまでは、決めずに書き始めた。

善児は暗殺の仕事で2度修善寺に行きます。1度目は範頼を殺しに、2度目は頼家のとき。最初はね、1度目で行ったときに、命を助けた女の子が次に行ったらに大人になっていて、自分の養女にするという設定を、漠然と考えていた。ところがオンエアが進むにつれて、思いのほか善児が世間の注目を集めるようになってきた。絶対に人気者になる確信はあったけど、ちょっと僕の想像を上回った。「善児の名前がオープニングに出てきたら、それだけでおびえる」とか言われて。演じた梶原善も「河原で人を殺すシーンが多いので、みんなが怖がって、最近はプライベートで川に行けない」ってぼやいていた。

それで逆に、死ぬタイミングを早くしたんです。注目された分、飽きられるのも早いんじゃないかって思った。いちばん話題になっているときに退場させることにして、2度目に修善寺に行ったタイミングで死んでもらった。だからね、視聴者の皆さんが注目していなかったら、善児はもっと長生きしていたんです。
それが連続ドラマのおもしろさだと思うんですよ。第1回のオンエアの前に最終回まで書き終わっているというやり方もあるかもしれない。僕には無理だけど。でも、やっぱりテレビドラマは生き物なので、徐々にキャラクターが浸透していって、意外な人が人気になったりする。それが楽しい。そこをうまくすくい取って物語に当てはめていく。それが脚本家の醍醐だいごのような気がするんですよ。

これまでたくさんの方が退場されましたが、三谷さんの中で手応えのあった最期を教えてください。

やはり印象に残っているのは義経の最期ですね。菅田さんの芝居が見事だった。直接の死は描かなかったけど、梶原景時の予想外の涙も印象に残ってます。多分台本には泣くとは書いてなかったはず。脚本家の想像を、役者の演技が超えた瞬間でした。

それから畠山重忠。あんなに義時と殴り合うなんて思ってなかったから、映像をて驚きました。僕の指定ではないけど、いいシーンになりました。

しょせん、脚本家がパソコンの前で書いたものなんて、たかが知れているんです。僕は設計図を書いているだけ。それを現場でスタッフとキャストが肉付けしていく。そうやってドラマは完成する。殴り合いは小栗さんのアイデアだったと聞きました。よろいを着てあれはないだろうと思った歴史ファンもいたかもしれない。でもあそこは殴り合うべきなんです。本当は僕が思いつくべきだった。情けない限りです。
だからね、手応えのあったシーンというのは、だいたい僕が書いていない場面なんです。

放送をご覧になって、また、台本を書き進める中で、小栗旬さんが演じる義時の変化はどのように感じていますか。

そもそも小栗旬さんが義時を演じると決まったときに僕の頭にまずあったのは、晩年の義時の姿。いろんな悩みや苦しみを全部抱えたうえで最終的に死を迎える義時。それを演じる小栗さんのイメージが、最初から僕の頭の中にはあった。そこに向かって台本を書き進めました。若いころの義時を演じる小栗さんももちろんいいですよ。でもそれはみんなが知っている小栗さん。この先は誰も知らない、僕だけが知っている小栗さん。年老いてからの彼は本当にいい芝居をします。まだ観てないけど。多分間違いない。小栗さんはそれができる俳優さんだから。

三谷さんは以前より「女性を描くのは苦手」とお話をされていますが、今回の女性たちはどのように描こうと意識されていたのでしょうか。

昔から「女性を描くのが下手だ」と言われ続けていますね。もうトラウマです。なんで書けないんだろう。照れちゃうのかな。あと、いくさを描くのが下手ともよく言われる。これもどうすればうまくなるのか、さっぱり分からない。戦と女性は僕の鬼門です。
女性に関しては、今回はなるべくそう言われないように心がけました。とにかく女性のスタッフの意見を聞くことを心がけた。もう自分では無理だと思ったので。彼女たちに「この女性キャラはこんなことは言わない」と指摘されることもありましたし、「こういう女性はみんな嫌いだと思う」と言われて、書き直したこともあった。すごく勉強になりました。もし今回、女性の描き方が以前よりちょっとでもマシになっていたとしたら、それは彼女たちのおかげです。

政子に関してはいちばん悩みました。これまで“悪女”と言われ続けてきた人ですが、僕からすると、どこが“悪女”なのか、さっぱり分からない。別に政子を美化して描くつもりもなかったけど、普通に考えて、彼女に悪女と呼べる要素は何もない。常に妻として母として悩み、行動してきただけ。僕には権力欲の塊のような女性にはどうしても思えなかった。そう考えると、このドラマにはほかにも上昇志向の強い女性はたくさん出てくるけど、最も権力に興味のなかった政子が最後に権力の頂点に立つという、歴史の皮肉みたいなものが、浮かび上がってきました。そんな政子を小池さんがとてもチャーミングに演じてくれた。大満足です。僕はひそかに、小池さんが演じている政子が最も本物の北条政子に近いキャラなのではないかと思っているくらい。

女性でいうと、長澤まさみさんのナレーションも素晴すばらしかった。殺伐とした物語が、どれだけ彼女の声で浄化されたことか。文体を現在進行形にすることで、視聴者に寄り添う感じも強まった。僕が脚本家として、一つだけこのドラマに貢献したと自信を持って言えるのは、ナレーションを現在進行形にしたことのような気がします。いい発明だったでしょ。

執筆にあたってはさまざまな作品からインスピレーションを受けるとお話をされることがありますが、「鎌倉殿の13人」を描くにあたって参考にされた作品はどのようなものですか。

今回「鎌倉殿の13人」を描くにあたって、とにかく自分がおもしろいと思った古今東西の映画や舞台、小説を勉強し直しました。全体的には『ゴッドファーザー』。義時は、アル・パチーノが演じたマイケル・コルレオーネの親戚です。例えば佐藤浩市さん演じる上総介は、強くて怖いけど愛嬌あいきょうのある男という意味で、『アラビアのロレンス』で、アンソニー・クインが演じていた砂漠の権力者アウダ・アブ・タイの従兄弟いとこ。北条と比企一族との戦いを書いているときは、『仁義なき戦い』を参考にしていました。実は今まで観たことがなかったのですが、「あの時代は『仁義なき戦い』の世界観に似ている」とスタッフに教えてもらいました。

あとはシェイクスピア。やはり勉強になります。シェイクスピアには、おもしろい物語の要素のすべてがある。例えば、和田義盛と三代将軍・実朝。2人の関係は、『ヘンリー四世』に出てくるフォルスタッフとハル王子に重なります。三浦義村は『オセロー』に出てくるイアーゴー。頼家の苦悩は『リチャード二世』に出てくる若き王のかなしみと似ている。そして頼家の息子の公暁。彼が置かれた境遇はまさにハムレットそのものです。鎌倉時代とシェイクスピア。すごく似ています。今まで考えたことがなかったけど、新しい発見でした。皆さんもぜひ、興味があればシェイクスピアを読んでみるといいですよ。まるで鎌倉だから。

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