INTERVIEW 2022.03.13
大庭景親役・國村隼さんインタビュー

台本をお読みになった感想はいかがでしたか。
「三谷さんらしいな」と思いました。大河ドラマというのは時代が主役のドラマでもあると思うんですけれども、その時代を動かしているのはこのドラマに出てくるような人間臭いやつらです。三谷さんは個々の人間に焦点を当てて、大きな時代の流れを描こうとされているのかなという印象を持ちましたね。
「鎌倉殿の13人」で描かれる時代の出来事や人物についてあまり知らないという方もたくさんいらっしゃると思いますが、このドラマをとおして、エンターテインメントを楽しみながら、主人公の北条義時をはじめとした人たちがどういう時代にどんな生き方をしていたのか、一緒に体感していただければと思います。
出演者発表のときに大庭景親のことを「なんともおもしろい男」とコメントされていましたが、実際に演じてみていかがでしたか。
大庭景親を演じるうえでおもしろいなと感じるのは、三谷さんが描いていらっしゃる坂東武者のメンタリティーです。ものすごくドライやなと。親戚づきあいをしているような間柄なのに、お互いの利害が反したら平気で殺し合ったりするじゃないですか。でも、そういう坂東武者の中にありながら、なぜかこの大庭さんという人だけは妙に義理堅い人なんですよね。ドライな判断をせず、自分の受けた恩を優先して返していくような人なので、ほかの坂東武者とはちょっと違う感じがするんです。だからおもしろいなと思いました。


裏切った梶原景時は、特にドライな坂東武者の一人ですね。
中村獅童さんが演じる梶原景時は言ってみればビジネスライク。また、先見の明もあります。大庭さんは結果的に裏切られましたが、勝ち馬に乗るという彼の判断は同じ坂東武者として理解できたはずなので、あの場で「裏切りやがって!」とはあまり感じてなかったのではないかと思っています。「え! そこまではっきりやる?」とビックリはしたでしょうけど(笑)。
坂東武者たちは感傷的な感情には引っ張られることなく、物事の考え方であったり、いろんなことに対する対処のしかたが非常にドライですね。昨日まで兄弟のように育っていた人を殺さなあかん!としても、自分の良心が痛んだところを一切見せない感じがいっそ清々しいくらい。侍という、戦うことを生業としている人たちのあり方としてはまっとうというか、そういう仕事だったんだろうとは思います。その非常にわかりやすくもあり、あっけらかんとした感じが大庭さん的には「生きづらい」と思ったかもしれないですね。不思議ですよね、今の日本人が持つ侍のイメージは、けっこう偏ったものなのかもしれないと教えられましたね、三谷さんが描きだした坂東武者の人たちによって。
撮影での思い出、印象に残っていることがあればお聞かせください。
「鎌倉殿の13人」で何が大変だったかといえば、鎧が大変でしたね。着ているだけでおもりを体中につけている感じがして、とにかく体力の消耗が半端ではないです。伊豆でのロケは、それに加えて馬に乗ってお芝居をしないといけなかったので、なかなかの大変さでございました。ハプニングもあったんですよ。石橋山の戦いのシーンで、私の横を配下の兵たちが一斉に駆け出し、頼朝軍めがけて突撃していくというシチュエーションだったんですけれども、テストの際に私が乗っていた馬がその迫力に驚いて、ダァーッと走り出したんですね(笑)。馬の稽古はそれなりにしておりましたので落馬することなく収めることができましたが、すぐにスタッフの皆さんが「大丈夫ですか!?」って駆け寄って来てくれて。あのときは「これはえらいこっちゃ!」と一瞬思いました。それが一番印象的なロケでの出来事ですね。

大庭景親は源頼朝ではなく、平清盛側につくことを選びました。なぜだと思われますか?
描かれている頼朝は、個人の魅力や能力というよりも、何か強い力で守られた感じのする特別な人です。私以外の坂東武者の方々はそんな頼朝に惹かれ、「なんか守られとるぞ」と「こいつは勝ち馬や」と味方についたのだと思います。だけど大庭さんという人は、こだわりのある人だったんでしょうね。神秘的な力よりも人間性のほうを重視したように見えます。「この男、人間としての魅力はないぞ」「清盛のほうが人間的魅力がある」と判断したのではないでしょうか。大庭さんは周りの坂東武者を気遣って声をかけるなど人との関わりをとても大切にしていて、どちらについたから得とか損とか、そういうことだけで動くような男ではないんだと思います。
最期のシーンでは予言めいたことを言って亡くなりましたが、どのような心境だったのでしょうか?
