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INTERVIEW 2022.01.07

時代考証・坂井孝一さんインタビュー

~義時は武士の世を築いた立て役者~

「鎌倉殿の13人」の時代考証のお話を聞いたときの感想をお聞かせください。

三谷さんが平安末期から鎌倉初期にかけての大河ドラマを制作されるということを発表会見で知りまして、この時代を研究している者として非常にうれしかったです。あまり鎌倉時代を取り上げた大河ドラマはなかったということで、驚きもありました。取り上げられたとしても、源義経平清盛あたりでしたよね。ところが、今回の主人公は北条義時という一般的には知名度の高くない人物。しかし歴史学的には極めて重要な人物ですので、「これは相当期待できるぞ」と、まず一視聴者として思いました。
制作統括の清水拓哉さんから時代考証のお話をいただいたのは、その会見から少したってから。すでに時代考証の方は決まっているだろうと油断していましたので、びっくりしました(笑)。この時代を研究している者として非常に名誉なことですし、うれしいことなんですけれども、その反面、責任の重さを感じました。「三谷さんの大河ドラマに私で大丈夫なんだろうか」、注目を集める作品の時代考証を担当することの重みといいますか、責任にたじろぐ感じが最初はありました。ですが、清水さんとお話をするうちに「これはぜひ受けなければいけない」と考えるようになりまして、お引き受けしたわけです。それでもどんなドラマになっていくのか最初は想定できなかったものですから、期待と不安の両方を感じつつ考証会議に出席したという記憶がございます。

「鎌倉殿の13人」の脚本をお読みになって、魅力やおもしろさをどのようなところに感じていますか。

どこをとっても魅力的でおもしろく、「予測不能エンターテインメント!」というコピーがぴったりの先が読めない展開で、歴史学の立場から見てもワクワクさせられる内容になっていると感じます。もちろん厳密に歴史学的に検討していくと「ここはちょっとおかしいぞ」とか「ここはこう変えたほうがいいだろう」ということはあります。歴史をよくご存じの視聴者の方もいらっしゃいますから「ここが違うんじゃないか」というお声をいただく場合もあると思うんですよね。そういう、あまりにも時代相に合っていない出来事、その時代にはまだ使われていない言葉などに関しては積極的に提言させていただいて、脚本をブラッシュアップしていくような感じで時代考証をさせていただいております。

しかし、そういう学問的な厳密さよりも、それを乗り越えた脚本のおもしろさをかしていきたいとも考えています。そのくらい三谷さんの脚本は、ストーリー展開もそうですし、セリフの一つ一つが非常におもしろい。政子だったら、義時だったら…こういう発言をしていたのではないかと思われるようなセリフをつくっておられ、脚本を読んでいるだけでその人物たちのありさまが目に浮かんでくるんです。ですから、それを映像にしたらどれだけインパクトのあるものになるのだろうかと、想像するだけで楽しくなってしまいます。

北条義時を主人公として時代を見直すことで見えてくる物語のおもしろさを、時代考証という立場からはどのように捉えていらっしゃいますか。

義時は武士の世を切り開いた立て役者なんです。一般的には、まず平清盛が平氏政権をつくり、その平氏政権を倒した源頼朝が鎌倉幕府をつくったと捉えられております。確かに、頼朝がつくった武士の政権は画期的なものではありました。しかし、その時点ではまだ朝廷中心の世の中を変えることはできていませんし、頼朝自身も京都生まれの京都育ちですから、朝廷に対する配慮や京都で自分が名を揚げることへの関心が強かったんですね。したがって頼朝には、東国生まれ東国育ちの武士政権をつくろうという意識はあまりなかったと考えております。東国武士たちはというと、当時は身分制の社会ですから自分たちだけでは政権をつくることはできない。トップに担げるような身分的に尊い人物を必要としていました。そうなりますと、頼朝は尊い身分の武士、いわゆる「貴種」でしたので最適だったわけですね。東国武士たちは頼朝を利用し、頼朝は京都に凱旋がいせんするために東国武士の力が必要だった。互いに利用しあって新たな政権をつくっていったのが頼朝の時代の鎌倉幕府なんです。

ところが、頼朝、頼家、実朝と源氏将軍が続き幕府が安定していっても、朝廷では「治天の君」後鳥羽上皇が相変わらずとてつもない権力を握っていて、京都中心の世の中は変わりません。武士の発言力は増しましたし、軍事力も鎌倉幕府が握っている形ではありますが、社会を覆すところまではいっていないんですよ。それを東国生まれ東国育ちの北条義時が武士の筆頭、つまり執権という立場で、後鳥羽上皇が起こした承久の乱の官軍を倒し、後鳥羽を隠岐の島に流してしまう。そして自分の力で天皇も上皇も新しい人物に変えてしまうという、史上初の出来事を行いました。そうなりますと、京都中心であった世の中から、本当に武士の力によって世の中が動かされていく時代に変わってくるんです。つまり、このあと明治維新まで何百年にもわたる武士の時代の礎を築いたのが北条義時ということです。まさに画期的な出来事で、これを成し遂げた北条義時は実は極めて偉大な人物だった、大河ドラマの主人公にもなれる人物だった、と研究上は考えることができるんですね。なので、そこに目をつけられた三谷さんはすばらしいなと思っております。

北条義時を演じる小栗旬さんに期待されていることはありますか。

一度、撮影現場に伺って小栗旬さんや大泉洋さんに義時頼朝の人物像をお話しさせていただいたんですが、非常に熱心にお聞きになっていて。自ら質問をされたりもしていたので、演技にかしていただけるとありがたいなと思っております。
小栗さんのことは2005年に放送されたドラマで初めて拝見して「カッコいい人だな」と思っていたのですが、そのあとも大変なご活躍で、大きな存在になられましたよね。小栗さんには少し控えめな感じ、でも裏で一番大切な部分を支えている、裏方としてすべてを見抜いて動かしていく、というオーラを私は感じました。義時という人物は必ずしも自らが前面に立って「俺についてこい」というタイプのリーダーではありません。実際に演技をしていらっしゃるところをスタジオで拝見しましたが、「北条義時その人だ」という印象を受けました。

今回の大河ドラマを通して知ってほしいことや期待されていることはありますでしょうか。

大河ドラマでは戦国時代や幕末がよく取り上げられますよね。なので戦国時代のさまざまな大名や天下人の生きざまというのはよく知られていると思うんです。ところが今回描かれる鎌倉時代の武士たちの生きざまは、戦国時代とはだいぶ違うんですよ。戦国時代は承久の乱から何百年もたっていますので、武士自身も社会全体も大きく変わっています。ですから「戦国時代のことはよく知っているぞ」という視聴者の皆さんにも、平安末期から鎌倉時代の武士がどういう生き方をしていたのか、どういう価値観を持っていたのか、それが戦国時代の大名や天下人とどう違うのか。さらに貴族も天皇も上皇も絶大なる力を持っていた時代なので、貴族と武士の関係はどうだったのかという、視聴者の皆様にとっては目新しいこと、歴史の新たな側面をぜひ知っていただきたいと思っています。

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