特集

COLUMN 2022.07.17

教えて! 蹴鞠指導・山本隆史さん

~みんなの蹴鞠 後編~

蹴鞠しゅうきくでは、トラップやリフティング、パスの決まりはあるのでしょうか?

蹴鞠では、まりる際にさまざまな作法があります。一段三足いちだんさんそくという言葉があって、「受取鞠うけとるまり」「手分てぶんの鞠」「渡す鞠」の三足で次の人に蹴り渡すのが基本となります。

次の人というのは、誰でも良いのでしょうか?

対面する鞠足まりあし、例えば、鞠足(八)であれば鞠足(七)に蹴り渡すのが基本です。

では正しく続くと、2人だけの世界で完結してしまうということでしょうか?

そうですね。ただ蹴鞠はみんなで楽しむ球技ですので、もしそのようなことになれば全員が蹴られるように、上級者が上手にミスをしてほかの鞠足に分配します。まあそもそも、そううまくはいかないので、みんなに行き渡るんですけれど(苦笑)。

例えば、高く蹴り上げるほど芸術的だ!というような評価基準はあるのでしょうか?

ないです(笑)。高さは1丈5尺、つまり、およそ4m50cmを最高地点とし、それ以上の高さに蹴り上げてはいけないんですよ。

ダメなんですね!

ダメなんです。遊びで空を射るように鞠を蹴ることはありますが、それはあくまでも遊びの範囲で基本から外れます。

なるほど。先ほど一段三足というお話がありましたが、ダイレクトパスやトラップが4、5回になってしまうことはOKなのでしょうか?

それはOKです。というか、結果的にそうなってしまうことはありますね。「3回を限度で回しましょうね」ということを約束事として、みんなで楽しむのが蹴鞠になりますから、3回ではないからといって罰則などがあるわけではありません。

サッカーのリフティングは身体からだ全体を使って行いますが、蹴鞠も同じなのでしょうか?

右足の甲というか、拇趾おやゆびの付け根で、鞠をなるべく地面に近く低い位置で蹴るのが作法になります。ですから、足のほかの部位や左足で蹴ってはいけません。

では、ひざは使えないし、胸トラップなんてもってのほかですね。

ダメです(笑)。そこまで史料に残されてはいないので、いち個人が遊びの中でどのくらい、そのようなことをやっていたのかまではわかりませんけれど。

蹴鞠は、声を上げながらプレーしている印象があるのですが、決まった掛け声があるのでしょうか?

鞠を蹴る際には、「鞠の精」の名を呼びながら、鞠が続くことを願って蹴ります。い声といい、鞠を受け取る際に「オウ」、その鞠をもう一度蹴る際に「ヤア」、そして次の人に蹴り渡す際に「アリ」という声をかけますが、これは「夏安林げあんりん」「春楊花しゅんようか」「秋園しゅうおん」という鞠の精を指しています。この請い声は、鞠を受け渡したり、受け取るための合図でもあるんです。

ああ、なるほど。例えば野球でフライが上がった際に、「オーライ!」とか、「アイ ガーリッ!」というような声掛けをして「自分が捕球するんだ!」ということをチームメイトに伝えますが、それと同じですね!

そうです。声を掛け合って失敗しないようにするというのが、やっぱり大事なんですね。

ところで、蹴鞠は野球やサッカーなどのスポーツのように、得点や勝敗のようなものはあるのでしょうか?

蹴鞠はみんなで一緒に楽しく続ける球技ですので、そのようなものはありません。

ないんですね! では、どれだけ長く続けられるかを楽しんだり、みんなでチャレンジしたりしているんですね。

そうです。もちろん「え、あの鞠を蹴れたの?」というような感嘆や、先読みなどがハマって「やったぞ!」というような自己満足はあったとは思いますが、それは蹴鞠のひとつの楽しみですね(笑)。

ちなみに、蹴鞠はいつごろから行われるようになったのでしょうか?

およそ2300年以上前になります。中国の春秋戦国時代のせいという国で行われていたたことが、およそ2100年前に前漢の司馬遷しばせんによって著された『史記』に記されています。当初は“軍事訓練”として行われていました。

軍事訓練だったのですか?

はい。蹴鞠では相手の動きを察知して動くことも必要ですから、そういう能力を高めるために行われていたようです。

日本に入ってきたのは、いつごろでしょうか?

日本には、およそ1400年ほど前に仏教などと共に伝来したと伝えられています。中国もとうのころになると穏やかで平和な時代が続いていたので、みんなで楽しむ遊びとして蹴鞠が親しまれていました。
『日本書紀』に記載があるのですが、歴史的には、奈良の法興寺で行われた蹴鞠の会で、中大兄皇子なかのおおえのおうじ(のちの天智天皇)が鞠を蹴って脱げたくつ中臣鎌足なかとみのかまたり(のちの藤原鎌足)が拾ったことが転機となり、翌645年の「乙巳いっしの変」に始まる「大化の改新」が成就したといわれていますね。

特集

新着の特集をご紹介します