COLUMN 2022.06.12
教えて! 風俗考証・佐多芳彦さん

儀式のためにお供えされているのは、どのようなものでしょうか?

この写真は実にいいですね。『阿蘇下野狩史料』に記されている祭壇がよく再現されています。一番奥にあるのは「榊」です。史料に「榊」と書かれていたので、実際に「榊」を使用しました。史料には「芝を敷く」とあるので、本来は小枝のようなものを敷き詰めたところに「榊」が立てられていたのだろうと思いますが、スタジオでの撮影にあわせてその点は少しアレンジしています。そして「榊」には、「ゆう」というふわっとした綿のようなものがかけられています。
白っぽいやつですか?
そうです。「木綿」と書いて「ゆう」と読むんですけれど、カイコがつくった繭を紡いで生糸にしていない状態のものを「榊」にかけています。おそらく「榊」に山の神様が降りてきているという想定なので、そのまま露出させるのは失礼にあたるじゃないですか。なので、「榊」に巻かれた「ゆう」が、服、または、御簾のような役割を果たしているのだと思います。
お餅の形が違うのは理由があるのでしょうか?
四角いお餅は神前にお供えするためのもので、神様と共食しているんですね。なので、おそらく差別化しているのだと思います。この四角いお餅は、「白」「赤」「黒」の3色が供えられていて、下にはカシワの葉っぱが敷いてあります。これも史料どおりですね。
万寿がお餅を手に取りかじっていましたが、一番上のお餅だけかじるのでしょうか?
一応、3枚ともかじります。
お餅の重ね方に規則はあるのでしょうか?

ちなみに、この「矢口祝い」はいつごろから始まったものでしょうか?
残念ながらわかりません。ただ、『阿蘇下野狩史料』は現在の熊本県阿蘇市に伝わっていた史料であり、阿蘇市自体が古く歴史のある土地なので、平安時代にはすでに行われていた狩猟儀礼だと思います。