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COLUMN 2022.01.23

教えて! 風俗考証・佐多芳彦さん

~源氏や平家の人々の衣装は?~

頼朝が着替えた「水干すいかん」について教えてください。

この「水干」にはちょっと意味があって、実は頼朝が「水干」を着るということが、『吾妻鏡』という鎌倉幕府方の資料にすごく印象的に描かれているんですよ。例えば、朝廷とか院とかに雇用されている武士たちがいますよね。そういう武士たちは、朝廷のルールに従っていて、その朝廷の一員であることを示すためにこの丸い襟の「水干」をフォーマルな格好として着なきゃいけないんです。頼朝は、以仁王令旨りょうじを受け取ったときはまだ解官(朝廷での立場を解かれている意)されたままなので、官位が復活していないんですね。だから、頼朝の服装はかなり目下の格好です。だけど頼朝からすると、この水干を着て以仁王の令旨の内容を聞くことは、“朝廷に使役されているものだ”という意思表示なんですよ。ところが頼朝は、やがて征夷大将軍になったあとも、重要な儀式があるとこの「水干」を着てくることがとても多くて、しかも必ず白い「水干」を着るんですね。

それは頼朝が源氏だから白なのですか?

違います。白というのは一番無垢むくな色なんですね。色が付いていないということは、染色をするプロセスを経ていないということ。人の手に触れていないから清浄、汚れていないという意味もあるんですよ。だから頼朝がこの白い「水干」を着るのは、朝廷に刺激されているところもあるのかもしれませんが、もしかすると何かそこに頼朝の自己主張もあるのかもしれないですね。ドラマの中では立場の違いをわかりやすく示すためにやりませんが、『吾妻鏡』という本の中では、行列を組んでどこかに行く際など、みんな「水干」を着てくるんです。この格好をしてくるんですよね。
だから武士たちにとって頼朝が着ていた「水干」というのは、“武士身分としての正装”というニュアンスなんだと思うんです。「水干」は朝廷に仕えるフォーマルな格好。だけど、途中からたぶん意味は変わっているはずなんですよね。そこに頼朝のものすごい強い意思表示というか、矜持きょうじのようなものが読み取れるのではないかと思います。

源頼政が着ているのは狩衣かりぎぬですよね。

上着の裾をはかまの下にはき込めないのが「狩衣」で、袴の下に入れているのが「水干」です。あと襟に違いがあります。例えば頼政にしてもそうですけど、ボンボンみたいなものを首のところで通しているのは「狩衣」で、「水干」はひもで結んでいます。ですから、裾をはき込めるかはき込めないか、襟をひもにしているか玉を作っているかによって、「水干」か「狩衣」かというのは一目でわかります。

平宗盛が着ているものは「直衣のうし」でいいんですか。

これは「直衣」ですね。貴族のプライベート着なんですが、貴族が“プライベートなんだけど人に会う”というような際に着ることの多い、ちょっと改まった私服です。自分が貴族であることを示しています。

これは都でしか着ている人はいないのでしょうか?

そんなことないですよ。さまざまな理由で都から地方に下って行った大方の人は着ていたんだろうなと思います。ただ武士の場合、馬に乗ったりするし、戦もしなきゃならないし、刀も差して腰にはかなきゃいけないというのはあるので。そうなると動きやすい「狩衣」を着る人が多いですね。だから「狩衣」というのは、「直衣」よりもだいぶ格が下がって、本当は公的な場に着ていってはいけない服なんですよ。「狩衣」を正装かのように誤解されることがありますが、それは大間違いです。

この流れで伺いますが、清盛が着ているのは法衣ほうえですよね。

法衣です。法衣を着て袈裟けさを掛けていないっていうのが、僧侶のスタイルとしては日常の格好なんですね。お坊さんは仏前で仏に祈る際であるとか、外部の人と外に行って会う際に、この清盛の格好の上に袈裟を掛けるんですよ。

女性たちの衣装についてもお伺いします。第3回から政子の衣装が変わりましたが、これも「小袖こそで」ですよね。

これはだいぶいい格好になっていますね。でも「湯巻ゆまき」は巻いてますよね。だからまだ、やっぱりこの人が北条家の館で働いている、“北条家の一子女にすぎない”ということがわかります。

色が華やかになっているのは、いい生地を使ってますよ、ということですか?

最初の最初はまだ経済的に余裕がないからですが、いろいろな物語のプロセスを経ていくにしたがって少しずつ立場が上がり、例えば主人公クラスの服がきれいな色になっていきます。そうしないと、視聴者の皆さんに時間の変化がわかりにくいというのもあるからです。

りくの服装も政子と同じでしょうか?

りくは貴族の家の娘のスタイルですね。だから「袿重うちきかさね」で、下に袴をはいている。これは貴族の家の娘の格好で、りくさんは出身が貴族ですから、坂東へ来ても貴族の格好だろうという設定をしています。出身を明確に示そうという意図です。

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