ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をひとごとでない問題として受け止めているのが中央アジアの国々です。
中央アジアと日本は12月24日、日本で外相会議を開催。
中央アジアはどこに向かおうとしているのか、日本はどう関わっていくのか、解説します。
Q1)中央アジアというのはどんな国々か。
A1)
中央アジアは、ユーラシア大陸の真ん中に位置し、31年前、ソビエト連邦の崩壊で独立したカザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの5か国で、人口はあわせて7600万にのぼります。
中央アジアの人たちは日本人と顔が似ていて、親近感が抱くと思います。
この地域は北にロシア、東に中国、南にアフガニスタンやイラン、西の方向にはトルコがあり、歴史的にも周辺の国や勢力の思惑が交錯する場となってきました。
なかでもロシアのプーチン大統領は旧ソビエト、この中央アジアも勢力圏と位置づけています。
Q2)中央アジア各国は、ロシアによるウクライナ軍事侵攻をどう受け止めているか。
A2)
強い衝撃を受けたはずです。
ウクライナ侵攻はロシアが同じ旧ソビエトの国に攻め込んだ実例であり、ロシアとの距離感の見直しを迫られる事態となりました。
カザフスタンのトカエフ大統領はことし6月、プーチン大統領を前に、ウクライナ東部2州の一方的な独立宣言は認めないと発言。
タジキスタンのラフモン大統領もことし10月、旧ソビエトの国々を属国扱いしないでという意味合いで、「われわれにも敬意を払って欲しい」と発言しました。
こうしたことを踏まえ、プーチン大統領は12月26日、中央アジアを含むCIS=独立国家共同体の首脳会議の席で、残念ながらと前置きして、意見の違いがあることを認めざるを得ませんでした。
その一方でプーチン大統領は、「CISの国々は歴史や精神的な源を共有し、文化や習慣、価値観や伝統が入り交じり、ロシア語が各国を結びつける求心力になっている」と指摘しました。
こうしたプーチン大統領の考えが、ロシアが旧ソビエトを勢力圏とみなすことにつながっていると考えられます。
Q3)中央アジアの首脳たちの言動は、ロシアと距離を置く、あるいはロシア離れと言えるのか。
A3)
そうとは言い切れません。
むしろこれまで以上にロシアとの関係に細心の注意を払わなければならないということだと思います。
まず中央アジアは、戦争や領土の侵略には反対の立場です。
ただ国連総会でロシアを非難する主な決議には、軒並み棄権、あるいは欠席するという対応をとり、ロシア非難を避けました。
基本にある姿勢は、ロシアと関係を維持して対立も避けながら、過度な依存や従属もしない、欧米などほかの国々、地域ともバランスのとれた多方面外交を強化していくことです。
そうした選択肢のひとつに今回外相会議を行った日本があります。
Q4)その中央アジアと日本の外相会議の成果と意義は
A4)
この会議は「中央アジア+日本」という枠組みで、2004年に日本の主導で始まりました。
日本で開かれるのは10年ぶり。
今回はロシアによるウクライナ侵攻は避けられないテーマとなり、議長を務めた林外務大臣は次のように指摘しました。
▼林外相
「ロシアによるウクライナ侵略を受けてポスト冷戦期は終わりを迎え、国際社会は歴史の岐路に立っている。
こうした中、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持強化する上での重要なパートナーである日本と中央アジア諸国との協力と連携はこれまで以上に重要になっている」
また会議後の共同記者会見で、中央アジアの外相は次のように述べました。
▼カザフスタン トレウベルディ外相
「カザフスタンはじめ中央アジア諸国は、日本との多分野での協力をとても尊重している。日本を戦略的、重要なパートナー国と見ている」
▼トルクメニスタン メレドフ外相
「中央アジアと日本が建設的、創造的、責任ある協力を続けることは国際情勢の健全化を推進し、国連憲章や国際法に基づく紛争、対立の解決に貢献する」
会議の結果、共同声明が発表され、主なポイントとして、
①領土不可侵、武力行使禁止の原則確認
②中央アジアの発展に向けた協力
があげられます。
まず①について、共同声明では、「国連憲章や国際法の原則、他国への侵略、武力による威嚇、行使の禁止、紛争の平和的解決」などを確認しました。
ウクライナに侵攻しているロシア、拡張主義的な行動が懸念されている中国を念頭に、メッセージを送ったものと言えます。
②の中央アジアの発展に向けた協力については、新たな取り組みとして、ロシアで働く中央アジアの労働者たちの新たな受け皿に日本がなるかどうか検討することになりました。
中央アジアの国々もさまざまで、カザフスタン、トルクメニスタンはそれぞれ石油、天然ガスに恵まれ、1人あたりのGDPがおよそ1万ドルに達し、比較的裕福ですが、残りの3つの国は低いうえ、ロシアに働きに出ている労働者が多く、各国経済にとって無視できない役割を果たしています。
キルギスは、ロシアで働く労働者の送金がGDPのおよそ27%となっています。
このため日本との間で特定技能制度や技能実習制度を通じて労働者を派遣する可能性を検討することになりました。
ただ日本の技能実習制度は、労働環境をめぐる問題が指摘されているので、今後実現化するためには、トラブルを防ぐ仕組み作りが重要だと思います。
もう一つは資源などの輸送でロシアを通らない代替ルートを確保することです。
中央アジアは内陸国で海の出口がなく、カザフスタンの石油はおもにロシア経由で、またトルクメニスタンのガスは中国とロシアに出荷されています。
そこでロシアを経由しない「カスピ海」を通るルートについて、来年第1四半期に今回の「中央アジア+日本」の対話の枠組みでシンポジウムを開き、議論を深めることで一致しました。
Q6)こうした動きにロシアは反発することはないのか。
A6)
中央アジア各国はそこを一番気にしています。
ロシアや中国の影響力をまったく無視したり、なくすことはできないからです。
とりわけ微妙なのはカザフスタンです。
カザフスタンはロシアとの間で7000キロを超える国境を接し、ロシア系住民が20パーセント近くを占めていて、この条件はウクライナと重なるところがあります。
来日したカザフスタンのトレウベルディ外相がNHKのインタビューに答えました。
▼カザフスタン トレウベルディ外相インタビュー
・カザフスタンは多面的でバランスのとれた外交政策をとっている。われわれはロシアや中国、中央アジアの隣国のほか、日本、アメリカやEU、イギリスなど世界の大国との互恵的で平等な関係を発展させようとしている。それにより各国と協力し、あらゆる国から投資を呼び込むことができる。
・特に重視しているのはカザフスタンが交通や物流の経由地として発展する可能性だ。外国からの投資を誘致し、ヨーロッパとアジアを結ぶ中心地になれると思う。
・経済的にロシアとカザフスタンの関係は深く、実際にカザフスタン経済はロシアへの制裁による悪影響を受けている。カザフスタンは対ロシア制裁には加わっていないが、制裁をう回する目的で、さまざまな企業に利用されないという原則を守っている。今のカザフスタンとロシアの関係を今後も継続していく。
・ロシアでは制裁によって多くの外国企業が活動を停止したり事務所を閉鎖したりしているため、これらの企業に対してカザフスタンへの移転や事務所の開設も提案している。市場へのアクセスは開かれている。
・カザフスタンを含む中央アジアの国々は、日本などのパートナーとの互恵的で実用的な関係構築に前向きだ。
発言のポイントを整理してみると、
・多面的なバランスのとれた外交をとる一方で、
・ロシアとの経済関係は深く、維持していくと述べていたこと。
・ロシアへの制裁に加わらないが抜け道にもならないようにすること。
・交通や物流を発展させ、欧米などからも幅広い投資を呼び込もうとしていること。
発言からは、ロシアと欧米などの間でバランスをとり、自国の利益を追求するしたたかな姿勢をうかがわせました。
Q7)日本はどう関わっていけばいいのか。
A7)
日本は現実として、中央アジアに対しロシアや中国ほどの影響力はありません。
ただロシアや中国は大国意識や野心が隠せないのに対して、日本はこれまで人材育成など市場経済化に向けた地道な協力を重ね、自立した経済の発展を手助けすることに重きを置き、野心のないパートナーと位置づけられ、信頼関係を築いてきました。
この関係を続けていくことが、ロシアや中国、また欧米にもない日本の特質となっていくと思います。
また中央アジアと日本の関係強化は、双方にとって外交の選択肢を増やします。
日本が関与していくことは、中央アジアの人たちのためになり、日本にとってもロシアや中国に対して存在感を高めることにつながります。
ウクライナ情勢への対応とともに、中央アジアとの関係を深めることは、重要性を増していくと思います。
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