半導体、薄型テレビなど、かつては日本が世界をリードしていた分野で、今、目覚ましいましい成長を遂げているのがお隣の国、韓国です。平均賃金やひとり当たりのGDPでは日本を上回るまでになっています。こうした“日韓逆転”ともいえる現象について出石 直(いでいし・ただし)解説委員とともにお伝えします。
【日韓逆転】
Q1、“日韓逆転“というとちょっと驚いてしてしまいますが、具体的にどんな分野でこうした現象が起きているのでしょうか?
A1、いくつかの事例をご紹介したいと思います。
世界の市場でのシェアを示したものです。かつては日本企業がトップを占めていたDRAMでは、韓国企業が7割以上のシェアを占めています。フラッシュメモリでも、サムスン電子が3割以上のシェアを占め、薄型テレビでも上位2社は韓国企業、日本のソニーのシェアは5%あまりに留まっています。
1965年に日本と韓国が国交を正常化した時には、日本と韓国の経済力には30倍ほどの開きがありました。それが今では3倍ほどに縮まっています。
ひとり当たりのGDPを国際比較に使われる購買力平価で換算しますと、韓国は2018年に日本を追い抜き、その差はじりじりと広がっています。(日本4万2,940ドル、韓国4万6,919ドル、世界銀行2021)
平均賃金をみても、日本は4万849ドルなのに対し、韓国は4万4,813ドルと、こちらも韓国の方が多くなっています。(OECD2021)今や世界的な企業となったサムスン電子やヒョンデ自動車の初任給は、ソニーやトヨタ自動車を上回っていると言われています。
Q2、それだけ韓国の成長が著しいということでしょうか?
A2、日本と韓国との差が縮まってきた。分野によっては逆転現象も起きているということだと思います。
最近、韓国の若手の経済学者が最近、日本と韓国の経済について書いた本を出版し話題になりました。東京大学で博士号を取得し日本の大学でも教鞭をとっていた方です。
(韓国外国語大学イ・チャンミン教授インタ)
「例えば最近25年間で、韓国に一人当たりの名目GDPは世界34位から30位と4段階上がりましたが、日本の場合は3位から28位でなんと25段階も下落しました。
客観的なデータを見れば、日韓の経済力の逆転は、韓国経済の成長よりですね日本経済の停滞がより正確な説明であると考えます」
Q3、“日韓の”逆転”現象は、韓国の成長ではなく日本の停滞によるもの、というお話でしたが、日韓の成長の差を生み出している要因はどこにあるのでしょうか?
A3、いくつか複合的な原因があると思いますが、例えば「デジタル化」への取り組みです。
世界電子政府ランキングという、行政手続きのデジタル化などICT=情報通信技術による公共サービスの進展度を示すランキングがあるのですが、韓国はデンマークに次いで第2位、日本は上位10位にも入らず14位でした。一年前にデジタル庁を立ち上げたばかりの日本と、20年以上前から国を挙げてデジタル化に取り組んできた韓国とでは、これだけの差が開いてしまっています。
Q4、デジタル化で後れを取っているということですね。
A4、次に「グローバル化」、アメリカの大学で学んでいる韓国人留学生は中国、インドに次いで3番目に多い3万9000人あまりいます。日本は3分の1以下の1万2000人足らずです。
研究開発の分野でも、GDPに占める研究開発費の割合をみますと、韓国は(4.81%)と主要国の中でもっとも多く、日本(3.29%)を上回っています。
そして「多様化」。国会議員に占める女性議員の割合です。韓国は一院制なので日本の衆議院と比較しています。日本は9.9%、韓国は18.6%、社会の多様性を示す女性の社会進出という点でも、日本は韓国に後れをとっていると言えるのではないでしょうか?
Q5、ドラマの「イカゲーム」がエミー賞の主要部門を受賞したニュースもあったように韓国はエンタメ会でも躍進していて、日本はもっと頑張ってほしいという気持ちになります。
A5、もちろん韓国にも深刻な課題があります。韓国経済に詳しい早稲田大学の深川由起子教授に聞きました。
(深川教授インタ)
「中間層から下の人たちの生活が大変に苦しい、でそのしわ寄せは若い人たちに行っています。若い人の雇用は犠牲になる、ということで極端な少子化が進んでいるということですね。ということは研究開発力が上がるという余地が非常に小さくなりますので決して楽観できるような状態ではない」
韓国は大変な競争社会です。一部のエリートは豊かで恵まれた生活を送っていますが、競争に敗れた人達の生活は非常に苦しい。日本に較べると社会保障制度の歴史が浅いので特に高齢者の生活が厳しく、その一方で世界でもっとも少子化が進んでいます。高齢者を支える若者層が減ってきているのです。
Q6、韓国も様々な問題を抱えているのですね。日本と韓国の力関係が変化してきていることが、日韓関係悪化の背景にあるのでしょうか?
A6、それはあると思います。日本の特に古い世代にはどうしても韓国を下に見る、対等に見ようとしない傾向があるように感じられます。一方韓国の中にも「もう日本からは学ぶものはない」という奢った意識が感じられます。
これからの日韓関係はどうあるべきなのか、先ほどのイ・チャンミン教授に聞きました。
(イ・チャンミン教授)
「日本と韓国それぞれの相手の持っていない優れたところがたくさんあると思います。例えば日本の優れたところは予測可能性の高い社会だということです。そして韓国の優れたところは、躍動的な社会だということだと思います。そういう意味で協力のスペースがもっと広がるというふうに思います」
ダイナミックコリアという言葉がありますが、韓国は変化を恐れない、走りながら考える社会です。石橋を叩いて渡る日本とは違って失敗も少なくありませんが、ダイナミックな変化に対応できる柔軟性があるように感じます。
日韓関係も、これまでは上と下という垂直的な関係でしたが、対等な水平的な関係に変わってきています。これからの日韓関係の可能性について深川教授は次のように指摘しています。
(深川由起子教授)
「これまでのように垂直的な、追いつかれる追いつくっていう構造のフレームワークは払拭しないといけないと思います。ひとつは共通の課題に立ち向かっていく。少子高齢化以外にも資源小国ですし、お互い資源ないですし、あと第3国に向けて成功の共有という意味では途上国の支援とか難民の支援ですね。
これでもポジティブに競ったり、協力して日韓が考えるいいフレームワークというのを提供していくという協力の余地というのはたくさんあります」
Q7、お互い協力の余地があるということですね。
A7、日本にとって、すぐ近くに韓国という手強いライバルが出現したことはむしろチャンスととらえるべきではないでしょうか。イ・チャンミン教授が指摘しているように、日本と韓国はお互い似ているようで似ていない面もあり、一方で共通点もたくさんあります。
少子高齢化のような共通の課題には協力して取り組む。一方が弱い分野や不得意な分野では互いに補完し合うような関係を築いていく。そうした関係を作るためには、まずは等身大の相手を見ることが必要だと思います。感情的ではなく客観的に相手を見て理解するという姿勢が、日韓関係の改善には必要ですし、それが日本の再生にもつながっていくのではないでしょうか。
(出石 直 解説委員)
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