2050年に世界の人口の4分の1を占めるアフリカは、大きな可能性を秘め、「最後のフロンティア」と呼ばれる一方で、今なお多くの国が貧困や飢餓に苦しんでいます。そのアフリカの成長のために日本が主導するTICAD・アフリカ開発会議が27日から2日間チュニジアで開かれました。中国、ロシア、アメリカが激しい勢力争いを繰り広げる中、日本はいかに存在感を高めていくのか考えます。
8回目を迎えたTICAD・アフリカ開発会議で岸田総理大臣は、3年間で官民あわせて300億ドル規模の資金を投じる方針を表明しました。また、最終日の28日に採択されたチュニス宣言では、▼投資の促進や人材の育成などの連携強化と、▼国際ルールを順守する健全な開発金融の重要性を確認し、▼ウクライナ情勢に深刻な懸念を表明しました。
Q.今回の会議の成果をどう評価しますか?
前回のTICADでは当時の安倍総理大臣が200億ドルの民間投資を打ち出しました。今回は官民あわせてですがそれを上回る額で、アフリカへのコミットメントを強化するという意欲が感じられます。その背景には中国やロシアが影響力を強め、日本が取り残されかねないという危機感があるのではないでしょうか。ただ、中国は以前600億ドル、去年400億ドルの支援を表明し、日本は金額では勝負にならないだけに量より質を重視し、▼「人への投資」を前面に打ち出しています。▼国際ルールの順守も、中国による過剰な融資によって借金漬けになっている国が増えていることを念頭に透明性のある融資の重要さを確認するものです。▼ウクライナ情勢をめぐっては、ロシアを直接非難する文言は避けられました。3月の閣僚会合でも日本は、「力による一方的な現状変更は断じて許されないとしてロシアの侵略をもっとも強い言葉で非難する」という立場を示しましたが、アフリカの多くの国はロシアを直接非難することに強い抵抗を示したのです。
Q.アフリカの国々はロシアのウクライナ侵攻により食料価格が急騰するなど大きな打撃を受けています。
価格の高騰はロシアへの制裁が原因だと見ている国も少なくありませんが状況は深刻です。アフリカは人口が急増する一方で、干ばつなどの異常気象で食料不足が慢性化し、食料の多くを輸入に頼ってきました。
とくに東アフリカでは小麦の輸入の90%以上をウクライナとロシアに依存してきただけに深刻な食料不足に陥っています。北アフリカではパンの価格高騰をおさえるために多額の補助金を支出し債務が膨らんでいます。また、原油価格の高騰により肥料の値段が上がり食料の生産が落ち込んでいます。国連によればアフリカ全体で3億5000万人が深刻な食料不足に直面しているといわれます。食料の生産増と安定供給が喫緊の課題であり日本の役割が期待されています。
Q.ただアフリカでは中国の影響力が大きいのではないでしょうか。
中国は2000年代に入って莫大な資金を背景に各国で道路や鉄道、空港、港湾施設などのインフラ整備を進め、最大の貿易パートナーでもあります。中国がアフリカを重視するのは、資源の確保と巨大な市場への中国製品の売りこみ、そして「1つの中国」政策への支持を取り付ける政治的な狙いがあると言われます。今や中国はアフリカ最大の貿易パートナーであり、政治的にも圧倒的な支持をとりつけています。かつて台湾を承認していた国も次々と中国を承認し、今アフリカで台湾を承認しているのはエスワティニ、かつてのスワジランド1国だけです。しかし返済能力を超える貸付けが大きな問題となり、2016年以降はアフリカ諸国への融資額が減少しています。
一方で、ウクライナ危機ではロシアの影響力がこれまで思われていた以上に強まっていることが浮き彫りになりました。
Q.ロシアですか?
象徴的だったのが国連総会でのロシアの人権理事会理事国の資格停止をめぐる決議案の投票結果です。欧米や日本など93か国が賛成したのに対し、反対が24か国、棄権が58か国でしたが、アフリカは南アフリカやナイジェリア、エジプト、ケニアなどの主要国を含む30か国以上が反対ないし棄権に回りました。大国の復活をもくろむプーチン大統領のもとかつてのソビエト連邦のようにロシアがアフリカで支持を広げているのです。
Q.ロシアはどうやって影響力を増しているのですか?
食料の供給元であることと武器の輸出や軍事訓練などを通じて関係を強化しています。
ストックホルムの国際平和研究所によれば、2015年以降ロシアはフランス、アメリカ、中国をおさえてアフリカへの最大の武器輸出国です。また、マリや中央アフリカ、スーダンなどでロシアの民間軍事会社ワグネル・グループが反政府活動を抑えこんだり軍の兵士の訓練を行ったりしていると伝えられています。ロシアにとってアフリカは金やダイヤモンド、ウランなどの資源の確保と軍事拠点として重要です。また、国連加盟国54か国を抱えるアフリカを味方につけることで国際的孤立から脱却したいという思惑もあるのではないでしょうか。先月にはラブロフ外相がアフリカ東部を訪問し、ロシアへの制裁に加わらないことを評価するなど欧米諸国の先手を打っています。
Q.アメリカはどうなのでしょうか。
アメリカも巻き返しをはかっています。ブリンケン国務長官が今月、南アフリカを訪問
し、食料の安全保障強化をはじめコロナ後の経済の回復や民主主義の実現などに関
わっていく姿勢を強調しました。12月にはアフリカ各国首脳をワシントンに招いて首
脳会議を開き、アフリカへの関与をアピールすることにしています。
Q.中国、ロシア、アメリカが激しい勢力争いを続ける中で日本はどのような役割を担うことができるのでしょうか。
アフリカの人たちから見れば、中国は莫大な資金を背景にインフラを整備してくれる寛大な国の一方地域経済を飲み込んでしまう存在です。ロシアは武器を売りつけ傭兵が独裁者を守っている、欧米は民主主義を上から押し付けていると映っています。一方日本は技術力と地道な支援が評価されてきました。とはいえ日本の存在感は低下し続けています。
外務省が4年前に発表したアフリカの3つの国で行った調査結果では、日本が信頼できる国、好感が持てる国と答えた人がいずれも80%を超えたものの、最も信頼できる国としては中国を挙げた人が33%だったのに対し日本は7%でした。
アフリカへの直接投資残高も日本はピーク時の半分で今は10位にも入っていません。TICADではアフリカを「投資」の対象と位置づけ日本の企業の進出を促してきましたが増えていないのです。地理的な距離や文化の違いもありますが、アフリカの専門家と話すと常に指摘されるのが日本の企業はリスクをおそれ慎重になりすぎているということです。
アフリカに進出している企業を対象とした調査ではアフリカの重要性を認識しながらも複雑な規制や法令、不安定な政治・社会を理由に投資をためらう企業が多いようです。国内市場が縮小する中でアフリカの巨大市場に目を向けないと日本は生き残りが難しいだけに、単独では無理でもフランスやトルコ、それに現地の企業と連携すればチャンスがあります。また、健康や保健衛生、農業など新型コロナとウクライナ危機で浮き彫りになったアフリカの弱点こそ日本が得意とする分野であり、技術指導や人材育成とともにアフリカで活発化しているスタートアップへの支援も今後の重要なカギとなります。「最後のフロンティア」と呼ばれて久しいアフリカが、これ以上紛争や大国による搾取の場とならないように現地の人々に寄り添った支援と投資を積極的に行うことが日本の使命だと思います。
(二村 伸 専門解説委員)
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