ロシアのプーチン大統領、トルコのエルドアン大統領が、19日、イランの首都テヘランを訪れ、ライシ大統領も交えて、3か国の首脳会談を行いました。先週は、アメリカのバイデン大統領が、イスラエルやサウジアラビアを訪問し、中東で影響力を強めるイランへの対抗策について協議しています。首脳会談の結果を読み解くとともに、立て直しのための交渉が難航するイラン核合意の行方を展望します。
出川解説委員です。
Q1:
3か国の首脳が、イランに集まり、会談したのはなぜだったのでしょうか。
A1:
この3か国は、以前から、シリアの内戦を終わらせるため、連携してきました。このため、3か国の首脳は、シリア情勢についても話し合いましたが、実質的な進展はなかったもようです。
ウクライナでの戦争を抱えるプーチン大統領が、あえて、イランまで足を運んだのは、欧米諸国からの非難と制裁にさらされる中、同じように、欧米の制裁を受けるイランや、トルコとの連携をアピールし、欧米をけん制する思惑があったと思います。
アメリカのバイデン大統領が、先週、イスラエルやサウジアラビアを訪問し、対イラン包囲網の強化を図った直後というタイミングも、重要な要素です。
Q2:
具体的に、どんなことが話し合われたのでしょうか。
A2:
3か国の首脳会談とは別に、ロシアとイラン、それに、ロシアとトルコの2国間の会談も行われました。
まず、ロシアとイランですが、プーチン大統領は、ライシ大統領のほか、最高指導者ハメネイ師とも会談しました。ハメネイ師は、ウクライナ情勢について、「市民に犠牲が出ていることを喜べない」と述べた一方で、「NATOは危ない存在だ」などと述べ、軍事侵攻に踏み切ったロシア側の立場にも理解を示しました。
そのうえで、アメリカなどが両国に制裁を科していることについて、ハメネイ師は、「両国が協力することは互いの利益になる」と述べて、経済やエネルギー分野などでの協力を呼びかけました。
これに対し、プーチン大統領は、「両国の間の取り引きに、自国の通貨を使う仕組みをつくろうとしている」と述べて、金融分野での協力に言及しました。
先週、アメリカのサリバン大統領補佐官が、インテリジェンス情報をもとに、「イランが、武器を搭載できるものを含めた数百機の無人機をロシアに供与する準備を進めている」と指摘していましたが、会談で、これについての言及はありませんでした。実際に無人機の供与が行われれば、ウクライナでの戦況にも影響が出るだけに、アメリカなどが監視を強めています。
Q3:
ロシアとトルコの間では、何が話し合われたのですか。
A3:
ウクライナで収穫された小麦などが、ロシアによる黒海の港の封鎖で輸出できず、世界的な食糧不足や価格高騰を招いている問題が話し合われました。この問題では、先週、トルコと国連の仲介で、ロシアとウクライナの実務者レベルの交渉が行われ、輸出再開に向けた進展があったと伝えられ、今週、最終合意に向けた交渉が行われる見通しです。
首脳会談で、プーチン大統領は、トルコの仲介に感謝を示したうえで、「まだすべての問題が解決したわけではないが、先週の交渉で前進があった」と述べました。
これに対し、エルドアン大統領も、「この会談の結果は、世界によい影響を与えるだろう」と述べて、自らの仲介による問題解決に自信と期待を示しました。
Q4:
ともにアメリカなどの制裁を受けるイランとロシアが関係強化に動いたわけですが、先週のバイデン大統領の初めての中東訪問でも、イスラエルやアラブ諸国との間で、イランの核兵器保有を阻止する方針が確認されましたね。
A4:
はい。バイデン大統領は、14日のイスラエルのラピド首相との首脳会談で、「エルサレム共同宣言」に署名し、この中で、「アメリカは、イランが核兵器の保有国となることを全力で阻止する。他のパートナーとも協力し、イランが地域を不安定化させる行動に対抗する」と明記しています。
また、バイデン大統領は、イスラエルのテレビのインタビューで、「イランの核開発を止める最終的な手段として軍事力を行使する可能性がある」と述べましたが、
同時に、「イラン核合意を立て直し、アメリカが核合意に復帰するための外交交渉に重点を置いている」と明言しました。
サウジアラビアでは、16日、GCC・湾岸協力会議の加盟6か国、エジプト、ヨルダン、イラク、それに、アメリカが参加して首脳会議が開かれ、イランによる核兵器保有と他国への内政干渉を容認しないとする声明が発表されました。
Q5:
バイデン大統領が言及した、イラン核合意を立て直すための協議は、どうなっているのでしょうか。
A5:
EU・ヨーロッパ連合の仲介で、アメリカとイランの間で行われてきた間接協議は、今年2月の時点で、あと、もう少しで妥結しそうだと伝えられましたが、ウクライナでの戦争の影響で、いったん中断しました。先月28日、およそ3カ月ぶりに再開されたものの、現時点で妥結の見通しは立っていません。
Q6:
具体的に、何が対立の原因となっているのですか。
A7:
最も大きな対立点は、イランの最高指導者直属の最精鋭部隊である革命防衛隊の扱いです。アメリカのトランプ前政権は、革命防衛隊を「外国テロ組織」に指定しましたが、イラン側は、その解除を強く要求し、バイデン政権は、これを拒否しています。
バイデン大統領は、イスラエルのテレビとのインタビューでも、革命防衛隊の外国テロ組織の指定解除を、核合意復帰の条件とするならば、アメリカは協議から撤退する可能性があると述べています。
指定解除について、アメリカ国内で反対論が強いこと、そして、同盟国のイスラエルやサウジアラビアからも、強い反対の意思が示されているからです。また、イランとIAEA・国際原子力機関の対立も影を落としています。
Q7:
どういうことでしょうか。
A7:
IAEAは、先月8日の理事会で、イランを非難する決議を採択しました。イランが申告していなかった複数の施設で、核物質が検出されたことについて、イランが十分な説明責任を果たしていないと非難する内容です。イギリス、フランス、ドイツ、アメリカの4か国が決議案を準備し、理事会では、ロシアと中国が反対したものの、賛成30、反対2の圧倒的多数で採択されました。
イランは、「IAEAには、誠実に協力してきた」と強く反発し、対抗措置として、IAEAがウラン濃縮活動をモニターするため設置した監視カメラの一部を撤去しました。
IAEAのグロッシ事務局長は、「査察活動に重大な支障が出て、核合意が崩壊するおそれがある。残された時間は限られている」と強い懸念を示しています。
Q8:
イラン核合意をめぐる状況、なかなか厳しいようですね。
A8:
アメリカ・バイデン政権も、イラン・ライシ政権も、核合意を崩壊させたくないと望んでいることは確かで、そこに一縷の望みがあります。今後、アメリカとイランの間で歩み寄りが見られ、核合意が再生されるのか、それとも、協議が決裂し、核合意が崩壊に向かうのか、どちらに転んでも不思議でない情勢ですが、協議に残された時間は確実に少なくなっています。
(出川 展恒 解説委員)
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