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中国・習近平国家主席69歳 慣例破るか "続投"の課題を解説

石井 一利  解説委員

中国でことし最も焦点となっているのが、後半に開催される共産党大会です。
中国共産党のトップを務める習近平国家主席は、党のトップを続投し、異例の3期目入りするのではないかとみられています。
その習主席は、今月、誕生日を迎え69歳になりました。
中国は、アメリカと激しく対立するなど、外交面で多くの課題に直面しています。
習近平国家主席の「誕生日」と年齢を通して、直面する課題などについて、石井解説委員に聞きます。

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Q1)
習近平国家主席は、69歳となったということですが、中国ではこの年齢どのような意味があるのですか?

A1)
中国の平均寿命は、78歳あまりになると言われていますので、69歳という年齢は、平均寿命は下回っています。
ただ、中国共産党では、慣例として、指導部の引退を迫られる年齢になりました。

Q2)
共産党の慣例というのは、どういうことなのですか?

A2)
中国共産党には、「7は上がり8は下がる」という年齢に関する慣例があります。
党大会が閉会し、新指導部が発足する時、67歳以下は指導部入りできる一方、68歳以上は引退ともされているものです。
習主席は、この慣例を破る形で、党のトップとして3期目入りするとの見方が出ていますので、ことし、共産党が、どのように慣例を運用するのか、関心が集まっています。
その中国、外交面では、アメリカとの対立は激しくなっていますし、課題は山積しています。
隣国、北朝鮮もそのひとつなのですが、実は、北朝鮮は、習主席の誕生日にも関係しているのです。

Q3)
誕生日とも関係あるというのは、どういうことですか?

A3)
中国では、誕生日の贈り物は汚職につながるなどとされ、国家指導者の略歴は生まれた年と月しか公にされていません。
しかし、キム・ジョンウン(金正恩)総書記が、習主席の60歳の誕生日だった2013年6月15日に祝電をおくり、習主席の誕生日が広く知られるようになったといわれています。
中国との強固な関係を築きたいという狙いがあったとみられます。
ただ、その北朝鮮は、今は、中国にとって頭の痛い問題でもあります。

Q4)
北朝鮮は、ことしに入り、弾道ミサイルを相次いで発射し、近く核実験を行うのではないかと、警戒が強まっていますよね。
日本や韓国にとっては重大な脅威ですが、中国としても「頭が痛い問題」というのは、どういうことでしょう?

A4)
相次ぐミサイル発射を受け、国連の安全保障理事会では、北朝鮮への制裁を強化する決議案が提出されましたが、中国はロシアとともに、拒否権まで行使し、否決にしました。
中国としては、対立するアメリカに対抗する狙いもあったとみられます。
ただ、中国は、これまで北朝鮮の核実験には反対してきました。
中国は、北朝鮮に一定の影響力があるといわれています。
今後、北朝鮮が、さらに核実験まで実施すれば、中国として、国際社会に対し、どのような説明を行うのか、場合によっては、外交方針の調整も迫られることになり、難しい立場に立たされることになるかもしれません。
また、中国にとって、ロシアへの対応も、外交面で大きな課題のひとつです。

Q5)
ロシアとの関係では、先日、習近平国家主席は、ロシアのプーチン大統領と、首脳会談を行っていましたね。緊密な関係のようですが、課題なのですか?

A5)
中国にとっては、ウクライナへの軍事侵攻を行ったロシアと、どのような距離をとるのか課題です。
習主席とプーチン大統領は、今月15日、電話会談を行いました。
中国側の発表では、触れられていませんが、この6月15日というのは、習近平国家主席の誕生日にあたる日です。
首脳会談で、習主席はウクライナ情勢を巡り、「独立した判断を下し、世界の平和や経済秩序の安定を積極的に推進してきた」などとして、ロシアへの制裁を強める欧米とは一線を画してきたことを強調しました。
習主席は、およそ1年早く生まれ20年以上前から最高権力を握ってきたプーチン大統領と、2013年以降、40回にもおよぶ会談を重ね、友好な関係を築いてきました。

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両国は、ことし2月の首脳会談後、「両国の友好関係に限りはない」などとした共同声明を発表し、その関係が、かつてないほど緊密になったことを印象付けました。
しかし、その直後、ロシアはウクライナに軍事侵攻。
ロシアは、苦戦し、欧米などからは厳しい制裁も科されています。
中国は、対立するアメリカに対抗するには、ロシアの存在は必要だと考えているようです。
ただ、中国は、ロシアと同じように欧米から制裁を科されることは避けたいとも考えています。
今は、難しいバランスを取りながら、ロシア寄りの姿勢を示しているとみられます。
外交に関連して、中国外務省の人事異動が、話題になっています。

Q6)
中国外務省の人事で話題になったというのは、どういったことですか?

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A6)
中国外務省の次官を務めていた楽玉成氏が、今月、国家ラジオテレビ総局の副局長に異動しました。
楽氏は、ロシアの専門家で、共産党員としての地位も高く、複数いる外務省の次官の中では、筆頭だとされ、今後、中国外務省内でさらに昇進するのではないかという見方もありました。
しかし、中国国内のラジオ局やテレビ局などを監督するラジオテレビ総局に異動したことから、その理由がどういったことなのか、話題になりました。
今のところ、異動の理由は説明もありませんので、よくわかりません。

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その中国の外交を巡っては、外交を統括する楊潔篪政治局委員が72歳。
また、王毅外相も、現在68歳で、ことし10月には、69歳になります。
それぞれ、これまでの党の慣例では、今度の党大会での指導部入りは難しく、引退を迫られる可能性もあります。
中国は、アメリカと激しく対立していますので、楽玉成氏が異動したことで、今後、誰が中国の外交をけん引していくのかも注目されています。
中国は、ロシアとの関係について、これまでトップ同士が会談を重ね強めてきたとも言えます。
ロシア通ともいえる外務省の幹部が異動し、今後、ロシアとの関係を、どのような距離で続けるのか、難しい判断が続きそうです。

Q7)
習近平国家主席、いろいろと難しい問題に直面しているのですね。

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A7)
中国では、党大会を前に、「長老」と呼ばれる引退した党幹部から、ロシア寄りの外交姿勢や「ゼロコロナ」政策について、批判的な声が出ているとも伝えられています。
このため、習主席のライバルともみられている李克強首相の存在感がこのところ注目されています。
党大会を前に人事を巡る駆け引きも強まっているとみられ、様々な課題への対応は、党内の人事とも絡めてみられるようになっています。
党大会では、習近平国家主席が異例の3期目入りをするのか、また、権力の集中を一層進め、集団指導体制の見直しまで行って絶対的な権力も手に入れるのかといったことにも関心が集まっています。
69歳となった習近平国家主席が、ことしの党大会をどのように取り仕切るのか、世界が注視しています。

(石井 一利 解説委員)


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