おととい6月20日は、国連が定めた「世界難民の日」でした。日本国内でも東京スカイツリーや札幌時計台、京都の東寺・五重塔など40か所あまりが国連のシンボルカラーの青色にライトアップされました。難民の保護や支援への理解を求めるイベントです。
UNHCR・国連難民高等弁務官事務所は、世界各地で迫害や紛争が続き、ロシアの軍事侵攻でウクライナから逃れた人などをあわせると世界全体の難民や避難民は1億人を超えことを明らかにしました。難民や避難民の支援は十分行われているのか、現状と日本の支援の課題について考えます。
●難民や避難民が1億人以上というのはたいへんな数ですね。
毎年過去最多を更新し続けています。
UNHCR・国連難民高等弁務官事務所が世界難民の日にあわせて発表した最新の状況では、人種や宗教、政治的意見などを理由に迫害を受けたり、紛争、暴力による身の危険に迫られたりして移住を強いられた人は去年末時点で8930万人でした。この10年で2.5倍に増えました。これにことし2月のロシアのウクライナ侵攻後、住む家を追われた人を加えると1億人をこえたことになります。
8390万人の内訳は国外に逃れた難民が2710万人、国内避難民が5320万人です。
難民で最も多いのがシリア人の680万人で、次いでパレスチナ、ベネズエラ、アフガニスタン人の順となっています。難民が増え続けているのは、シリアやアフリカ各地の紛争が長期化しているのに加えてアフガニスタン、ミャンマーで市民への迫害や人権侵害が続いていること、それに異常気象による災害や貧困などが背景にあります。食料不足やエネルギー価格の高騰が続ければ状況がさらに悪化するおそれがあります。
●ロシアのウクライナ侵攻が続き、市民が置かれている状況も悪化していますね。
ウクライナから国外に逃れた人は770万人をこえました。とくにポーランドには親戚や知人を頼って多くの人が流入し、今も120万人近くが避難生活を送っています。さらに周辺の国々に避難したあとドイツやチェコなどに移動した人も数多くいます。ウクライナに戻った人も200万人をこえていますが、住宅や病院、学校などが破壊され、仕事もなく支援なしに生活できない状況です。
●ウクライナに対しては、日本はどのような支援を行っているのでしょうか。
日本のNGOはウクライナ周辺の国々で支援活動を続けています。政府や企業と連携して国際的な支援活動に取り組んでいるジャパン・プラットフォームは、政府からの拠出金と企業からの寄付あわせて40億円を得て、加盟する19の団体がウクライナ周辺の国々で活動中か準備中です。それ以外の団体も医療や教育支援などにあたっていますが、現地の支援の問題点も見えてきました。
●どんな点ですか。
現地では飲み水や食料、毛布など緊急物資の配布といった初期の段階は終わり、今は移動の多い避難民が自分で必要なものを購入できるよう現金の支給が重要な支援の手段となっています。ところが日本政府が国際機関やNGOに拠出した資金では現金の支給が認められていません。また、海外のNGOはすでにウクライナ国内で支援活動を行っていますが、日本の場合は入国が認められていないため、ウクライナ国内で直接支援できず各国NGOとの調整にも影響が出ているということです。「顔の見える支援」、「効果的な支援」を進めるためにも現場の声に耳を傾け、柔軟な対応を政府に求めたいと思います。
●日本国内ではウクライナ避難民の受け入れが進んでいますね。
先週末までに1316人以上が入国しました。政府は日本に身寄りがない人にもビザを発給し、ホテルなどの一時滞在施設を提供しています。施設を出る際には16万円、その後も1日に2400円支給しています。多くの自治体や企業が住居や就労の機会を提供し、学校もウクライナ人の学生や児童生徒を積極的に受け入れています。入管庁によれば支援の申し出は1600件をこえています。難民に閉鎖的と言われてきた日本で戦火から逃れてきた人をこれほど積極的に受け入れたことはかつてなかったことで、国際社会の一員としての責務を果たそうという政府の方針は評価できると思います。ただ、忘れてならないのは日本と同じアジアでも多数の人が保護を求めていることです。
●アフガニスタンやミャンマーの人たちですね。
その通りです。
去年8月イスラム主義のタリバンが実権を掌握したアフガニスタンでは、女性の教育や就労が制限され、前政権や外国の大使館などで働いていた人たちが身の危険にさらされています。日本政府は緊急避難措置として日本への入国を希望する人を受け入れ、留学生など日本に滞在していた人たちの滞在期間の延長を認めました。これまでに740人が入国しましたが、日本大使館とJICA・国際協力機構の現地職員とその家族以外は、受け入れ側の身元保証がないとビザが発給されません。かつて日本に留学した人など日本と関係がある人でもビザが得られず、タリバンをおそれて知人の家に身を寄せている人もいます。
ミャンマーの人たちはさらに厳しい状況にあります。ミャンマーでは去年2月に軍のクーデターにより民主化を求める活動家や市民、ジャーナリストが弾圧され、国外に逃れる人も相次いでいますが、日本への入国は容易ではありません。
祖国に戻ることができず日本にとどまっているアフガニスタンやミャンマーの人たちは、ウクライナ避難民のような支援を受けられず、困窮者と認められた場合も1日1600円支給されるだけです。言葉の壁もあって仕事に就くのも難しく不安な日々を送っています。
●ウクライナ以外の人たちにももっと目を向けるべきですね。
NGOによればウクライナ避難民の支援のために寄付が増えている一方で、アフガニスタンやシリア、イエメンの人たちを支援するための寄付が大きく減っているということです。国や企業だけでなく、市民の関心も大きく低下しているのです。
ウクライナ避難民への支援の輪が、他の難民や避難民たちにも広がり、行き場を失った人たちを分け隔てなく社会全体で支える、海外ではあたりまえのことが日本でも実現することを望みたいと思います。SDGsがめざす「誰も取り残さない」は、難民・避難民支援にも言えることです。
(二村 伸 解説委員)
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