中国が新型コロナウイルスの感染拡大に揺れています。
感染を徹底的に封じ込める、「ゼロコロナ」政策をとり続けている中国。しかし、オミクロン株が広がり、3月以降、特に上海で、感染者数が急増しています。
中国当局の発表によりますと、上海では、3月1日には、新規感染者は、わずか2人でしたが、半月で100倍になり、4月には、過去最多となる2万7000人を超えました。
感染の拡大は、中国の経済、そして政治や外交にどのような影響を与えるのか、解説します。
Q1)。
上海などでの外出制限、市民にも不満が広がっているようですね?
A1)。
上海では、当局が国有の賃貸マンションを隔離施設として利用するため一部の住民を退去させようとしたところ、住民が抗議活動を行い、警察と衝突する事態となりました。
また、ぜんそくの症状を訴えた看護師が勤務先の病院で診察を受けられず死亡するなど、簡単に医療機関に行けない状況になっているほか、食料などの生活物資が足りない状況にもなっていて、人々の不満が高まっています。
Q2)。
経済にも大きな影響が出ていると伝えられていますね。
A2)。
感染拡大の経済の影響はすでに形になって表れています。
4月18日に発表された中国の今年1月から3月のGDP・国内総生産の伸び率は、前の年の同じ時期と比べて4.8%のプラスとなりました。2月までの統計がでた時点では、5%を超える数字も見込まれていましたが、伸び悩む形となりました。
中国経済は去年コロナ禍による消費の停滞や不動産産市場の低迷で減速傾向が続いていました。しかしことし後半に開催される共産党大会をしっかりした経済の足取りで迎えようと、年間の成長目標を5.5%前後と高めに設定。公共投資を大幅に増やすなど経済のテコ入れをはかってきました。
しかし、上海のほかにも、南部や東北部の主要都市で事実上の都市封鎖が行われた結果、消費に陰りが生じました。
また、上海や、東北部、吉林省の長春は、それぞれ中国を代表する自動車メーカーの生産拠点となっていますが、厳しい外出制限で従業員が出勤できず生産が大幅に減少。この影響で、中国の自動車販売台数は、先月は11.7%のマイナスと大幅に減少しました。このように新たな感染拡大は中国経済に大きな影を落としています。
香港中文大学の研究チームは、中国国内を走行するトラックおよそ200万台の位置情報をもとに、トラックが移動する状況と各地区の経済活動がどう関係するか明らかにしたところ、中国全土の10分の1の都市で二週間にわたって都市封鎖された場合には、控えめに見ても、GDPの3.1%、日本円で6兆円近い経済的なコストが生じるという分析結果を発表しました。
Q3)。
経済への影響が大きいと分かりながら、なぜ、「ゼロコロナ」政策を転換できないのでしょうか。
A3)。
上海では、当局にも影響力のある感染症の専門家が、去年、「このウイルスと共存するための知恵が必要だ」といった考えを示すなど、経済への影響を抑えるため政策を転換し、いわゆる「withコロナ」路線の道を探るべきだという声も出ていました。
しかし、習近平指導部は、これまでコロナの封じ込めに成功しているのは、共産党統治の正しさだと誇示してきたこともあり、いまのところ、変更する考えはなさそうです。
習主席が「堅持こそ勝利だ」と述べるなど、習指導部は「ゼロコロナ」政策の徹底を繰り返し強く指示しています。
政策維持の背景には、医療体制がぜい弱だとする当局の強い懸念があるとみられます。
それを裏付けるようなリポートが、政府系機関で、先月、発表されました。
人口1億2000万あまりの広東省をモデルに、海外から移動する人の多さや、移動制限といった規制を緩和した場合の感染者数などを予測しています。
それによりますと、「共存」戦略に転換し、規制を大幅に緩和した場合、感染者数は、年間680万人に上り、死者は6万4000人を超えるとしています。
中国では、最初に感染者と死者が増えた2年前、政府の初期対応の遅れを指摘する厳しい声が出ただけに、「ゼロコロナ」政策をやめることは、感染者がさらに増えかねず、簡単ではなさそうです。
Q4)。
経済の予想以上の落ち込みは、習近平指導部にとっても痛手ですね。
A4)。
そうですね。
特にことし後半、9500万人もの党員を率いる指導部の人事を決める共産党大会を控えます。
習主席が党のトップを続投し、異例の3期目入りを目指すと言われているなか、中国のことしの目標は安定です。
しかし、上海の感染者の急増は、安定を崩しかねません。
上海市トップの書記を務める李強氏は、習主席のかつての部下で、最高指導部入りも取りざたされていますが、コロナ対応で住民から批判され、その去就が注目されています。
Q5)。
対応によっては人事にも影響しかねない可能性があるのですね。
A5)。
はい。さらに、コロナの感染拡大で経済の基盤が弱まることは、中国外交の足元も揺るがしています。
習主席とロシアのプーチン大統領は、2月、首脳会談を行い発表した共同声明では、「両国の友好関係に限りはなく、協力関係の分野で『禁じられた』ものはない」とまで宣言しました。
アメリカとの厳しい対立が続く中、ロシアとの間で軍事面も含めて広い範囲で協力関係を深めていくことを確認しました。
ところが、その直後、ロシアがウクライナに軍事侵攻。
ロシアが苦戦し、厳しい経済制裁を受けるなど、国際社会から孤立したことは、中国にとっても大きな誤算で、党内からも批判の声が出ていると伝えられています。
中国共産党の機関紙、人民日報は、3月、習主席とアメリカのバイデン大統領とのオンライン首脳会談を紙面の目立つ場所に大きな写真を掲載して伝えました。
この頃、中国は、ロシア寄りの姿勢を修正しようか、という動きも見せていました。
しかし、アメリカが中国に対する厳しい姿勢を崩さないこともあってか、ロシア寄りの姿勢は変わりません。
ただ、中国は、これ以上、ロシアに肩入れすればアメリカなどから経済制裁を受ける恐れもあり、これまでのような強気一辺倒の外交政策を続けるわけにもいかなくなっています。
中国にとって、ことしの党大会は、大きな転換点になるとも指摘されています。
その党大会を前に、習近平指導部が示す、政策や方針が、いったい誰のためのものなのか、国の内外からかつてないほど、厳しい視線が向けられています。
(石井 一利 解説委員)
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