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避難民受け入れ 課題と責任

二村 伸  解説委員

ロシアによる軍事侵攻を受けて、ウクライナから国外に逃れた人は450万人以上。
日本にも10日までに530人が避難し、政府は相次いで支援策を打ち出しています。
一方で、アフガニスタンなど同じように紛争から逃れてきたものの十分な支援を受けられず日々の生活に困っている人も少なくありません。日本に避難してきた人たちに求められる支援について考えます。

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Q1. ウクライナ避難民に対して各国がさまざまな支援を行っていますが、日本はこれまでどのような支援を行っているのでしょうか。

ポーランドやモルドバなどウクライナの周辺国に逃れた人たちへの支援と、日本国内に逃れて来た人たちへの支援、いずれもかつてない活発な動きが見られます。
周辺国では日本のNGOが国際機関や各国NGOとともに食料や水、医薬品、毛布などを提供している他、保健・医療や教育などの支援を行っています。42のNGOからなるジャパンプラットフォームには、日本政府からの拠出金36億円と企業からの寄付2億円のあわせて38億円が集まり、加盟する18団体が現地で支援活動を行います。

Q2.日本国内でも様々な支援が行われていますよね。

政府と自治体、企業、それに市民団体が様々な支援を申し出ています。

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▼政府は日本に親族や知人がいない人に対して一時的な滞在場所としてホテルの部屋を提供し、食事のほかに生活費として1日1000円を支給、ホテルを出たあとは一時金16万円の他、生活費を1日2400円支給することを決めました。

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▼さらに全国の自治体と民間企業、NGOなどによる住居や雇用、就学、それに生活相談などの支援の申し出はおとといまでに1000件をこえています。▼全国各地の日本語学校では、ウクライナで日本語を勉強していた学生を対象に11校あわせて100人受け入れることを表明し330人もの応募がありました。すでに一部の学生は入国し勉強を始めています。国際基督教大学でも5人の学生枠に68人が応募しました。こうした動きは他の日本語学校や大学にも広がりつつあります。

Q3.日本で紛争地域から逃れて来た人をこれだけ積極的に支援する動きはこれまでなかったのではないですか。

日本は1970年代後半から80年代にかけて、ベトナムとカンボジア、ラオスから逃れてきたインドシナ難民1万1千人を受け入れた経験がありますが、今回のような官民あげての支援はこれまでありませんでした。これを機に日本の人道的な受け入れ態勢が整備され、難民に閉鎖的な国という汚名が返上されることを期待したいと思います。同時にアフガニスタンやミャンマー、それに紛争が12年目に入ったシリアの人たちへの支援も忘れてはならないと思います。ウクライナと違ってなぜ自分たちは入国が認められないのかと複雑な思いを抱いている人が少なくありません。

Q4.アフガニスタンではタリバンが権力を握ってから大勢の人が国を逃れましたが、日本にはどれくらいの人が避難してきているのでしょうか。

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去年8月にタリバンが権力を握って以来、600人以上が避難してきました。日本から祖国に戻ることができない人も大勢います。多くが国の支援を十分受けられず、家や仕事探しに苦労しているということです。

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NGOがアフガニスタンから避難してきた人や祖国に戻ることができなくなった留学生などを対象に行った調査によれば、▼回答者の95%が、前政権で働いていたことや日本に留学経験があることなどを理由に帰国すれば迫害を受けるおそれがあると答えています。▼多くの人が就労の難しさや経済的な支援の不足をあげ、住宅の退去を迫られたり、仕事が3月以降なかったりして今後の生活に不安を抱いている人もいます。ある男性は日本の大学で博士号を取得したものの日本語ができないためアルバイト先を見つけるのも苦労しているということです。▼日本語を学びたくても経済的な余裕がないという人も多く、外国人にとって日本の生活は言葉の壁が厚く立ちはだかっていることが改めて浮き彫りになりました。

Q5.避難してきても厳しい現実が続いているわけですね。

日本に来ることができた人はまだ良い方で日本に来たくても来ることができない人の方が圧倒的に多いのです。アフガニスタン人は、日本のNGOのスタッフや日本に留学経験のある人でも日本に身元保証人がいないとビザが出ず、タリバンの支配におびえて暮らしています。年老いた両親を連れてくることができず訪日を断念した人も少なくありません。
日本政府はアフガニスタン復興支援の一環として留学生の受け入れに力を入れ、2001年岸田総理大臣が文部科学省の副大臣だった当時プロジェクトチームを設置して2003年から国費留学生を受け入れてきました。

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JICA・国際協力機構による人材育成プロジェクトでは2011年からこれまでに修士と博士課程であわせて600人以上を受け入れました。留学生たちは高度の専門知識や技術を身につけ、祖国で都市開発や公共事業、エネルギー、高等教育などの分野で活躍していましたが、日本に留学した経験や前政権で働いていたことなどが理由でタリバンから追われるようになりました。夫が日本にいることがわかると家族に危険が及ぶ可能性があり、学校に通えない子どもいるということです。

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アフガニスタンからの退避者に詳しい千葉大学の小川玲子教授は、「日本にいる留学生は経済的な理由やビザが得られないため家族を呼び寄せることができず、不眠症など心理的なストレスを抱え、勉強に専念できない」と指摘したうえで

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「退避してきた人たちの多くは日本が育てた人材であり、日本語教育や住宅、就労などの支援があれば自立して生活できる人たちだ」として、政府に対してこの問題に正面から取り組むよう求めています。

Q6.アフガニスタンから避難してきた人たちにもしっかりした支援が求められますね。

アフガニスタンから日本に避難した元留学生の6割以上が日本での定住を希望していますが、現状では支援なしに生活できない状態です。ウクライナからの避難民が祖国に戻ることができるようになるまで時間がかかると見られるだけに長期的な支援が必要となります。そのためにもこれまでのアフガニスタンの人たちの受け入れで浮かび上がった問題点をしっかりと検証し、今後の支援にいかしてほしいと思います。同時に日本に貢献してくれた人や日本で学び日本を第二の故郷と見なすアジアの人たちにも目を向けてほしいという声にこたえることが日本の責務ではないでしょうか。

(二村 伸 解説委員)


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