ロシアがウクライナに軍事侵攻して20日(先月24日~)。
この間、ロシア軍はチェルノブイリ原発に加えて稼働中のザポリージャ原発も占拠。さらに、核関連施設を攻撃し、世界に衝撃を与えました。一方ロシアはウクライナが核兵器保有を意図しているとして、ウクライナ侵攻の理由の一つとしています。
今日はウクライナと核の関わりからロシアの意図を読み解きます。
石川解説委員に聞きます。
Q1(西海)
ロシア軍が相次いでウクライナの原発を占拠しています。一連の攻撃の中でもショッキングなものでした。
A1(石川)
私も驚きました。このザポリージャ原発は6基の軽水炉があり、攻撃された時にはそのうち3基が稼働中でした。原発そのものではなく原発周辺の訓練施設でウクライナ側と銃撃戦になったようですが、そもそもウクライナは原発が15基稼働する原子力大国で、そこで砲弾が飛び交う戦争が行われること自体異常なことです。原発などの施設を攻撃することは戦時国際法でも禁止されています。ロシアとしては、原子力発電所を破壊する意図はもちろんなく、原子力発電所を押さえることでウクライナ側へのエネルギー供給の面でも圧力をかけようとしているものとみられます。また自らが管理したほうが安全と思っているのかもしれません。原子力発電所は福島の例でも分かるように例えば原子炉そのものは大丈夫でも電源供給が途絶えれば冷却できなくなり、メルトダウンとなります。ウクライナの原発の安全性が保たれるかどうか非常に懸念されます。
Q2(西海)
ロシア側はウクライナには核兵器開発計画があると非難しています。そうした計画はあるのでしょうか?。
A2(石川)
ウクライナには核兵器の原料となるプルトニウムや高濃縮ウランを作る能力がありません。発電用の軽水炉は不可能とは言いませんが、核兵器の製造には向かない作りです。ウラン濃縮施設や再処理施設、あるいはプルトニウム製造用の原子炉が実験炉レベルでもないということです。これはロシアは十分わかっていると思います。
ロシアは、ウクライナのゼレンスキー大統領の、ある発言をいわば利用して、ウクライナの核開発疑惑という実態のない言いがかりをつけたのだと思います。
ゼレンスキー大統領(2月19日ミュンヘンでの国際会議)
「ウクライナは、もしもブダペスト覚書が機能しないのなら、1994年の包括的な決定の効力は疑われると信じる権利がある」。
Q3(西海)
「ブダペスト覚書」とは、どのようなものなのですか?。
A3(石川)
★ソビエト崩壊後、ウクライナが核兵器を放棄したときの合意がブダペスト覚書です
ウクライナはソビエト時代、多くの核兵器が配備され、その数だけなら世界第三位の核保有国とも言えました。
私は★ソビエト崩壊直後の★1992年から93年にかけてウクライナを含めて旧ソビエトの核廃棄開発と核拡散防止について取材しました。ウクライナが核放棄をするのかどうか、そしてウクライナなどの核技術者が北朝鮮や当時のイラクなど核保有を狙う国々に流出する恐れはないのか、それが最大のテーマでした。
ようやく、94年にウクライナは核兵器を放棄する、その代わりにアメリカ、イギリス、ロシアがウクライナに安全の保障を与えるというブタペスト覚書が交わされたのです。
しかし今、そのウクライナがロシアの脅威の前に安全の保障が危うくなる中で、ゼレンスキー大統領はこの合意そのものの効力に疑念を持つと述べたのです。私は気持ちは非常に分かります。理解できます。ただ大統領としては不用意な発言で、むしろ我々は核兵器放棄を順守する、その代わりに安全の保障の義務があることを忘れるなといえばよかったのですが。
Q4(西海)
ただ、一方で、ロシアはウクライナの技術について恐れも抱いてきたということでしょうか?。
A4(石川)
1992年から1994年にかけて取材した際に、ウクライナのミサイル技術のポテンシャルには驚きました。これはドネプロにあるミサイル工場ユージュマシュです。ここではアメリカからサタンといわれた戦略核ミサイル、10個の弾道をもつSS18を製作していました。ソビエトのミサイル技術がここに集約していました。またハリコフにある企業ハルトン、ここでは核ミサイルを目標に向かって誘導するシステムを作っていました。ミサイルということに関して言えばロシアが恐れるだけの技術とポンテンシャルをウクライナは持っているのです。
そしてウクライナは、独自のミサイルの開発も進めており、それがロシアを恐れさせたともいえます。
プーチン大統領が、ウクライナがNATOに加盟して、ウクライナに中距離ミサイルが配備されれば数分でモスクワに届くとのべました。今ウクライナにはそのようなミサイルはありません。ただ中距離ミサイルを自らの力で作る能力は十分あり、プーチン大統領はウクライナ独自の軍事力が発展する前に叩く必要があると思ったのかもしれません。
ハリコフへの攻撃を強めていますが、ハルトンは今もウクライナの宇宙防衛産業の中心となっており、この企業を押さえたいと思っているのかもしれません。
Q5(西海)
そういう高い技術力を持ったウクライナですが、足元の安全保障体制は脆弱だったということでしょうか
A5(石川)
ウクライナにとっては、もう少ししっかりとした安全保障の枠組みを作っておけば今回のようなことは無かったとおもっているかもしれません。
ソビエト崩壊後の核拡散防止の動きを現場で取材していたものとして、ウクライナに核兵器を放棄させることに必死になっていて、国際社会はウクライナの安全の保障についてもう少ししっかりした枠組みを作る必要があるのではないか、国際社会の関心は核放棄にばかりゆきウクライナの安全の保障がこうした条約でも国連安保理決議でもない、覚書という紙切れ一枚で終わったことが、今の悲劇を招いた一つの原因となったのではないか。私も核放棄、拡散防止だけに取材の関心は集中していたなど、今思うと取材者としても後悔しています。
Q6(西海)
ウクライナの状況、今後の見通しは?。
A6(石川)
戦闘と交渉が並行して行われている。交渉を有利にするためにもロシア側は攻勢を強めているようにも見える。まだ交渉よりも戦闘のモードが強い。ただ毎日ワーキンググループに分かれてリモートで交渉しているといわれており、ロシアの要求する中立化とウクライナの要求する停戦と軍の撤退、それからウクライナへの安全の保障は一つのテーブルに乗せて、一致点を見出す話し合いが行われている可能性はある。ただ双方の立場の違いは大きく部分的な停戦はあるかもしれないが、戦闘が完全に終わる見通しは残念ながらまだない。
(石川 一洋 解説委員)
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