北京での開催は2008年の夏の大会に次いで2度目です。注目される競技や選手、そして中国の障害者をめぐる現状について竹内解説委員に聞きます。
【北京パラリンピックの競技の魅力】
Q)いよいよパラリンピックが開幕しますね。どんな競技が行われるのでしょうか。
A)6競技78種目が行われます。
最高時速は100キロを超えるスピードのアルペンスキー。
雪上のマラソン、クロスカントリースキー。
クロスカントリースキーに射撃を組み合わせたバイアスロン。
躍動感あふれる滑りが魅力のスノーボード。
激しい肉弾戦!スレッジと呼ばれるそりにのって戦うアイスホッケー。
男女4人がチームを組んで戦う車いすカーリングがあります。
【世界のスーパーアスリート】
Q)どの競技もおもしろそうですね。
A)まずはアルペンスキー、スロバキア代表のヘンリエタ・ファルコショーワ選手です。視覚に障害があります。
競技は先導するガイドの指示を頼りに行います。
平昌大会ではアルペンスキー5種目のうち4つの金メダルと1つの銀メダルを獲得。今大会は全種目制覇に挑みます。
二人目は、クロスカントリースキーとバイアスロンに出場するアメリカ代表のオクサナ・マスターズ選手です。手と足に障害があります。マスターズ選手は夏も冬もこなすオールラウンドプレイヤーで、東京大会では自転車で金メダルを2つ。冬は平昌大会ではクロスカントリースキーとバイアスロンに出場し、金メダル2つを含む5つのメダルを獲得しており、今大会でも優勝候補の筆頭です。
Q)開催国、中国の選手はいかがですか。
A)中国は夏は圧倒的な強さを誇っています。東京大会でも金96を含む207のメダルを獲得しました。ただ、冬はというと、獲得したメダルは平昌大会の車いすカーリングの金メダル1つしかないんです。
【冬も進む中国選手の強化】
Q)自国での開催を前に強化は進んだでしょうか。
A)今大会は過去最多の96人が6競技に参加するということで、この大会に向けて力を入れてきたことが伺えます。どの競技でも表彰台を狙える選手が育成できているということですが、急ピッチな育成ができた背景には二つの要素があると思います。
【練習環境の整備】
一つは練習環境の整備です。2020年12月には、パラリンピック選手用の冬の屋内スポーツ専門の練習場が完成。完全バリアフリーで車いすカーリングやアイスホッケーの選手が年間通して練習できるようになっています。
政府のホームページによると、アスリートが居住できる空間やレストランはもちろん北京体育大学などの研究機関が選手を様々な角度からバックアップしているということです。
強化をしてきたアイスホッケーについて、去年、中国代表と戦った日本代表の須藤悟さんによれば、「すべての選手がパワーがあってスピードもある。体も大きい。メダル争いに絡む可能性は十分にある」ということで、「台風の目になるのでは」と言っていました。
【豊富な人材・激しい競争】
もう一つは豊富な人的資源による競争です。中国の障害者はおよそ8500万人いるとされています。国はそのなかから選りすぐりの選手を選び、その競争心を煽っています。その要素の一つがパラリンピックで入賞したときに与えられる報奨金などです。
国からの報奨金は明らかになっていませんが、省の報奨金でも日本円にして1000万円を越えるところもありました。また優秀な成績を収めると大学入試も免除される制度もあります。
中国でコーチを務めた経験のあるパラアルペンスキーの伴一彦コーチによれば、「強化対象選手は10代も含め7~80人ほど。
強化対象になれば給与が得られるが、外れれば打ち切られる。みんな必死だった」といいます。
【中国の障害者の生活】
Q)中国には障害のある人たちが8500万人暮らしているということでしたが、障害者をめぐる環境というのはどのようになっていますか。
A)中国で障害者施策が大きく進んだのは、改革開放を進めた鄧小平氏の息子、鄧樸方氏の功績によります。文化大革命のときに脊髄を損傷し、車いす生活を送ることになった鄧樸方氏は、障害者の権利の保護と社会的地位を向上させるために尽力してきました。
こうしたこともあって、2008年に中国は障害者権利条約を批准し、障害者の権利や利益が侵されることがないよう国内の法整備も続けています。
しかし、一方で、農村部の障害者の支援は家族に頼り切りで、雇用先もなく自営をせねばならず収入が少ないなどまだまだ課題もあると聞いています。
【進むか?バリアフリー】
Q)前回のパラリンピックを経て、障害者の環境に何か変化はあったのでしょうか。
A)2008年の夏のパラリンピックの招致に伴い進められたバリアフリーは、今大会で一層推進され、北京市内の地下鉄やバスの整備も進んでいるということです。ただ研究者によると施設は整備されても、そこにたどり着けない、あるいはトップダウンのため障害者の目線が生かされていない設備もあります。点字ブロックの上に自転車やバイクが置いてあるということもよくあるようで、課題は多いようです。
一人っ子政策世代が高齢化しているので、バリアフリーは障害者だけの問題ではありません。
北京での整備がモデルになって地方に広がっていくのが慣例となっているということなので、今後の広がりを期待したいと思います。
【ロシアのウクライナへの軍事侵攻の影響は?】
Q)ロシアによるウクライナの軍事侵攻がスポーツの世界にも影を落としていますが、パラリンピックに影響は出ているのでしょうか。
A)IPC=国際パラリンピック委員会のパーソンズ会長は、国連総会で採択された休戦期間中にウクライナに侵攻したロシアを「強く非難する」という声明を出しています。
攻撃を受けているウクライナは、「平和のため、ウクライナと私たち全員のために戦う」と強い決意表明をしています。
オリンピックが「平和の祭典」ならパラリンピックは「平和を考える祭典」だと私は思います。というのも、パラリンピックには戦争や紛争などで障害を負った選手が参加しています。選手は人間の可能性の限界を示すとともに、戦争の悲惨さを身をもって訴えていると思います。この機会に改めて、パラリンピックの意義と平和の尊さについて考えることが求められていると思います。
(竹内 哲哉 解説委員)
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