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台湾の防空識別圏に中国軍機の進入相次ぐ

石井 一利  解説委員

台湾をめぐる情勢についてお伝えします。

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今月(10月)に入り、台湾が設定する防空識別圏に進入する中国軍機の数が急増しています。
今月4日は、のべ56機が進入。
去年9月以来、1日に確認された数としては、最も多くなっています。
中国共産党系のメディアは、「平和統一への努力は放棄しないが、戦闘によって台湾を解放することが、次第に中国の世論の主流になってきている」として、アメリカと関係を深める蔡英文 政権への警告だと伝えています。
石井さん、この中国軍機の動き、どうみたらいいのでしょうか。

(A1石井)
非常に注意しなければいけないものだと、思います。
ただ、ただちに軍事的な緊張が高まるのかといえば、今のところ、その可能性はそれほど高くないのではないかと思います。
中国側の動きは、台湾に対する軍事的な圧力強化という面もありますが、中国国内向けの宣伝、国威発揚という面もあると思います。
といいますのも、今回のタイミングです。
今月1日の中国の建国記念日にあたる「国慶節」の大型連休にあわせて、急増しているからです。

(Q2)
それにしても、数が多いですね。
どのように進入したのでしょうか。

(A2)

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これは、台湾側の発表をもとに中国軍機の動きを示したものです。
防空識別圏は、一般的に、防衛上の必要から、航空機の敵味方の識別のために特定の距離に設けられている空の防衛圏です。
一連の進入は、台湾が設定している防空識別圏の南西沖でした。

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台湾側が台湾海峡のほぼ中央に設定し、これを超えると「挑発的な意図がさらに強い」とみなす中間線を横切ったケースは、今回、確認されていません。
台湾側は、防空識別圏に中国の戦闘機などが進入した場合、その都度、スクランブル=緊急発進などの対応を強いられます。
緊張した対応が重なればパイロットの疲労なども蓄積しますので、中国側は、台湾側を疲弊させることを狙っているとも指摘されています。
こうしたことは、偶発的な衝突などといったことが起きる可能性もあり、非常に危険です。

(Q3)
中国が台湾に対して圧力を強める思惑はどこにあるのでしょうか?

(A3)
中国共産党が、1949年の中台分断後、「台湾統一」を長期的な目標と掲げ、悲願としているからです。
習近平国家主席も個人的に思い入れが強いと言われています。
習主席は、今月、辛亥革命から110年となったことを記念する式典で次のように述べ、台湾の統一に自信を示しました。

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「祖国の完全な統一という歴史的に任務は必ず実現しなければならないし、実現できる」。
習主席は、台湾統一の方法は、平和的な統一だとしています。
そのうえで、香港とマカオで取り入れた「一国二制度」の適用を目指すとしています。
しかし、習主席は、2019年1月、みずからの包括的な台湾政策を示したなかで、「あらゆる必要な選択肢を保持する」として、武力行使も排除しない強い姿勢も示しています。
また、中国の国営メディアは、中国軍が台湾への上陸を想定した訓練とみられる映像を公開。
中国は、「軍事力は使える」という姿勢もちらつかせています。

(Q4)
台湾側は、どのように受け止めているのですか?

(A4)
中国の軍事的な圧力が強まっていることに危機感を強めています。
蔡英文総統は、今月、次のように述べて、強く反発しました。
「台湾の人たちが圧力に屈するとは思わないでほしい」。
また、蔡総統は、中国が目指す「一国二制度」による台湾統一は、拒否する姿勢です。
さらに、蔡総統は、「現状維持がわれわれの主張だ。現状が一方的に変更されるのを全力で阻止する」とも述べています。
そのため、台湾当局は、射程の長いミサイルの量産などに取り組んで、中国に対する抑止力を高めることにしています。
来年から5年間で、最大9500億円の特別予算を編成するための法案を台湾の議会にあたる立法院に提出しています。
また、台湾の邱国正国防部長は、(きゅう・こくせい)今月6日、「2025年以降、中国が全面的な台湾侵攻の能力を持つ」と述べ、中国が急速に海軍力や空軍力を高めていることに強い危機感を示しています。

(Q5)
台湾側の危機感は強いようですね。
双方は今後、どのような姿勢でのぞむのでしょうか?

(A5)
中国は、台湾の民進党の蔡英文政権を独立志向が強いとみなし、批判しています。
中国としては、様々な圧力をかけて、台湾を国際社会から孤立させ、台湾の人たちがあきらめたところで、統一しようとしているとも、指摘されています。
一方の台湾側は、国際社会から孤立しないよう、「民主主義陣営の一員だ」などと、国際社会に訴えています。
最近では、それにこたえるかのような動きも出てきています。
フランスの元国防相を団長とする議員団が、今月、台湾を訪問し、蔡英文総統と会談するなどしました。
ヨーロッパの一部の国などでは、台湾と関係を強化しようという動きも出ています。
これに対して、中国は、「1つの中国」の原則を順守すべきだとして、強く反発しています。

(Q6)
最悪の事態を防ぐにはどうすればいいのでしょうか。

(A6)
中国が、台湾の侵攻などといった、力による一方的な現状の変更をしてもいいのではないかと思わせることが、ないようにする必要があると思います。
台湾情勢の安定を重視するアメリカは、台湾関係法によって台湾への継続的な関与を行っていて、台湾海峡に艦艇を通過させるなどして、中国をけん制しています。

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台湾政治に詳しい東京大学大学院の松田康博(まつだ・やすひろ)教授は、アメリカの台湾海峡への関与を支援、維持するなどして、「国際社会は、中国が将来、武力行使を選ばないように抑止力をはたらかせることが重要だ」と話しています。

日本の最西端の与那国島と台湾との距離は、およそ110キロしかありません。
台湾をめぐる情勢は、日本にも大きな影響が及びかねないだけに、引き続き、注視していく必要があると思います。

(石井 一利 解説委員)


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