数々のピアノ曲を生み出した天才作曲家ショパン。そのショパンにちなんだショパン国際ピアノコンクールが、来月2日からポーランドの首都ワルシャワで始まります。新型コロナウイルスの感染拡大で1年延期された今回のコンクールには、日本から才能豊かな14人の若手ピアニストが参加しており、その活躍が期待されています。出石 直(いでいし・ただし)解説委員とお伝えします。
【世界3大コンクール】
Q1、ショパンコンクールと言えば、若手の登竜門ですよね。いよいよ始まるんですね。
A1、ショパンコンクールは、チャイコフスキーコンクールなどとともに世界3大コンクールのひとつと言われています。このコンクールには他のコンクールにはない大きな特徴があります。まずピアノだけのコンクールだということ、しかも演奏されるのはショパンの曲だけです。
ショパン(1810-1849)は“ピアノの詩人”と呼ばれ、39年の生涯で数々の優れたピアノ曲を残しました。ショパンコンクールは、そのショパンの故郷でショパンの作品だけで腕を競うという、ピアニストにとっては大きな目標であり憧れの舞台です。
今回のコンクールは、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で開催が1年延期されました。オリンピックは4年に一度ですがショパンコンクールは5年に一度、しかも16歳から30歳までという年齢制限があります。チャレンジできる回数は限られますし、一年の延期は、アスリート同様、モチベーションを維持するのが大変だったと思います。
【日本からの参加者】
Q2、コンクールには日本からは14人が参加するということですね。
A2、はい。予備予選を勝ち抜いた16の国と地域から87人のピアニストが来月からの本選に臨むことになっています。そのうち14人が日本からの参加者です。
国別では、中国、そして地元ポーランドに次ぐ人数となっています。
最近の国際コンクールでは、中国、日本、韓国といったアジア勢の活躍が目立っています。優勝者を除いて入賞者全員がアジア勢だったこともあったほどです。
Q3、日本からの参加者、どんな方々なのでしょうか?
A3、話題のピアニストを何人かご紹介します。
反田恭平(そりた・きょうへい)さん(27)。すでに国内だけでなく海外でもソリストとして活躍中で、今、もっともチケットが取れにくいピアニストと言われています。
コロナ禍でコンサートが次々とキャンセルになりましたが、反田さんはいち早く有料のオンライン配信を立ち上げて演奏の場を確保し、音楽家の生活が失われないよう力を尽くしました。また若手演奏家によるオーケストラを結成してその経営も担うなど、多方面での活躍ぶりはこれまでにないタイプの音楽家として注目を集めています。ショパンコンクールに出場したいと思ったきっかけはテレビのドキュメンタリー番組だったそうです。4年前からはポーランドの音楽院に留学しショパンの本場でコンクールに備えてきました。
牛田智大(うしだ・ともはる)さん(21)。牛田さんは12歳でCDデビューし天才少年として話題となりました。国際コンクールの入賞経験もある実力者です。
角野隼斗(すみの・はやと)さん(26歳)。角野さんは音楽大学ではなく東京大学工学部の大学院で情報処理を専攻したという変わり種です。ユーチューブの世界ではCaTeen(かてぃん)という名前で知られており、おもちゃのピアノを使った演奏などジャンルにとらわれない活動を続けています。
このほか、前回、日本人としてはただ一人最終選考にまで残った小林愛実(こばやし・あいみ)さん(26)、名古屋大学の医学部で学びながら医師とピアニストの二刀流を目指している沢田蒼梧(さわだ・そうご)さん(22)ら個性的で才能豊かな顔ぶれが揃っています。
Q4、すごい顔ぶれですね!期待が高まりますね!
【日本人初の優勝なるか】
A4、実は、このショパンコンクール、100年近い歴史の中で日本人の優勝者はまだひとりも出ていません。2000年には中国のユンディ・リ、前回2015年には韓国のチョ・ソンジンが優勝しています。今回、日本人初の優勝者が出るかどうかも注目されています。
Q5、なぜ中国や韓国からは優勝者が出ているのに、日本人は優勝できなかったのでしょうか?
A5、日本人の入賞者はたくさん出ています。皆、素晴らしいピアニストばかりです。
ただ審査員の間では「日本人はきちんと準備をしていて上手に弾くのだけれど、いまひとつ訴えるものがない」という評価もあるようです。
日本ショパン協会理事でショパンコンクールについての著書もあるピアニストの青柳いづみこさんは次のように指摘しています。
「日本には、先生の言うことに素直に従うことをよしとする風潮があり、ピアノ界の発展を妨げてきた。
自分で考え解釈する力を身につけないと国際舞台では通用しない」
Q6、「自分で解釈する力」とはどのようなことでしょうか?
A6、国民性もあるのでしょうか。日本人は、教えられたことは忠実に守る。しかしなぜそうなのか疑問に持たない。そういった傾向があるのかも知れません。海外の生徒は先生から指摘されても「なぜそうなのか」「自分はこう思う」と疑問をぶつけてくるそうです。
一方で、青柳さんは先ほどご紹介した反田さんや角野さんのように、新しいメディアも駆使して自分から積極的に発信していく、自分で自分をマネージメントできる若い世代が育ってきていることを高く評価していました。
「今回は元気の良い若者がたくさん参加しているので期待したい」ともおっしゃっていました。
このところ「日本や日本人は元気がない」ということをよく耳にします。「自分で考え解釈する力を身につけないと国際舞台では通用しない」という青柳さんの指摘は、音楽の世界だけでなく今の日本全体にも当てはまるようにも思えます。
日本からの参加者には「日本は元気がない」という評価を覆すような活躍を期待したいと思います。
(出石 直 解説委員)
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