9.11アメリカ同時多発テロ事件から20年、アフガニスタンに駐留していたアメリカ軍が日本時間の30日深夜撤退を完了しました。
アフガニスタンではイスラム主義勢力タリバンがほぼ全土を掌握し、政府が事実上崩壊。
治安が悪化する中、首都カブールでは先週、国外に退避する人々が殺到していた空港周辺で、過激派組織IS・イスラミックステートの地域組織による自爆テロが起き、100人以上が死傷しました。混迷が深まるアフガニスタンの今後について二村解説委員に聞きます。
Q1.20年におよぶアメリカの軍事介入に終止符が打たれましたが、アメリカ軍の撤退をどう受け止めますか。
タリバンが「自由と独立を達成した」と祝砲をあげたのと対称的なアメリカ軍の静かな撤収は、あたかもアメリカが敗北したかのような印象を受けました。
4月時点ではタリバンの支配地域は地図の赤の部分、全体の2割ほどでしたが、7月には半分以上を支配下におさめました。タリバンが急速に勢力を拡大し、治安の悪化が危ぶまれていたにもかかわらずアメリカは撤退を最優先させました。撤退の条件だった和平交渉が進展せず、将来の見通しが立たないままの撤退は「アフガニスタンを見捨てた」といった批判もしかたないでしょう。バイデン大統領は日本時間のけさ行った演説でも「他国の再建のために大規模な軍事作戦を行う時代は終わった」として撤退が賢明で最良の選択だったと述べました。アメリカ主導で20年間国際社会が一体となって国づくりに取り組んできたことを否定するかのような発言は、アメリカの信頼失墜にもつながりかねません。
Q2.タリバンは新たな政権の発足に向けて準備を進めています。うまくいくのでしょうか。
20年前アメリカに倒されて以来復権の機会をうかがってきたタリバンにとって撤退は千載一遇のチャンスでした。同時にそれはIS・イスラミックステートなど過激派組織にとっても同様で、今後過激派が台頭し治安がさらに悪化する可能性もあります。カブールの空港周辺では26日の自爆テロのあともロケット弾による攻撃が続いています。タリバンが過激派をおさえこむ保証はないだけにアフガニスタンが再びテロの温床になりかねません。また地域を見ますとアメリカが去ったことでパキスタンとイラン、中国といった国々の連携が強まり、地政学的な変化も生まれそうです。
Q3.20年前タリバンが政権を追われたとき二村さんは現地で取材しましたね。
【VTR:20年前】
9.11同時多発テロ事件を受けてタリバンに対するアメリカ軍の空爆が始まった直後にタジキスタンから国境を越えてアフガニスタンに入り、反タリバンの北部同盟がアメリカの後押しを受けて進軍し、首都カブールを制圧するまで取材しました。タリバン政権は女性の就労や教育を認めず、娯楽も禁止していました。タリバンの逃走後は街中に活気が戻りラジオの音楽に耳を傾ける人や凧揚げを楽しむ人の姿も見られ、テレビ局やラジオ局も復活し女性アナウンサーがニュースを伝える姿が新鮮でした。それから20年、大統領が国外に逃げ、代わってタリバン戦闘員が大統領府を占拠する映像を見ると歴史が逆戻りしたかのようで、この20年は何だったのかと無力感をおぼえます。
Q4.タリバンが依然と同じような抑圧的な政治を行うのではないかと懸念が強まっていますね。
タリバンの報道官は記者会見で、「女性にはすべての権利が与えられる」と述べた他、すべての国民に恩赦が与えられると、かつてのタリバンと違うことを強調しました。
ただ、女性の権利はあくまでも「イスラムのもと」であり、その後も少女を強制的に結婚させたり、投降した兵士を処刑したりする行為が伝えられています。また、「アフガニスタンを他国の攻撃に使わせない」としていますが、国際テロ組織アルカイダとの関係も切れていません。言葉だけでなく本物かどうか厳しく見ていく必要があります。
1996年に誕生したタリバン政権は、サウジアラビアとパキスタン、それにアラブ首長国連邦の3か国からしか承認を得られず国際的に孤立しました。指導部は国際社会の承認なしに国家の運営が難しいことを理解しており、20年前の失敗を繰り返さないために柔軟な姿勢を示しているように見えますが、末端の兵士までは指示が行き渡っていないようです。
Q5.タリバンはどのような政権を作ろうとしているのでしょうか。
タリバン指導部は新政権に向けた協議を始める一方で、カルザイ元大統領、アブドラ国家和解高等評議会議長ら協議を始めています。
タリバンが他の勢力をとりこんで包摂的な政権を築くことができるかが当面の焦点です。タリバンの最高指導者アクンザダ師をトップに、12人からなる評議会が意思決定を行っていくといった報道もあります。
政権発足後は治安部隊を再編し、早急に治安を安定させることも求められます。
敵対するISなどの過激派を封じ込めることができるか。政治空白が長期化すればイラクやシリアの二の舞になりかねません。
Q6.今後どんな点を注目して見ていけばよいでしょうか?
喫緊の課題は国外退避を希望する人々の安全な出国です。タリバンは外国人の安全な出国を確約するとしていますが、国際社会の信頼を得るためには、出国への協力とともに国内にとどまる人々の安全を保障することが必要です。
次に国民や国際社会が受け入れられる政権を発足させられるかです。専門家はタリバンの統治能力を疑問視しています。タリバンも一枚岩でなく国際社会との協調に反対する強硬派をおさえこみ、指揮命令系統を一本化できるかなど課題は少なくありません。
一方、国際社会はタリバンとどう向き合うか問われています。アフガニスタンの安定のためには各国の結束が不可欠ですが、中国とロシアはタリバン指導部と会談するなど連携の強化を図っています。その狙いは国内のテロ対策で、アフガニスタンからの過激派の流入を阻止するためにタリバンの協力が必要だからですが、アメリカ撤退後の影響力拡大を目論んでいるのも事実で、中国はアフガニスタンを一帯一路構想にとりこみたいという思惑が透けて見えます。
アフガニスタンへの支援のあり方も問われています。各国の外交団や援助機関の職員らがいっせいに出国し、資金援助もストップしています。一方で食料不足は深刻で人道危機が懸念され、難民や国内避難民の保護も急務です。出国した人々の受け入れも今後新たな問題となってきます。
アフガニスタンのような伝統的な部族社会に外から民主化を押し付けても成功しないことは歴史が証明しています。アフガニスタンの人々がこの20年の成果をもとに自らの手で新たな国づくりにとりかかり後戻りしないように支えることが国際社会の役割です。それにはアフガニスタンを見捨てないというメッセージを送り続けることが重要だと思います。
(二村 伸 解説委員)
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