(小林雄キャスター)
旧ソビエト・ベラルーシのルカシェンコ政権が、反体制派ジャーナリストの乗った民間航空機を強制的に着陸させて身柄を拘束し、欧米を中心に国際社会が一斉に非難を強めています。
強権的な政治を進めてきたベラルーシの政権はなぜ国際社会に背を向ける行動に出たのでしょうか?
A1)
・強制着陸させられたのは、ギリシャからリトアニアに向かっていたアイルランドの民間機です。
・航路を見ますと、リトアニアの領空に入る直前、ベラルーシ領空で急に東に針路を変えたことが分かります。
・航空当局から、爆発物が仕掛けられているおそれがあるとして着陸するよう命じられました。
・戦闘機も出動して誘導したといいます。
・首都ミンスクの空港で調べたところ、結局、爆発物は見つかりませんでした。
・その代わりベラルーシ当局は、乗っていた反体制派のジャーナリスト、ロマン・プロタセビッチ氏とその交際相手を拘束しました。
・ベラルーシ航空当局はイスラム原理主義組織ハマスから、ルカシェンコ大統領はスイス当局から、それぞれ爆発物に関する情報が寄せられたと主張しましたが、その説明は合理性を欠きます。
・ハマスもスイス当局も否定していますし、到着予定地のリトアニアのほうが早く着陸でき、爆発物の点検だけで済ませればよかったはずです。
・反体制派を拘束するため爆発物のおそれを口実にしたと受け止められても仕方がないでしょう。
Q2)ベラルーシのルカシェンコ政権は27年ちかくにわたって政権につき、強権的な政治を進め、去年8月の大統領選挙の不正疑惑で大規模な抗議行動にさらされてきました。
なぜ今、こうした行動に出たのでしょうか?
A2)
・拘束されたプロタセビッチ氏(26歳)は、ベラルーシ生まれで、10代から反政府活動に参加し、おととし政権による弾圧を逃れて隣国ポーランドに出国しました。
・そして「NEXTA(ネクスタ)」という、秘匿性の高いSNS「テレグラム」を使った情報チャンネルを創設しました。
・ここで国営メディアが報じない、政権側の不正の証拠や治安当局の横暴な取り締まりを詳しく伝え、抗議行動の大きな原動力となりました。
・政権にとってはやっかいな政敵となり、大規模な暴動を組織したとして国際指名手配されていました。
・実はルカシェンコ政権は4月にも、別の反体制派の政治評論家ら3人が国家転覆と大統領の暗殺を試みたとして、モスクワなどで身柄の拘束に踏み切ったばかりでした。
・反体制派の動きを封じ込めようと、焦りを強めていたことがうかがえます。
Q3)その焦りというのはどんなものでしょうか?
A3)
・ルカシェンコ大統領の焦りの根底にあるのは、欧米が介入してくるという強迫観念です。
・大統領は先月(6月)26日、「国内外の敵がレッドラインを超えて攻撃してくる。
あらゆる手段を組み合わせた『ハイブリッド戦争』だ」と述べ、欧米に対する対決姿勢を鮮明にしました。
・この発言の意味するところは、欧米が民主化を主張しながら反体制派を支援して政権転覆を狙い、思想や心理戦を含めた戦争をしかけているのではないかという疑念をぬぐいきれないということだと思います。
・プロタセビッチ氏が向かっていたリトアニアや、最初に逃れたポーランドは、ベラルーシの反政権運動の国外の拠点となっていました。
・欧米とつながりを持つプロタセビッチ氏の活動をここにきて封じ込めたかったと考えたかもしれません。
Q4)ベラルーシを擁護するロシアはどう対応しているのでしょうか?
A4)
・プーチン大統領は先週末(5月28日~29日)、ロシア南部のソチにルカシェンコ大統領を招いて首脳会談を行いました。
・この席でルカシェンコ大統領は、今回の強制着陸について理解を求めましたが、プーチン大統領はかつて欧米も同じように、ほかの国の大統領専用機を着陸させたことがあったと応じるにとどまりました。直接的な支持は表明せず、あまり深入りしたくない姿勢をにじませました。
・プーチン大統領はルカシェンコ大統領を受け入れて首脳会談を行い、確かに擁護しているわけですが、けっして、ルカシェンコ大統領個人や今回の行動を無条件で支持しているわけではありません。
・ロシア国内では、親ロシアの指導者であれば、必ずしもルカシェンコ大統領にこだわる必要はないという見方さえあります。
Q5)ではなぜプーチン大統領は、ベラルーシを擁護しようとするのでしょうか?
A5)
・一番の目的は、ルカシェンコ大統領を守ると言うより、ベラルーシが、親ロシア国家として維持されることにあります。
・それには地政学的な要因があります。
・こちらの地図でみますと、ベラルーシの南には、ロシアが兄弟国と位置づけてきたウクライナがありますが、2014年の政変で親欧米の国となりました。
・そこでロシアは、ベラルーシに対しては、親ロシア国家として、欧米の民主化の波や軍事同盟=NATOの脅威を防ぐため、防波堤としての役割を期待しているのです。
・この点でプーチン大統領に譲る構えはありません。
・ルカシェンコ大統領は、こうしたプーチン大統領の意向を汲むように、
「敵にとってベラルーシはロシアを攻撃する前の実験場のようなものだ。実験が終われば次はロシアに向かうだろう」と述べました。
・この発言はプーチン大統領から支持や支援を取り付けるため、ロシア目線で危機感を強調したものだと思います。
・今回孤立を深めたルカシェンコ大統領は、プーチン大統領に助けを求めたかたちとなりました。
・経済面でもすでに約束されていた支援のうち5億ドルが今月末まで支払われることになりました。
・プーチン大統領への依存度は強まっていきそうです。
Q6)ではベラルーシへの対応は、このあとどうなっていくでしょうか?
A6)
・今月(6月11日~13日まで)、G7首脳会議がイギリスで、また、(16日)アメリカのバイデン大統領とロシアのプーチン大統領の米ロ首脳会談がスイスのジュネーブで行われる予定で、いずれもベラルーシの問題が取り上げられることは避けられない見通しで、厳しい措置も検討されることになるでしょう。
・ただ、強権的な指導者や体制にいくら制裁などを科しても、相手が聞く耳を持たなければ、その効果に限界があるのも現実です。
・ロシアが擁護するなかで、ベラルーシの強権政治にどう対処していくのか、日本を含むG7は、改めて難しい課題を突きつけられていると言えます。
(安間 英夫 解説委員)
この委員の記事一覧はこちら