混迷ミャンマー 市民武装の動きも
2021年05月19日 (水)
藤下 超 解説委員
ミャンマーでは、クーデターを起こした軍が抗議活動への弾圧を続けていて、市民の一部には、武装して軍に対抗する動きも出てきています。これからミャンマーはどうなるのか。藤下解説委員に聞きます。
Q。ミャンマーのクーデターから3か月余りが経ちましたが、混迷が続いていますね。
A。混迷を象徴するのが、いま、ミャンマーに 正統な“政府”を主張する組織が二つあるという事実です。
軍が設立した「国家統治評議会」、これに対し民主派勢力がつくった「国民統一政府」、この2つです。
国家統治評議会はミャンマーを武力で実効支配し、国民統一政府はインターネットを主な活動の場とするバーチャルな組織です。
それぞれが、みずからの正統性を主張し、お互いが相手を「テロリスト」と非難しています。
Q。軍による抗議活動への弾圧は続いているんでしょうか。
A。はい。
現地の人権団体によりますと、これまでに弾圧による市民の死者は800人を超えました。
また拘束された人の数は5000人を超え、このうちおよそ8割はいまも拘束されたままです。
拘束中に拷問され、死亡したとみられるケースも相次いでいます。
Q。そうした中、市民が武装する動きが出ているんですね。
A。民主派の国民統一政府は、今月5日、「国民防衛隊」という独自の部隊を結成したと表明しました。
国民統一政府のフェースブックに掲載された映像には、数百人の軍服を着た若者たちが写っています。
この国民防衛隊の発足に合わせるように、武装した市民と軍の衝突が一部の地域で激しくなっているんです。
北西部のインド国境近くのタムーでは、11日から12日にかけて武装した市民と治安部隊が衝突し、双方に死傷者が出ました。この衝突で、市民側は治安部隊の15人を殺害したとしています。
また、同じ北西部のミンダットでも、武装した市民と軍の間で大規模な戦闘が起きました。
軍は13日に戒厳令を出し、ヘリコプターや重火器を使って反撃したということで、多くの死傷者が出ている模様です。
Q。市民は、武器をどうやって調達しているんでしょうか。
A。手製の武器が多いようです。
ミャンマーの国営メディアが伝えた押収された武器の写真には、手製の銃や爆薬などが並んでいます。
北西部で、警察を襲撃したグループから押収したということです。
ただ、現状では、軍とは圧倒的な力の差があり、こうした武器で対抗しても、抑え込まれてしまう可能性が高いと思います。
それでも、軍による容赦ない弾圧で一方的に殺害されるぐらいなら武器をとる、と考える人が、とくに若者に増えているようです。
Q。ミャンマーでは、少数民族武装勢力と軍の戦闘も続いていますよね。
A。はい。多民族国家のミャンマーには、およそ20の少数民族武装勢力があります。
クーデターのあと、一部の武装勢力は、市民に加勢しています。
東部のタイ国境付近を拠点とするカレン民族同盟と、北部を拠点とするカチン独立軍のふたつが、弾圧から逃れた市民を保護したり、軍の駐屯地を攻撃したりしています。
こうした武装勢力に市民が合流し、軍事訓練を受ける動きも出てきています。
Q。軍と民主派勢力に加えて、少数民族武装勢力もからんで、複雑な状況ですね。
全面的な内戦になる可能性はないのでしょうか。
A。今後、暴力の応酬が激しくなる恐れはあると思います。
軍と民主派双方は、少数民族武装勢力の支持を得ようと、それぞれ接近している状況です。
軍は、一部の武装勢力に対するテロ組織の指定を解除するなど、柔軟姿勢をとっています。
一方の民主派は、少数民族の権限を拡大する連邦制の導入を約束しています。
そして、将来、国民防衛隊と少数民族武装勢力を統合して連邦軍を創設し、共通の敵である軍に対抗しようと呼びかけています。
しかし、これまでのところ、民主派勢力に協力している少数民族は、一部にとどまっています。多くは当面様子見の構えのようです。
背景には、少数民族の武装闘争は、それぞれの民族の権利向上が目的で、民主派勢力とは目的が違う、ということがあります。
また多数派のビルマ族への根強い不信感もあると見られています。
Q。事態は悪化の一途という印象を受けますが、なんとか打開する方策はないのでしょうか。
A。対立がここまで深まると、当事者から解決に向けた動きを期待するのは難しいと思います。
仲介者が必要ということになります。
今のところ、その役目ができるのは、ミャンマーも加盟するASEAN=東南アジア諸国連合以外、ないでしょう。
ASEANは、先月24日にミャンマー問題を議題に首脳級の会議を開きました。
東南アジア各国の首脳に加えて、ミャンマーから軍トップのミン・アウン・フライン司令官も参加し、暴力の即時停止、対話を仲介するASEAN議長国の特使の派遣などで合意したのです。
Q。合意は実現しそうでしょうか。
A。雲行きは怪しくなっています。
ASEANの狙いは、軍とスー・チー氏の対話を実現させ、危機を平和的に解決することです。
しかし、軍は、スー・チー氏らの勢力を政治の舞台から完全に排除することを狙っています。
ミャンマーの国営メディアは、会議の結果について、合意という言葉は使わず、「建設的な提案」としたうえで、「国家に安定が戻れば、慎重に検討する」としました。
今回の合意は、国際社会の批判をかわすためのポーズに過ぎないとの見方も出ています。
仲介外交が、軍による時間稼ぎに利用され、統治の既成事実化に手を貸すことになるのではないかという懸念もあります。
軍が合意に従わない場合、ASEANは、ミャンマーの加盟資格の凍結など、厳しい措置も辞さない姿勢を示してもらいたいと思います。
Q。国際社会の後押しも必要ですね。
A。ASEANは、今月中にアメリカと、来月初めには中国と、それぞれ外相会議を開くと見られてます。
ミャンマー問題をめぐって、アメリカは制裁を強化する立場、中国は、内政に干渉すべきではないという立場で、国連の安保理などで一致した対応が取れていません。
米中両国と良好な関係を維持してきたASEANとしては、双方から、仲介外交への支持を取り付けたい考えと見られます。
ASEANには、国際社会の「結節点」としての役割を期待したいと思います。
日本は、こうしたASEANの仲介外交が良い方向に進むよう、後押ししてほしいと思います。
(藤下 超 解説委員)
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