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「韓国総選挙まで一か月 新型コロナウイルスの影響は?」(キャッチ!ワールドアイ)

出石 直  解説委員

新型コロナウイルスによる感染の拡大が続く韓国。感染者はきのう(17日)までに8000人を超え、中国、イタリア、イラン、スペインに次いで5番目に多くなっています。死亡した人も81人にのぼっています。その韓国では、一か月後に国会議員を選ぶ4年に1度の総選挙が予定されています。この選挙は、折り返し点を過ぎたムン・ジェイン政権の国政運営に対する評価を問うとともに、2年後に行われる大統領選挙の前哨戦としても注目されています。

ここからは出石 直(いでいし・ただし)解説委員とお伝えします。

Q1、韓国の感染拡大は深刻なようですね。

A1、ここ数日は、新たに感染が確認される人の数が2桁台に留まっていて、感染のピークは過ぎたのではないかという見方も出ているのですが、まだソウルなど首都圏でも集団感染が確認されています。

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こちらは最初の感染者が確認された1月からの感染者数の推移を示したものですが、ご覧のように2月の中旬ころから急激に感染者が増えてきたのです。

Q2、なぜこんなに感染が広がったのでしょうか?

A2、感染が拡大したのは韓国南東部のテグに拠点を置く新興宗教団体での集団感染がきっかけでした。信者が教会の狭い空間で長時間過ごしたことから感染が広がりました。この教団の信者はおよそ21万人いるのですが、信者であることを家族にも隠している人が多く、感染者の把握に時間がかかったということです。感染者の6割以上がこの教会の関係者で占められています。
もうひとつ、政府の対応が後手に回ってしまったことも、感染が拡大した大きな理由だと思います。

Q3、後手に回ったというのは?

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A3、まだ感染者が30人以下だった先月13日に、ムン・ジェイン大統領は経済団体との会合の中で「防疫当局が最善を尽くしてくれているので、遠からず終息するだろう」と事実上の終息宣言をしてしまったのです。ところがこの終息宣言が出た5日後に、テグにある宗教団体で集団感染が発覚しました。感染者の数は急速に増えあっという間に1000人を超えてしまいました。

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感染者は教団の本部があるテグとその周辺のキョンサン北道に集中していて、テグに73.3%、キョンサン北道に14.1%とこの2か所だけで9割近くを占めています。このため特定の病院に感染者が集中して感染をさらに拡大してしまったのです。感染者がひとつの場所に集中したという事情があったとはいえ、終息宣言を出すのが早過ぎたとしてムン政権は厳しい批判を受けました。

Q4、韓国のニュース報道を見ていますと、車に乗ったまま検査が受けられるドライブスルー検査が行われるなど、日本より進んだ感染症対策もとっているようにも見えるのですが。

A4、ムン・ジェイン大統領はナンバー2のチョン・セギョン首相を対策本部長に指名しテグに派遣して陣頭指揮に当たらせました。

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先月26日には、▽感染の疑いがある人が検査を拒否した場合には27万円以下の罰金を科すことや、▽マスクや消毒液などが足りなくなった際には国外への持ち出しを禁止できるようにすること、などを定めた「コロナ3法」と呼ばれる法律も成立しています。

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このマスクについて、韓国は買い占めや品不足を回避するためユニークな配給措置を取っています。これがそのパンフレットなのですが、生まれた年の末尾によって受け取れる日を特定しているのです。

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韓国には住民登録番号というのがあって、13桁の最初の2桁は生まれた年の下2桁を示しています。例えば1959年生まれなら末尾は9ですから木曜日にしかマスクを買うことできません。韓国は2015年に今回とは別の型のコロナウイルスであるMERSの感染拡大を経験していますので、感染症対策の面では日本より進んでいる点もあったように思います。

Q5、こうした政府の対応を韓国国民はどう受け止めているのでしょうか?

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A5、こちらはムン大統領の支持率ですが、終息宣言を出した後に感染者の数が2000人を超えた先月下旬には42%まで落ちこみました。しかしその後は49%にまで回復しています。

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支持する理由では「新型コロナウイルスへの対応」と答えた人が44%ともっとも多くなっています。ムン政権の積極的な感染防止策が一定の評価を得ているということではないでしょうか?

Q6、そうした中で、ムン政権の国政運営や次の大統領選挙の行方を占う4年に一度の総選挙が近づいてきたわけですが、当然、新型コロナウイルスへの対応が大きな争点になってきますね。

A6、感染への政府の対応、そしてもうひとつ重要なのは感染の拡大によって大きなダメージを受けた人達に対する支援策、経済対策が大きな争点になると思います。

韓国では、パク・クネ前大統領が旅客船「セウォル号」の沈没事故への対応で厳しい批判を受け弾劾に追い込まれました。その前のイ・ミョンバク大統領もBSE感染で中断されていたアメリカ産牛肉の輸入再開をめぐって大規模な抗議デモが続きました。
危機管理対応をひとつ間違えると政権は一気に求心力を失ってしまいます。
今後の感染拡大がどうなるのかが大きなポイントだと思います。

Q7、日本では学校の一斉休校など国民生活や経済への影響が心配されていますが、韓国ではどのような対策が取られているのでしょうか?

A7、韓国政府は先ほど紹介した「コロナ3法」で、感染が確認され隔離された世帯に対し4人家族なら123万ウォン=10万5000円の生活支援費を支給することを決めています。さらに医療機関への支援や景気対策のための日本円で1兆円規模の補正予算案を発表し国会で審議中です。中国経済の減速もあって、韓国経済も非常に厳しい状況です。株価も下がっています。韓国銀行はおととい(16日)、政策金利をこれまででもっとも低い0点75%に引き下げました。感染症対策に加えて、これからは経済支援策が重要になってくるでしょう。

Q8、そんな状況で来月に迫った国会議員の選挙、見通しはどうなのでしょうか?

A8、コロナ騒ぎが起きる前は、政権与党がかなり優位と見られていました。野党の保守陣営がパク・クネ前大統領の弾劾訴追をめぐって分裂し支持率も低迷していたからです。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大に加えて、先月になって最大野党を中心に保守系の3つの政党が統合する形で「未来統合党」という新しい党が結成されました。保守勢力が結集したのです。

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現有議席数で見ますと、政権与党の「共に民主党」が129議席に対して「未来統合党」は117議席と拮抗しています。

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最新の世論調査で政党別の支持率を見てみますと「未来統合党」は22%と政権与党の39%とはかなりの差がありますが、「今のムン政権を支援するために与党が勝つべきだ」と答えた人と、「現政権をけん制するために野党が勝つべきだ」と答えた人が共に43%という結果も出ています。28%いる支持なし層の行方が鍵を握ることになりそうです。

Q9、選挙は予定通り行われるのでしょうか?

A9、このままでは有権者との握手もできないとして総選挙を延期すべきだという声も一部には出ていますが、韓国政府は今のところ予定どおり実施するとしています。本格的な選挙運動は来月から始まることになっています。総選挙の結果は、ムン政権の対日外交にも影響を与えることになるでしょうから、その行方は大いに注目されるところです。

(出石 直 解説委員)

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