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「対話路線は終わるのか?~キム委員長の選択は~」(キャッチ!ワールドアイ)

出石 直  解説委員

アメリカとの非核化協議が膠着するなか、挑発を強める北朝鮮。今月2度にわたり「衛星発射場で重大な実験を行った」と発表。ミサイルに関連した実験が行われたとみられます。これに先立ち北朝鮮のキム・ソン国連大使は「非核化はすでに協議のテーブルを離れている」として協議を打ち切る構えを見せアメリカをけん制。
(トランプ大統領)
「北朝鮮で何かが起きているなら非常に残念だが、動きがあれば対処する。注視している」
アメリカとの駆け引きが続く中、北朝鮮の重要政策を決定する会議が今月下旬に開催されるとみられます。対話の継続か対立か。キム委員長がどのような方針を打ち出すのか注目されています。

Q1.ここからは出石 直(いでいし・ただし)解説委員とともにお伝えします。キム委員長はどのような判断を示すのでしょうか?

A1.北朝鮮は、今月の下旬に朝鮮労働党の中央委員会総会という重要な会議を開催すると予告しています。この会議にはキム委員長も出席しますので、この場で最終的な判断が示されるのだと思います。ただ会議をいつ開催するのか、その日程はまだ発表されていません。アメリカの出方を最後まで見極めているのかも知れません。いずれにせよ
今後の朝鮮半島情勢を大きく左右する重大な決定になることは間違いありません。
予断は禁物ですが、このところの北朝鮮の動きを見る限り、協議打ち切りを決める可能性はかなり高いように思います。

Q2.協議打ち切りですか。

A2.北朝鮮の高官の発言やメディアの報道ぶりから判断するしかありませんが、少なくとも北朝鮮側の思惑通りに物事が進んでいない、そのことに対して苛立ちを強めていることは確かだと思います。

Q3.北朝鮮はなぜこの時期に最終判断をするとしているのですか?

A3.2つの期限があるからです。
▽ひとつは北朝鮮が設定しているアメリカとの交渉期限です。ことし2月のハノイでの首脳会談が物別れに終わって以降、米朝間の協議は停滞しているのですが、キム委員長は4月に開催された最高人民会議での演説で「今年の年末までは忍耐心をもってアメリカの勇断を待つ」と述べ、アメリカからの回答期限を設定していました。アメリカ政府は「これは北朝鮮が一方的に設定したもので交渉に期限はない」としていますが、北朝鮮は今月中にアメリカ側の歩み寄りがなければ協議を打ち切ると迫っているのです。

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▽もうひとつの期限は、おととしの12月の国連安全保障理事会で採択された北朝鮮に対する制裁決議で設定された期限です。この決議は、すべての国連加盟国に対して、国内で収入を得ている北朝鮮の労働者を決議採択から24か月以内、つまり今月の22日までにすべて北朝鮮に送り還さなければならないと定めています。こうした出稼ぎ労働者は北朝鮮の貴重な外貨獲得源になっていますから、北朝鮮にとっては大きな痛手となります。

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Q4.北朝鮮が設定した交渉期限、北朝鮮の出稼ぎ労働者を送還する期限、これがいずれも今月中に来るというわけですね。

A4.この2つの期限を前にぎりぎりの駆け引きが続いているのです。北朝鮮との交渉を担当するアメリカのビーガン特別代表はきのう(17日)まで韓国、そして今、日本を訪れています。ビーガン特別代表は北朝鮮に協議に応じるよう呼び掛けています。韓国のKBSは「北朝鮮は提案に応じなかった」と伝えていますが、水面下で何らかの接触をしているのかも知れません。

Q5.北朝鮮はこのところ挑発的な動きが目立ちます。

A5.その通りです。北朝鮮は、おととしの11月29日にICBM級の弾道ミサイルの発射実験を行って以降、中断していたミサイルの発射を、ことしになって再開しています。
5月4日には、およそ1年半ぶりに短距離弾道ミサイルを発射、その後も7月、8月、9月、10月、11月と、13回にわたって弾道ミサイルなどの発射を重ねています。このうち10月2日に発射された弾道ミサイルは、SLBM=潜水艦からの発射が可能な新型のミサイルとみられています。さらに今月7日と13日には、弾道ミサイルの発射場で“極めて重大な実験”が行われたとしており、長距離弾道ミサイルに関連した実験と見られています。

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北朝鮮の高官からもアメリカとの対話に否定的な発言が相次いでいます。例えば、
▽キム・ケグァン(金桂寛)外務省顧問
「無益な会談にこれ以上興味はない」(先月17日)、
▽米朝協議の北朝鮮側の首席代表を務めるキム・ミョンギル(金明吉)大使
「アメリカが敵視政策を撤回しない限り、対話は困難」(先月19日)、
▽キム委員長の最側近のひとりチェ・ソニ(崔善姫)第一外務次官
「アメリカとアメリカ人に対する憎悪は一層強まっている」(先月19日)、
▽キム・ソン(金星)国連大使
「非核化はすでに協議のテーブルを離れている」(今月8日)、
▽今月の9日には北朝鮮の国営メディアが2人の高官の談話を掲載しているのですが、いずれも「トランプ大統領」ではなく「トランプ」と呼び捨てにしています。
キム委員長の発言ではありませんが、トランプ大統領に対してこのような表現を使ったのは注目すべき変化です。

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Q6.こうした北朝鮮の変化にアメリカはどう対応しようとしているのでしょうか?

A6.北朝鮮が、一時は中断していた弾道ミサイルなどの発射実験を再開しその能力の向上を図っていることに対して警戒を強めています。アメリカのクラフト国連大使は今月12日に開かれた安保理の会合で弾道ミサイルの発射を強く非難しました。

(クラフト国連大使)
「挑発行為をやめなければ安保理は相応の対応をする」

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判断が難しいのはトランプ大統領の真意です。
アメリカ政府が非核化協議を後押しするためとして米韓の合同軍事訓練を延期すると発表した先月17日、トランプ大統領はツイッターに「あなたの目的をかなえられるのは私だけだ。早く行動し、アメリカと取り引きすべきだ。近いうちに会おう」と投稿し、キム委員長に首脳会談の開催を呼びかけました。

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さらに今月3日には訪問先のロンドンで次のように発言しています。
(トランプ大統領)
「彼はいつもロケットを打ち上げているから“ロケットマン”と呼んでいる。私達はいい関係だ」

ロケットマンという挑発的な表現を久しぶりに使った一方で、キム委員長との良好な関係も強調しているのです。さらにトランプ大統領は「アメリカは最強の軍隊をもっている。できることなら使いたくないが、必要な時には使う」とも述べています。

Q7.武力をちらつかせて交渉を有利に進めようとしているようにも見えますね。

A7.発言が揺れていてトランプ大統領が何を考えているのか、判断が難しいところです。
発言を聞いている限り、東アジアの平和と安定とか核兵器の拡散防止といった目的意識や信念というよりは、歴代の大統領が成しえなかったことを実現するという功名心から動いているようにも見えます。北朝鮮が、こうしたトランプ大統領の功名心に付け込んでいる節はありますが、来年の大統領選挙で再選されるかどうか見極めたいというのが本音ではないでしょうか。ただアメリカとの協議を打ち切って核実験や弾道ミサイルの発射を続ければ、これまで以上に厳しい制裁を科せられることは確実です。北朝鮮にとってどちらが得なのかということも判断材料になるのではないでしょうか。

Q8.この問題、これから先どうなっていくのでしょうか?

A8.北朝鮮が弾道ミサイルの発射を繰り返し何度もJアラートが鳴った2017年のような状況に戻るのか、それともピョンチャンでの冬季オリンピックやシンガポールでの歴史的な握手が行われた2018年のような融和ムードが維持されるのかの、分岐点にあることは間違いありません。いかなる展開にも対応できるよう、万全の備えと覚悟をしておく必要があると思います。

(出石 直 解説委員)

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