NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「G20デジタル課税合意 今後の課題」(キャッチ!ワールドアイ)

櫻井 玲子  解説委員

今月福岡で開かれたG20=主要20か国の財務相・中央銀行総裁会議。
巨大IT企業をはじめとする多国籍企業の「課税逃れ」にどう対処するかが、主要議題の一つとして取り上げられ、各国は来年・2020年中に、新たな国際ルールをとりまとめられるよう努力していくことで合意しました。
議論の最新状況、そして今後の課題について、櫻井解説委員とともにお伝えします。

i190619_15.jpg

Q1 巨大IT企業をはじめとする多国籍企業への課税を考える『デジタル課税』。
G20での焦点は何だったのでしょうか?

A1 はい。この議論、元々は、「GAFA」つまりグーグル・アップル・フェイスブック・アマゾンといったアメリカのIT企業が、巨額の利益を様々な国であげているのに、それに見合う税金を十分に払っていないのではないか?という人々の怒りがきっかけでした。実際、欧州委員会の調べでは一般企業は利益のうちの23パーセントを税金として納めているのに、IT・デジタル企業はその半分以下、9パーセントあまりしか納めていない、ということです。
ただ、G20、および、この問題を各国の事務局としてとりまとめているOECD=経済協力開発機構で議論するうちに、そもそも今の国際的な課税ルールは、デジタル化がすすむ経済に十分対応できていないのではないか?時代遅れになっているのではないか?と、より、視点を広げて考えることになりました。では、新しい国際課税ルールはどんなものにすべきか?が、G20でも議論されたのです。

i190619_04.jpg

Q2 G20財務相会合では、具体的に何が決まったのでしょうか?

A2 この問題に対して、2つの異なるアプローチから具体策を考えること。また、来年1月にも大枠合意を目指すという野心的な時間軸で合意をしたのが今回の最大の特徴です。
そこで2つの異なるアプローチについてですが、巨大IT企業の課税逃れを許してしまっている抜け穴を、まずは、変えましょう、というのが一つ目のアプローチ。
もう一つは「最低税率」という、企業の課税逃れそのものが意味がなくなるような、新しいしくみを考えましょう、という考え方です。

i190619_06.jpg

ここからもう少し詳しく、ご説明しましょう。
まず一つ目のアプローチですが、見直しの対象となっているのは、「拠点なくして課税なし」という国際ルールです。

i190619_07.jpg

このルールのもとでは、外国企業が日本国内に支店や工場など「恒久的な拠点」を置いていれば、日本政府は企業から法人税をとることができます。
しかし、逆にこういった拠点がないと、政府は企業から法人税をとれないのです。

i190619_08.jpg

海外のIT企業はネット経由で直接、東京の消費者にサービスを提供し、利益をあげても、日本政府には法人税を払わなくてもよいということになります。

Q3 日本の消費者相手に利益をあげても、日本には法人税を納めてもらえないんですね。

A3 そうなんです。また、このままだと法人税を払っている日本企業との間でも不公平な競争になりかねません。そこで、これからは「拠点の有無」ではなく、別の根拠で課税をしていこう、ということになったんですが、各国がそれぞれ異なる提案をしていて、どういう形でまとめていくかはまだ決まっていないんです。大きくわけると3つの案が出されたのですが、
▼1つはイギリスが提案している巨大IT企業に対象を絞った案。消費者がSNSで「いいね!」をクリックしたり、オンライン契約を結んだりした場合、その数などをよりどころに課税していこうというアイディアです。
▼2つ目はアメリカ案。IT企業だけではなく、インターネットなどを通じて売り上げを稼いでいる企業全般に対象を広げようというものです。消費者がいる国で、企業がかけたマーケティング費用などをもとに、課税できる金額を算定しようという考えです。
▼そして3つ目は新興国案。「拠点」がなくても、継続した売り上げなど「重要な経済的な存在」がその国にあれば、それをもとに課税ができるという主張です。

i190619_09.jpg

Q4 3つの提案、具体的にどう課税していくか、なかなか難しいですよね。

A4 そうですね。ただ、消費者が多くいる国が、よりたくさん税金をとれるようになるしくみにする、というのが大きな共通点です。今回のG20ではどの案を今後ベースに考えるか、といった結論の出し方はせず、3つの案のいいところ、足りないところを勘案して、実務的にどうやったら実際に課税をすればよいのかなど、専門家の知恵も借りて、考えていくことになりました。
一方、各国の間の大きな隔たりは依然として残っているというのが取材した実感です。G20会合にあわせて開かれたデジタル課税のシンポジウムに参加した各国の大臣たちの発言をきいていても、それぞれの案を主張し、かなり違いがあるといえます。今回、巨大IT企業を多く抱え、「GAFA」を狙い撃ちにするようなデジタル課税の議論をずっと嫌がっていたアメリカまでもが、「新しいルール作りを急がねばならない。国際的なコンセンサスが重要である」という点を表明したのは評価できるところです。ですが、各論になってくれば、それぞれの国の利害に直結するだけに、どうやって議論をまとめていくのか、今後も注意してみていきたいと思います。

Q5 なるほど。そしてもう一つ、「最低税率」というアプローチもある、という話でしたよね。こちらはどんな議論になるのでしょうか?

A5 はい、こちらは企業が税金を払うのを避けるために、税率をゼロ、または極めて低くしている国、いわゆる「タックスヘイブン」に利益を逃すのをやめさせましょう、という狙いがあります。

i190619_12.jpg

例えば法人税率が25パーセントの国と、3パーセントの国があったら、3パーセントの国に子会社などを作り、利益を移して、3パーセントしか税金を払わない。これが国境を越えた節税対策や、課税逃れのしくみです。しかし今回議論になっているのは、「最低税率」という水準を国際的に決めて、これを下回る国については、税率がより高い国が低い国の分まで、税金をとれるようにする、という提案なんです。

i190619_13.jpg

Q6 ほかの国の分まで税金をとることができる、というのは画期的ですね。

A6 はい。企業もせっかく利益や所得を別の国に移しても、それを追いかけるようにして税金を追加的にとられてしまうのであれば、そんな手間をかけること自体に意味がなくなります。
また国・政府の立場からしますと、せっかく税率を低くして、多国籍企業を自分の国に惹きつけようとしても意味がなくなるため、これまで行われてきた法人税の引き下げ競争そのものの意義がなくなるかもしれません。
これまでも、国によっては、多国籍企業が課税逃れを目的に実体のない子会社・ペーパーカンパニーを別の国においている場合、それを税務当局が調査し、証明できれば、その子会社の分まで課税ができる制度、はありました。
ただ、今回は、法人税率の「最低水準」を国際的に、一律に適用する、という発想ですので、具体的な合意にまで至れば、最終的には「タックスヘイブン」潰しにつながるかもしれません。

Q7 来年に向けて議論をまとめることはできるのでしょうか?

A7 はい、来週末に開かれるG20大阪サミットでは、声明にもこの議論の結果が盛り込まれる見通しですが、その先の具体論になってくると、激しい対立が待っていると思います。実際、最低税率をどの水準に設定するか?というのが最重要課題となってきますし、税率を低く設けている国からは反発も予想されます。
今回のG20での合意は、デジタル課税問題の事務局をつとめているOECDとG20議長国である日本の連携が極めてスムーズにいったことによる成果だといえます。ただ、本来、国が企業に税金をいくらかけるか?というのはその国の主権の根幹にかかわるような話です。来年中に本当に議論がまとまるのか、これから始まる具体論での駆け引きにも、注目していきたいと思います。

(櫻井 玲子 解説委員)

キーワード

関連記事