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「激化する米中対立 『サイバー』の脅威」(キャッチ!ワールドアイ)

津屋 尚  解説委員

次世代の通信規格「5G」で世界をリードする通信機器大手ファーウェイの副会長が去年暮れ、アメリカの要請でカナダの当局に逮捕されました。背景には「新冷戦」とも呼ばれるアメリカと中国の激しい対立があります。アメリカは、中国が世界のIT市場で影響力を増していることに神経を尖らせています。
アメリカはさらに、中国の情報機関とつながりがあるとするハッカー集団や産業スパイを次々に摘発。ITやサイバーの分野で中国包囲網を狭めています。最先端技術や軍事機密などが中国に盗み取られ、安全保障上の大きな脅威になるとアメリカは危機感を強めているのです。サイバー空間をめぐる米中の覇権争いを安全保障の観点から読み解きます。

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Q1:安全保障が専門の津屋尚解説委員にききます。米中の貿易摩擦が続いていますが、対立は安全保障面でも先鋭化しているということですね。

A1:アメリカはいま中国に対して強硬姿勢をとっていますが、これはトランプ大統領特有の“場当たり的な政策”ではなく、アメリカの国防当局や専門家などがかなり前から抱いてきた安全保障上の懸念に裏打ちされたものです。特にサイバーの分野では、10年以上前から中国を強く警戒してきました。
その表れが、2012年の「議会下院・特別委員会」による“調査報告書”です。中国通信機器大手のファーウェイとZTEを名指しして、両社の製品は「強力なスパイ活動の道具になりうる」「安全保障上の脅威になりかねない」などと警告していました。

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Q2:具体的には、どういうことなんでしょうか?

A2:ファーウェイとZTEが製造しているのは、インターネットの連結部分にあたるルーターや基地局の設備です。

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つまり、インターネット上の情報は必ず、この中国製の連結部分を通過します。調査報告書は、ファーウェイ製品などに情報を盗み出すための「チップ」が密かに埋め込まれたり、システムを誤作動させる「悪意あるプログラム」が埋め込まれたりする恐れがあると警告していました。また、ルーターなどの製品は、“自動アップデート”を装ってウイルスが送り込まれる恐れもあると指摘する専門家もいます。

Q3:中国の産業スパイなどが摘発されたということはこの報告書の警告が生かされたということでしょうか?

A3:捜査にどこまで生かされたかはわかりませんが、アメリカ政府内部で、中国製品に対する警戒が強まったことは確かだと思います。しかし、民間部門では、この報告書のあとも、ファーウェイは低価格を武器に売り上げを伸ばし、世界屈指のIT企業へと大きく成長を遂げました。注目すべきは、ファーウェイがいま、次世代の通信規格「5G」で世界のトップランナーだということです。
「5G」と言うと、スマホでよく見る「4G」がちょっと速くなる程度に考えている人が私の周りにもいますが、「5G」というのは、それによってあらゆるものがインターネットにつながる。「自動運転」など新たな可能性が広がって、社会や生活に変革をもたらすかもしれない。「5G」はそういう技術です。そうした分野で中国に覇権を握られれば、販売競争で遅れを取ることはもちろんですが、情報が抜き取られ、安全保障上の脅威がより大きくなるとアメリカは考えているのです。

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 さらに深刻な懸念は、通信機器に「悪意あるプログラム」が仕組まれたとすれば、いまや社会の基盤であるインターネット全体を麻痺させたり、金融や交通、電力などの「重要インフラ」のシステムをダウンさせたりすることもできるということです。兵器を使用せずに相手に損害を与える新たな攻撃の手段になりうるのです。

Q4:ただファーウェイはこうした主張を否定しているようですね?

A4:今週、ファーウェイの創設者が外国メディアの取材に応じましたが、スパイ活動への協力を強く否定していました。
しかし、中国のスパイ活動への懸念が払拭されたわけではない。中国ではおととし、「国家情報法」という法律によって、中国のあらゆる組織や個人に国家による諜報活動への協力が義務付けられたからです。この法律に基づけば、ファーウェイの製品を介して中国の情報機関のスパイ行為が可能になると専門家は指摘しています。

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Q5:それでアメリカが対策を強化しているのですね?

A5:その通りです。アメリカは去年、様々な「対抗措置」に打って出ました。

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その一つが、中国製品への“規制”です。「国防権限法」という法律によって、今年8月から、アメリカ政府の調達からファーウェイを含む5つの中国企業が排除されることになりました。来年8月からは、5社の製品を使っている企業も排除され、また、直接使っていなくても5社製品を使う企業と取引があるだけで締め出されるという非常に厳しいもの。日本企業もこの規制の例外ではありません。

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もう一つの対抗措置は、アメリカの捜査当局による“事件の摘発”です。
例えば、FBIは、▽去年4月、ジェットエンジンの機密情報を盗み出そうとしたとして中国人スパイをベルギーで逮捕。▽また、去年12月には、中国の情報機関とつながるとされるハッカー集団「APT10」のメンバー2人を起訴しました。「APT10」は、世界中の政府機関や企業、研究機関などを狙って、サイバー攻撃による大掛かりなスパイ活動を繰り広げていたとされ、ターゲットには、日本も含まれていました。

Q6:ファーウェイを政府調達から排除、スパイ活動への取締りを強化したりすることで、中国によるサイバーの脅威は取り除かれるものなのでしょうか?

A6:政府の調達から中国製品が排除されれば、スパイ活動の余地は今よりは狭められるでしょうが、懸念が完全に取り除かれるわけではありません。ファーウェイなどの製品は、低価格を武器に、すでに一般企業や個人に広く普及しているからです。一つ一つは、安全保障に無関係に見えても、例えばそれが防衛に携わる人の個人情報であれば、積み重なることで安全保障上の問題になることもありえますし、AI技術などと結びつけば、より高度な解読が行われるかもしれません。

Q7:軍事に直接関係なく一般に広く使われているものでも安全保障に関わってくるのですね。日本は大丈夫なのでしょうか?

A7:日本政府は去年暮れ、アメリカに歩調を合わせる形で、通信機器などを調達する際、価格だけでなく、安全保障上のリスクにも配慮することを各省庁間で申し合わせしました。
これによって、事実上ファーウェイも排除されます。政府はまた、「5G」を導入する大手携帯電話会社に対して、国の申し合わせに“留意”することを求めました。これを受けて、ファーウェイを使わないと表明した会社もありますが、日本では原則、機器の選択やサイバー対策は事業者に任されているので、どこまで排除されるのか不透明な部分も残っていると思います。

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Q8:去年12月の防衛大綱でもサイバーへの備えが盛り込まれていました。今後の対策の課題は何でしょう?

A8:防衛省や自衛隊の主な任務というのは、自らのシステムを防御することでして、国全体をサイバー攻撃から守ることまではできないと考えておいたほうがよいと思います。では誰が日本のサイバー対策を担うかというと、内閣官房のもとにある「内閣サイバーセキュリティーセンター」です。これが司令塔になって、国と民間が一体となって備えるという態勢をとっています。

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そこで、まず取り組むべきことを申し上げると、電力、金融、交通など「重要インフラ」の守りを強化することが急務です。
もう一つ重要な事は、サイバー攻撃の情報を共有する仕組みづくりです。サイバー攻撃は全てを防ぐのは難しいわけですが、被害を最小限に抑えるには、攻撃が疑われる情報を企業から即座に通報してもらい、国として対応することが大事です。企業は、障害が発生しても通報を躊躇するケースも多いので通報の重要性を理解してもらうことが不可欠です。企業はどうしても利益を最優先に考えがちだですが、国全体への影響、安全保障の意識も持ってもらえるかも課題でしょう。社会はこれから、サイバー空間への依存がどんどん高まれば、
その分、攻撃に対して脆弱になりやすいことをよく認識して社会全体で対策を強化することが大切だと思います。
 
(津屋 尚 解説委員)

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