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世界初!"生分解性プラスチック"深海実験 急増するプラごみ・海洋汚染の解決策は?

土屋 敏之  解説委員

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◆深刻化するプラスチック汚染

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プラスチックの消費はこの半世紀で爆発的に増え、今や年間4億6千万トン=これは地球上の人類の総体重にもあたる量を1年で使うほどになっています。
ちゃんとごみ処理をしていたとしても一部は漏れ出しますし、農業・漁業など屋外で使うプラスチックは劣化して破片も出るので、海や大気など環境中に出るプラスチックは年間2千万トン以上と見積もられ、このままでは2050年には海のプラごみが魚の量を超えるとの予測もあります。こうしたプラスチックは波で砕かれたりして小さくはなりますが、自然に分解されるわけではなく“マイクロプラスチック”になって拡散するため、既に私たちが飲む水や呼吸する空気からもマイクロプラスチックが検出され、将来的な健康への影響も懸念されています。
去年のG7サミットでは、2040年までに新たなプラスチック汚染をゼロにする目標が合意されるなど世界的に問題意識が高まっています。

◆生分解性プラスチックの海中分解実験

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生分解性プラスチックは近年一部のスプーンやストロー、ごみ袋などに使われ始めており、その特徴は微生物の働きで分子レベルにまで分解しマイクロプラスチックを増やさないとされます。
ただし、これまで地中に埋めるなどした場合に分解するのは確かめられていても、プラスチックが溜まりやすいとされる深海などで実際に分解するかは確かめられていませんでした。
そこで、東京大学などのグループが様々な生分解性プラスチックのサンプルを水深5千m以上の深海など海の中に最長1年以上設置して、後から引き揚げ分析。その結果が先月発表されました。深海でのプラスチック分解実験は世界初だと言います。

◆実験結果

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実験した生分解性プラ18種類のうち17種類は深海でも分解していくことが確かめられました。その中には、去年業界団体が設けた「海洋生分解性プラ」のマークの表示を認められた化学メーカーのプラ素材も含まれていました。
分解途中で形が崩れている写真を見ると、「これは波や水圧で壊れてマイクロプラスチックになってしまったのでは?」と感じる方もいると思いますが、そういうことではないそうです。顕微鏡で表面を観察すると、びっしりと長細い形の微生物が繁殖しており、これが生分解性プラスチックを分解していたのです。
元々自然界にプラスチックはありませんから、海の微生物が分解してくれるというのは不思議にも思われますが、こうした微生物は他の生き物が持つ脂質などを分解する酵素を持っており、その一部が生分解性プラも分解できたのだと考えられています。

◆生分解の詳細

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分解にかかる時間は、今回のサンプルをレジ袋のサイズ・厚さに換算すると水深1千mの海底では3週間から2か月で完全に分解する計算になりました。ただし、深い所ほど分解は遅くなり、水面近くと比べると水深5千mの深海では20分の1の速度に低下するとわかりました。
そもそも、海の中は地中や川の水など淡水とは酸性・アルカリ性のpHも違い、そこにいる微生物も違います。さらに、深い所ほど水温が低く酸素が少ない、そして微生物も少ないことから、より分解しにくいと考えられています。
今回実験した18種類中17種類は分解したものの、残る1種類は「ポリ乳酸」という数十年前から最初に普及した生分解性プラで、食品の容器包装や医療器具にも使われてきたものです。ポリ乳酸はコンポストや人の体内などではちゃんと分解するものの、現在の海洋プラ問題まで想定したものではなく、海の中では分解しませんでした。その後新たに開発されたものは、より分解しやすくなっているとも言えます。

◆生分解性プラスチックの課題と限界

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とは言え、生分解性プラは一般的なプラの2~3倍高いとされます。また、以前は食料になる原料から作られていたため問題視されるものが多く、これを徐々に食料にはならない原料から微生物などを使って作る技術も出てきましたが、製造方法が複雑で一般的なプラほど量産は簡単ではないとも言われます。そしてレジ袋程度なら分解しても、大きなプラ製品が簡単に分解するわけではありません。このように課題も多く、単純に生分解性プラを広めればプラごみ問題が解決するわけではありません。
今回の研究の責任者である東京大学大学院の岩田忠久教授は、まずほかの素材に置き換えられるようなプラスチックの消費をなるべく減らし、プラごみは極力回収・リサイクルした上で、なお“使い捨て”や“屋外で使用”せざるを得ないプラスチックは生分解性に切り替えていく、というのが望ましいとしています。

◆プラスチック汚染をなくすための条約交渉

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世界的には一昨年の国連環境総会で、プラスチック汚染をなくすための拘束力のある条約を作る政府間交渉を2024年末までに完了することになっており、すでに3回交渉が行われましたが難航しています。
海洋プラ汚染の影響を受けやすい島しょ国などには、プラスチックの生産段階から減らすことや具体的な規制ルールを求める声が強く、EUもこれに近い立場でした。これに対しアメリカや中国などは、生産規制ではなく廃棄物の処理・リサイクルをしっかりすればよいという考え方で、各国の自主的な取り組みを重視する姿勢です。さらに、前回の会合では、石油由来のプラスチックの生産規制などは避けたい産油国が「自分たちの意見が反映されていない」と反発し具体的な交渉が進まなかったとも言われます。
今年あと2回の交渉が予定されていますが、実効性のある条約ができるかは不透明です。

◆日本の取り組みとわたしたちにできること

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日本はプラごみの回収・リサイクルが重要で、各国の事情を踏まえた取り組みを重視する、という意味では米中などに近い姿勢とも言えます。
その日本の取り組みとしては一昨年、新しい法律ができました。コンビニのプラスチックスプーンやクリーニング店のハンガーなど12品目の使い捨てプラの提供抑制を事業者に求めたほか、自治体のごみ回収では、従来の容器包装プラだけでなくプラ製品もなるべく分別回収することになりました。
レジ袋有料化の時と違い、今回の法律では取り組みは企業の自主性に委ねられているため、プラスチックストローを紙製に変えるなど削減に取り組むチェーン店がある一方で、今もプラスチックスプーンなどはもらえる店も多く、国も具体的な削減効果はまだ確認できておらず、来年度以降調査するとしています。
物価高の中さらに値上げするような規制は困りますが、資源の節約が進む対策なら消費者の利益につなげることもできるはずで、国は実効性のある制度の検討が求められるでしょう。
そして、私たちになにができるかも気になります。まずはごみになる買い物はなるべく減らす。そして、リサイクル素材や生分解性プラなどの製品を選べる場合はそれもよいですし、ごみの分別・リサイクルはちゃんとするなど、当たり前のことかもしれませんが、結局その積み重ねがプラ汚染や私たちの健康リスクも減らすことにつながるように思います。


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土屋 敏之  解説委員

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