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能登半島地震 どうする?不眠

吉川 美恵子  解説委員

能登半島地震から2週間あまり。避難所などで過ごす方の中には、不眠で悩む人も多いといいます。どのように対処すればよいのでしょうか?

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◆6割が不眠に

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不眠とは「寝つけない」「夜中に何度も目が覚めてしまう」「熟睡感が得られない」状態です。
これまで、阪神・淡路大震災や東日本大震災、さらに海外の地震などでも、大きな災害の直後は、共通しておよそ6割の人に不眠の症状がみられたというデータがあります。
能登半島地震でも、家、故郷、そして家族などの大切な人を失ったショックや、先が見えず今後どうなるのかという不安も特に深刻です。その上、余震もまだ続いており、こうした大きなストレスが不眠を引き起こしているのです。加えて、避難所などは慣れない場所であり、厳しい寒さ、空腹、プライバシーがない、雑音などのために、疲れていても眠りづらいような劣悪な環境です。
実際、被災者の方達から医師や保健師に「眠れない」という相談が相次いでいます。

◆災害時の不眠対策とは?

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睡眠の問題に詳しい秋田大学大学院の三島和夫教授は、「眠れるときに眠る」と考えるのが大事だといいます。
避難所などで消灯時間も早い中、「他のみなさんと一緒に夜に必ず寝なくてはいけない」、とあせったり、身構えたりすると、かえって目が覚めてしまうからです。
眠れなくても、自然な眠気が来るまで、呼吸をゆっくりと整えて静かに横になっているだけでも、少しは体を休めることができるといいます。

◆眠れない人のための「夜間リビングスペース」
夜眠れない人に少しでも助けになるものとして、東日本大震災のときに実際に作られていたのが「夜間のリビングスペース」です。あくまでも避難所の空間に余裕がある場合に限られますが、例えば避難所が小学校ならば、一つの教室だけは夜も「薄明かり」を点けて間仕切りなどで外に光が漏れないようにし、眠れない人がくつろいで過ごせるような場所を作った避難所がありました。真っ暗ではないことで気持ちが落ち着き、眠れない人達にとても好評だったそうです。昼間は、同じ場所を日中眠くなった人が利用する仮眠スペースにすることもできます。

◆災害直後の不眠は心配しすぎない
三島教授によると、このような状況で「ストレスによる不眠」が続いても、「2~3週間」なら心配しすぎることはないとのことです。危機的状況に対処するための、正常な生体反応だからです。時がたつうちに眠れる日が自然と増えてきて、眠れるようになる人も多いといいます。この期間であれば、自然と改善する可能性があるので、できればまずは保健師に話をきいてもらうなどして、必ずしも睡眠薬まで使う必要はないとのことでした。

◆睡眠薬を使うときの注意

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震災の前から不眠で睡眠薬を処方されていた場合には、注意しなければならない点があります。
まず、眠れないからといって自分の判断で量を増やさないことです。十分な効果が得られないばかりか、ふらつきやめまいなどの副作用が強く出てしまうおそれがあります。
手もとに睡眠薬があっても、医療を受けられない状況で、しばらく睡眠薬が手に入りづらい場合は、できるだけ急にやめないようにして下さい。禁断症状(強い不眠、いらいら、発汗、どうき)などが出てしまう可能性があるからです。
まず、睡眠薬の残りの数を確認して、長持ちさせる工夫をしましょう。まず一度にのむ量を半分にし、それで数日続けても大丈夫そうならまたその半分などと、徐々に減らしていけば、禁断症状は起きにくくなります。もちろん、もし医師に連絡がとれるならば、減らし方も指導してもらいましょう。
また、飲酒は睡眠薬の代わりにはなりません。お酒を飲んで眠ろうとすると、最初は寝つきがよくなっても、すぐに効果が減ってしまいます。

◆不眠症と似た「せん妄」に注意

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特に高齢者の不眠には、周囲の人が気を付けなければならないことがあります。不眠症と間違えやすい「せん妄」という状態です。
症状は、強い不眠があって、夜にもうろうとした状態のまま徘徊したり、興奮して大声を出したりします。虫などの幻覚が見えて、振り払うようなしぐさをすることもあります。しかし本人は覚えていないので、周囲の人からのケアが必要になります。
せん妄は強いストレスや環境の急激な変化がきっかけとなり起きます。不眠症や認知症と似ていますが、被災後に「突然」こうした症状が始まった場合は、「せん妄」である可能性があります。
せん妄は多くの場合、数日から1週間程度で自然とよくなります。ただ、何か月も長引くと、そのまま認知機能の低下につながることがあります。もうろうとしているため、転倒して骨折しやすいので、周囲の人が注意してあげて下さい。
また、不眠症ではないので、ベンゾジアゼピン系と呼ばれるよく使われる睡眠薬はあまり効かず、症状をかえって悪化させることもあります。
昼間は逆にうとうとするので、熟睡してしまわないように起こしてあげて下さい。昼夜逆転を防ぐことで、治ることもあります。また、医師でも、昼間に見ただけではせん妄があることになかなか気づきづらいので、ぜひ周囲の人が医師や看護師に伝えて下さい。

◆不眠が長く続くと・・・

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不眠が長い期間続くと、高血圧の人は血圧がさらに上がって脳出血などのリスクが高くなったり、免疫力が下がって感染症にかかりやすくなったりと、身体に影響が出始めます。

また、不眠自体も1か月を超えて続くと、治りづらくなることが分かっています。
1か月以上続く場合は、まずかかりつけ医などの医師に相談して下さい。
特に、数か月以上続く不眠とあわせて、「悪夢」「倦怠感が強い」「意欲が出ない」「悲観的な考えが浮かぶ」といった症状もあるときは、不眠が「うつ病」「PTSD」などの病気のあらわれの可能性もあります。それぞれの病気に合わせた治療が必要になってきますので、睡眠を専門とする医師を受診して下さい。

◆支援者の不眠問題

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今回の能登半島地震では、今後は被災者だけでなく、不眠不休で働いて下さっている、医療従事者やライフライン関係者や消防・警察などの公務員など「支援者」の不眠にも注意が必要になってきます。
使命感をもって仕事に取組んでいるので、地震の直後は無理ができてしまうが、人手不足の中、過重労働が続くと、意欲が低下して、「バーンアウト」と呼ばれる状態になってしまうことがあります。不眠は、バーンアウトのサインのひとつでもあるのです。自分ではなかなか気づきづらいので、周囲の人が気づいてあげる必要があります。

大きな災害の後、10年以上不眠に悩み続けている人もいます。
こうした不眠などの心のケアに対しても、できるだけ早く医療体制を整え、さらに長く支援を続けるしくみを作る必要があると考えます。


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吉川 美恵子  解説委員

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