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偽情報があふれる2024年 能登半島地震は? 選挙は?

籔内 潤也  解説委員

いま、SNSなどで偽の情報、フェイク情報が広がることが多くなっています。
偽情報は能登半島地震でも、そして、ことし世界各地で行われる選挙に関しても出ています。
いま、どのような状況なのか、どう対応すればよいのでしょうか?
籔内潤也解説委員がお伝えします。

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【能登半島地震でも偽情報】
震度7を観測した今月1日の地震の直後から、偽情報が旧ツイッターのXで相次いでいます。東日本大震災の津波の映像を今回の地震によるものだとする偽情報や、外国人の窃盗団が集結しているという偽情報、偽の住所で救助の要請をするものまであります。広がってしまうと、救助や支援の活動にも影響が出かねないので懸念されています。

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【災害や戦争、選挙で広がりやすい偽情報】
偽情報、フェイク情報が出やすいのは、人々が不安を感じたり、情報を強く欲したりする状況のときで、それに便乗して注目を集めたり、閲覧数を稼いでお金儲けにつなげようという悪意のある人も出てきます。
災害や戦争、選挙のときがその典型とされています。
たとえば、去年10月からのイスラエルとハマスの軍事衝突では連日、それぞれの立場を有利にさせようというような偽情報が出ています。
選挙でも支持する候補に好意的な情報、対立候補に不利な情報は偽の情報でも信じてしまいがちで、まるで事実であるかのように広がってしまうこともあります。

【2024年は世界的な選挙イヤー すでに偽情報が】
ことし2024年は世界各地で大規模な選挙が相次いで行われます。
年明けすぐにバングラディシュの総選挙があり、1月に台湾の総統選挙、2月にインドネシア大統領選挙、3月にロシア大統領選挙、5月までにインドの総選挙、11月にアメリカ大統領選挙が行われます。日本でも衆議院の総選挙がある可能性があります。世界中で対象となる有権者は20億人を超えると見られています。

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偽情報はすでに出てきています。
2月に大統領選挙があるインドネシアでは、現職のジョコ大統領が本当は話さない中国語を話す偽動画が出ています。中国との距離感が政治的な争点になりがちだということで、ジョコ大統領や近い候補が中国に近いと印象づける意図があるものとみられます。

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日本でも去年、岸田総理大臣がひわいな言葉を話している、生成AIで作られた偽の動画が広がりました。さらに巧妙なものが選挙の直前に出てくると混乱を招きかねません。
いまでは、生成AIを使って、実際には話していないのに、さもその候補者が話したような音声や映像を作ることができますので、偽情報はより巧妙化していると言えます。

【選挙の偽情報 実社会への影響も】
選挙の偽情報が実社会に影響を与えたケースもあります。
2016年のアメリカ大統領選挙では、「ローマ教皇がトランプ氏への支持を表明した」などといった偽情報が出ました。
また、対立候補だった「クリントン氏が児童売春組織に関わっている」といった偽情報もSNSで広く拡散。実際にその偽情報を信じた男が、組織がある場所とされたピザレストランを銃撃する事件まで起きました。
選挙は民主主義の基礎となるもので、私たちは事実、正しい情報に基づいて国や地域の将来を決めます。偽情報、フェイク情報が広がることは、その根幹を揺るがすことになります。

【偽情報は広く速く拡散】

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偽のニュースは正確な情報よりはるかに広く速く拡散するという研究もあります。
アメリカのマサチューセッツ工科大学が2018年に発表した研究では、偽のニュースはツイッターのリツイートで10万人近く広がることもあるのに、正確な情報は1000人に広がることも少ないことが明らかになりました。また、偽のニュースは拡散にかかる時間は圧倒的に速く、6倍の速さで広がっていました。怒りや悲しみなど感情を刺激することが多く、広まりやすいとみられています。

【対抗が難しい偽情報】
偽情報に対抗する手段として重要なのは、SNSなどで広がっている情報などが事実かどうか確認し、誤っている場合は正す、「ファクトチェック」の活動です。
世界各地でNPOや報道機関などが偽情報を検証し、誤っている場合は正しい情報をウェブサイトやSNSなどで示す活動をしています。
ただ、ファクトチェック団体の多くは、現実的にはフェイクのスピード、広がりになかなか追いつかないのが現状だと危機感を示しています。

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技術的に対抗する試みも行われています。
生成AIで作られた偽画像や偽動画を、AIを使って見抜くといった取り組みです。
画面の左側は生成AIで作られた偽画像。右の方で赤くなっているところ、人では分かりませんが、AIは「違和感がある」と判断したということです。
こうした技術の開発は各国で進められています。
ただ、だます側の技術も上がっていくので、「いたちごっこ」になっているとされています。

【偽情報だと気づけるように】
そこで大事なのは、偽情報に接したときに一般の人たちが気づけるようにすることです。
あらかじめ、偽情報や誤った情報の典型的なケースや正しい情報に接しておくと、いざというときに「おかしい」、「偽情報ではないか」と気づけるようになります。

たとえば、インドネシアのファクトチェック団体「Mafindo」は、過去の選挙で広がった偽情報の傾向を分析し、今後出てくる可能性のあるものを事前に想定し対策を進めています。
以前、「選挙結果が操作された」といった偽情報が多かったのを受けて、得票を数える仕組みを解説する動画を作りました。実際の選挙でどう票数が集計されるか理解していれば、簡単にはだまされなくなります。

日本では、非営利組織の「日本ファクトチェックセンター」が新しい取り組みを始めました。LINEを通じて検証してほしい内容を送ると、これまでに検証した記事の中から、AIが近い記事を選んで示してくれるというサービスです。偽情報は以前に広がったものでもまた広がることがあるので、だまされないことにつながると期待されています。

【“流言は智者に止まる” 安易に拡散しない】

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残念ながらSNSで広がる偽情報、フェイクは歯止めがかからない状況で、特に、Xでは偽情報が出やすく、広がりやすくなっています。
Xでは、人員削減で悪質な情報をチェックする機能が弱まっているとされています。
さらに、課金しているユーザーが投稿で一定の閲覧数=「インプレッション」を獲得した場合に収益が得られる仕組みが導入されていて、一部のユーザーは注目を集めるために偽情報でも投稿しているとみられます。

いま、政府の規制が必要という意見もあります。あきらかに人の命を脅かす偽情報や誹謗中傷についてはなんらかの規制が必要かもしれません。
ただ、海外では政府にとって都合の悪い主張が、偽情報だとして政府に抑えられるケースも起きていて、言論の自由との兼ね合いでなかなか難しいのも事実です。

「流言は智者に止まる」という格言があります。知恵のある人は根拠のないうわさを他人に話さないから、噂はそこで止まるという格言です。
本当に裏付けのある情報かどうか確認し、安易に拡散しないことが重要です。
SNSで感情を揺さぶられるような情報に触れたときには「本当かな?」と疑ってみることが大事です。
そのアカウントが他にどんな投稿をしてきたか見たり、公的機関や報道機関の情報を調べたりすることで拡散するのを止めるのにつながります。
出どころが定かでない情報に触れた時にうのみにしない、拡散しないこと、「流言は智者に止まる」と意識してほしいと思います。


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