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広がるオーバードーズ 10代の市販薬乱用を防ぐには

牛田 正史  解説委員

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「気分を変えたい」「辛い気持ちから解放されたい」などと、高校生をはじめとした10代の若者が、風邪薬などの市販薬を乱用するケースが相次いでいます。
薬の過剰摂取はオーバードーズとも呼ばれ、国は市販薬の販売規制を強化する方針です。
乱用を食い止めるには何が必要なのか、牛田正史解説委員がお伝えします。

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国立精神・神経医療研究センターが、2021年度に4万人以上の高校生に行った調査では、1年間に「治療ではなく乱用目的で、市販薬を使用した経験がある」と答えた生徒が、約60人に1人に上りました。
この乱用とは、「ハイになるため、気分を変えるために、決められた量や回数を超えて使用すること」を意味します。
薬の過剰摂取は「オーバードーズ」とも呼ばれます。
60人に1人というのは、およそ2クラスに1人いるという割合になります。
決して少ない数字ではありません。
乱用に使われているのは、咳止めや風邪薬、それに痛み止めなどの薬です。
市販薬だから大丈夫だろうと思う方もいるかもしれませんが、決められた容量を超えて過剰に服用すれば、重篤な意識障害や呼吸不全などを引き起こします。
また、重い依存症に陥ったり、後遺症が残ったり、命に関わる危険性もあります。
消防などによると、ここ数年、10代で救急搬送されるケースが急激に増えています。
ではなぜ、市販薬を過剰摂取するのか。
調査を行った研究センターによりますと、「楽しくなりたい」「快感を得たい」というよりも、「辛い気持ちから解放されたい」「少しでも紛らわしたい」などと、精神的に追い込まれた末に手を出してしまうケースが目立つそうです。

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最近は、小学生が学校で市販薬を過剰摂取し、救急搬送されたというニュースもありました。市販薬の乱用は10代に大きく広がっています。
図は、全国の医療施設で薬物依存症の治療を受けた10代の患者のうち、主にどんな薬物で依存症になったのかを示したグラフです。
2014年には市販薬はゼロだったのですが、そこから年々拡大し、2020年には56.4%と最も多くなっています。急速に広がっているわけです。
その理由は複数ありますが、特に最近はインターネットやSNSで、乱用に関する情報が簡単に入手できるようになったことが、大きいと考えられています。
また危険ドラッグの規制が強化されたこと。
それに、市販薬は、医師の処方箋が要らず、大麻などと違って違法薬物ではないという点も、広がりの要因として考えられます。

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そこで厚生労働省の検討会は12月、市販薬の販売規制を強化する案を示しました。
実はこれまでも、薬局などで、乱用のおそれがある医薬品を若年者が複数購入する際は、その理由を確認するなどのルールがありましたが、十分な抑止効果はありませんでした。
そこで今回は、乱用の恐れのある医薬品について、これはエフェドリンなど指定された6つの成分を含む風邪薬や咳止めなどの薬ですが、20歳未満には、対面または、映像や音声を伴うオンラインでの販売を原則とします。
その上で、小容量の製品1個のみを販売するという規制案を示しました。
販売時には、店側が購入者の氏名などを確認し、記録して保管することも求めます。
また20歳以上についても、複数の薬を購入する場合、その理由を確認し、必要最低限の数だけを販売するとしています。
販売規制を強化し、大量購入を防ぐ狙いで、国は出来るだけ早く制度改正を進めたいとしています。

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こうした規制は、市販薬の乱用に一定の歯止めを掛ける効果が期待できます。
しかし、それだけで乱用を食い止めることは難しいと言えます。限界もあります。
ここからは、販売の規制以外に、必要な対策を見ていきたいと思います。
若者の市販薬乱用の実態を調査している国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の薬物依存研究部・嶋根卓也研究室長に聞きました。
嶋根さんは、まず薬剤師などのゲートキーパー化を進めるべきだと指摘します。
薬局やドラッグストアの販売窓口で、おかしいと感じた時に、例えば、「薬の飲み方で、何か困っていることはありますか?」などと声を掛けていく。
あるいは服薬状況を確認していくというものです。
実際、薬の大量購入を防ぎ、医療機関に繋ぐことが出来た例もあるといいます。
そうした声掛けを積極的に行っていく意識を、業界全体で高めていく必要があります。

さらに、嶋根さんは、学校現場での予防教育にも力を入れるべきだと指摘しています。
これまでは、飲酒や喫煙、それに違法薬物が予防教育の中心でした。
しかし、中学校や高校などを定期的に訪問する「学校薬剤師」といった専門家が、市販薬についても乱用の健康被害や依存症のリスクを伝えていくことが必要だとしています。
さらに、教師やスクールカウンセラーが、授業などの中で、精神的に追い込まれた時にSOSを発信する大切さを伝え、誰に相談すれば良いのかも明示して、いわば“助けてと言えるハードル”を低くする取り組みも、求められると指摘しています。

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そしてもう1つ、目を向けなければならない大切な点があります。
全国の高校生を対象に行った調査では、市販薬を乱用した経験がある生徒に、良く見られる特徴が浮かび上がってきました。
「学校が楽しくない」「親しく遊べる友人や相談できる友人がいない」。
そして家庭では、「大人不在で過ごす時間が長い」「親に相談できない」。
すべてがこれに当てはまるわけではありませんが、調査を行った研究センターは「社会的孤立」という共通項が見えてくると指摘しています。
また女性が多いという特徴もあります。
市販薬を乱用した経験のある人に話を聞くと、「悩みを誰にも相談できず、薬に頼った。飲み続けていると、当初のような効果を感じなくなり、どんどん量が増えていった」と話していました。
孤立を深めれば深めるほど状況は悪化します。
周りが早めに気付いて声を掛け、必要な支援に繋げていくことが重要になります。

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では、過剰摂取に悩んでいる人や周りの家族は、どこに相談すれば良いのでしょうか。
いざという時の相談先は、是非、知っておいてください。
まずは自治体の「精神保健福祉センター」です。
薬やこころの悩みに関する相談窓口が設けられています。
全国の都道府県と政令指定都市に設置されています。
また依存症の治療を専門に行う病院も全国にあります。
そして、薬物依存からの回復をサポートする民間の支援団体も知っておいてください。
その代表的な1つがダルクです。
依存症の経験を乗り越えた人たちが設立した団体で、回復に向けたプログラムやサポートを行ったり、当事者同士で支え合う取り組みを行ったりしています。
こうした民間の支援団体は全国各地にあり、厚生労働省のホームページでも、その連絡先が公表されています。
決して1人で、そして家族だけで抱え込まないことが大切です。

【まとめ】
いま、子どもの孤立が大きな問題とされていますが、この市販薬の乱用もその一端です。
薬に頼らざるを得ないほど、追い込まれている子どもたちの実情に目を向けて、どんな対処や支援が必要なのか、学校、家族そして社会全体が考えていく必要があります。


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