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COP28閉幕 "地球沸騰"時代の気候変動対策 再エネ3倍 家計に影響は?

土屋 敏之  解説委員

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◆気候変動対策の会議COP28が中東のUEAで開かれた

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今年は観測史上最も暑い一年と見られ、国連のグテーレス事務総長が“地球沸騰の時代”と表現して警鐘を鳴らす中、COP28が先週まで開かれていました。COP28は、国連の気候変動枠組条約の28回目の締約国会議にあたります。この条約のもとに具体的な取り決めとして2015年に「パリ協定」が作られ、気候変動がもたらす災害や食糧危機などの被害を抑えるため、気温の上昇を産業革命前から2℃未満、できれば1.5℃に抑える努力をするという目標については既に世界中の国が合意しています。
このためCOPの議題は、この気温の上昇を抑えるため二酸化炭素などの温室効果ガスをどう削減するか?そして、1.5℃や2℃に抑えられたとしても起きる気候変動の被害をどう減らすか?さらには、既に起きている気候変動による「損失と損害」を支援するお金をどうするか?も、去年のCOP27から議題に加わりました。

◆注目された初の「グローバル・ストックテイク」

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パリ協定では、まず各国が温室効果ガスの削減目標を提出し、定期的に実際の排出量を報告。そして5年に一度、世界全体で進捗評価を行って、これを次の目標の強化につなげる というサイクルを回しながら対策を進めていく仕組みになっています。この進捗評価にあたるのがグローバル・ストックテイクで、今回初めて行われました。
しかし、その評価は非常に厳しい結果でした。世界各国が今の削減目標のままでは、それをすべて達成したとしても、気温は今世紀中に3℃近く上昇してしまうおそれがあると報告されました。
気温の上昇を1.5℃に抑えるには、2030年には世界全体の温室効果ガスを43%削減、2035年には60%削減して、2050年頃には実質ゼロにする必要があります。しかし現状は、減るどころか世界の二酸化炭素排出量は増え続けています。

◆COP28で合意された対策

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まず、2030年までに世界の再生可能エネルギーを現在の3倍まで急増させる。そして、エネルギー効率を2倍にすることも合意されました。「エネルギー効率2倍」というのは、例えば蛍光灯をLED照明に取り替えると大体2倍の効率になるので、こうした転換をあらゆる分野で加速することを意味します。
ただ、実際にCO2を減らすには、再エネを増やすだけでなく、その分石炭や石油など化石燃料の使用を減らす必要がありますが、この「脱化石燃料」については交渉が難航しました。
議長が最初に示した案には「化石燃料の段階的廃止」という言葉がありましたが、これに産油国などが猛烈に反対。そこで作られた修正案は「化石燃料の削減」のみで廃止という表現が消え、これには欧米や海面上昇の被害が深刻な島国などが猛反発し、会議は1日延長されました。結局、最終合意文書は「2050年実質ゼロを達成できるよう」「この10年で、化石燃料からの脱却を加速する」という表現になりました。明確にやめるとは言っていないし色々な解釈ができる表現です。とは言え、COPの合意文書にこうした「脱化石燃料」的な表現が入ったのは初めてとされ、歴史的だという見方もあります。
気候変動問題の国際交渉に詳しい東京大学の髙村ゆかり教授は、あいまいで課題はあるが重要な合意とは言える。今後は各国政府が次期目標にどう落とし込むかやその取り組みが問われると指摘します。
今回のCOPは開催国が産油国のUAEで、しかも議長は実は国営石油会社のCEOでもあり、開催前から気候変動対策が進まないのでは?と懸念もあった中では、かろうじて1.5 ℃目標実現への可能性をつないだとも言われています。

◆COP28での日本

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COP28では岸田総理が「新規の石炭火力発電所の建設を終了していく」ことや「世界の再生可能エネルギーの容量を3倍に増やすことに賛同する」ことなどを発言しました。ただ、そもそも今世界にある火力発電所などを使い続けるだけでも1.5℃を超えてしまうと見られ、いつ既存の化石燃料インフラの使用をやめるかが問われる段階です。ところが日本はいまだ石炭火力をやめる時期を示すことにもG7で唯一反対しており、今回“新規には作らないようにしていく”ことを対策としてアピールしたのは、国際的にはむしろ消極的とも取られかねません。さらに「2030年再エネ3倍」についても、伊藤環境大臣は、日本自らはやる計画ではなく他の国が増やすのを支援するとも言っています。
こうしたことから、COP28では国際的な環境NGOが気候変動対策に消極的だとみなした国に皮肉を込めて贈る「化石賞」に日本は選ばれています。

◆今後の見通し

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COP28では2035年には温室効果ガス60%削減が必要であることがあらためて示され、各国はこれに沿った次の削減目標を再来年までに出すよう求められています。日本も2035年の目標はまだ作っていないので、今後検討していくことになります。
ただ、現在の目標である「2030年度に46%削減」も達成は容易ではありません。
CO2の削減は私たちのくらしにも深く関わっています。
実は、「2030年度46%削減」に向けた現在の国の計画でも、部門別で最も高い66%もの削減目標が私たちの家庭に割り当てられています。もちろん私たちにも、省エネや照明をLEDにするなどできることは色々ありますが、66%削減というと、太陽光パネルを設置したり車をEVに変えるぐらい大きな対策が必要で、現時点では達成出来るペースにはなっていません。

◆物価高の中でさらに家計の負担を増やさず脱炭素を進めるには?

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今後さらに目標が強化されるとなると国の強い後押しが欠かせませんが、まず求められるのはエネルギー、特に電力の脱炭素化を急ぐことです。
というのも、実は統計上「家庭のCO2」とされるうち大半は電気を使うことで発電所で出ているCO2です。ですから、電力会社で化石燃料から再エネや、賛否はありますが原子力への転換が進めば、家庭のCO2もそれだけ減ることになります。
燃料価格が高騰して、日本は多額の補助金を投入してこれを抑え続ける政策をとっていますが、世界的にはむしろ再エネへの転換を加速する好機との考え方もあって、国際エネルギー機関の予測では、今年世界の再エネの増加量が過去最多になる見込みです。
そして、日本でも新たな動きがあります。先週発表された洋上風力発電の事業者の公募で、1kWhあたり3円という石炭や天然ガスより安い価格で発電できるとする事業者が相次ぎました。国の想定より速いペースで再エネが「安い電源」になってきた今、脱炭素と国民負担の軽減を両立させる意味でも、日本もCOP28で合意したように「化石燃料からの脱却」を加速する時期に来ているのではないかと思います。


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土屋 敏之  解説委員

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