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脳死からの臓器提供1000例 知っていますか?臓器提供

中村 幸司  解説委員

脳死と判定された人からの臓器提供が、2023年11月までに1000例になりました。脳死や臓器提供について、どこまで知っていますでしょうか。今回は、脳死からの臓器提供について考えます。

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◇脳死からの臓器提供・臓器移植と1000例
脳死となって、心臓や肺、肝臓などの臓器が提供され、患者に移植されるというのが、臓器提供・臓器移植の流れです。

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日本臓器移植ネットワークによりますと、脳死からの臓器提供が11月までに、1000例になりました。1000例の提供によって、角膜を除いて、およそ4400人の患者が臓器の移植手術を受けたということです。
一方で、心臓や肝臓、腎臓などの移植手術が必要だとして登録されている患者は、およそ1万6000人います。

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上のグラフは、1997年に臓器移植法が施行されて以降の脳死からの臓器提供の数の推移です。よく見ると途中から増えているように見えます。
臓器提供の条件は途中で変わりました。当初の臓器移植法でその条件は、本人の書面による意思表示があって、家族が承諾した場合となっていました。

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2010年に法律が改正されて、本人の書面による意思表示がなく、意思が不明でも、本人が拒否していなければ、家族の承諾で提供できるよう条件が広がりました。そうしたこともあって、提供の数が増えたとみられています。

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一部の臓器は、脳死ではなく、心臓が止まった後でも提供できます。上の青い棒グラフは、心臓が止まった後の臓器提供の数です。

◇「脳死」とは
そもそも「脳死」というのはどのような状態なのでしょうか。事故などで頭を強く打ったり、脳出血を起こしたりしたときに、脳死になるケースがあります。

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脳は、記憶などをつかさどる「大脳」や運動の調節をする「小脳」、呼吸などを生命維持にかかわる「脳幹」と呼ばれる部分に分かれます。

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これら、すべての機能が失われた状態が脳死です。
この状態を「人の死」として、臓器が提供されます。呼吸は自分ではできず、人工呼吸器によって維持されています。心臓は動いていますので、血液は体に送られています。ですから、体は暖かく、爪は伸びます。

◇臓器提供の検討
家族がこうした状態になったときに、臓器提供を考えることになります。臓器提供がどう進められ、家族に何が求められるのか、考えてみたいと思います。

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病院で患者が脳死とみられる状態になったとき、家族の側から「臓器提供について考えたい」と申し出ることもあれば、医師など病院側から「臓器提供という方法もありますが、どうお考えですか」などと、選択肢を示されることもあります。病院側から、こうしたことを必ず聞かれるわけではありません。病院や医師の考えなどによって対応は異なります。

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家族が臓器提供について説明を受けたいと希望すれば、「日本臓器移植ネットワーク」という機関から臓器移植コーディネーターが派遣されて来ます。

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上の画像はシミュレーションのときのものです。原則2人以上のコーディネーターから説明を受けます。説明の内容は、▽臓器提供とは、▽本人の臓器提供の意思はどうなのか、▽脳死とは、どういう状態か、▽脳死ではなく心臓が止まった後からでも一部の臓器は提供できること、などです。
説明は、1時間から2時間ほどのケースが多く、複数回行われることもよくあるといいます。

◇家族の承諾から脳死判定
家族が承諾すれば、臓器提供に向けた手続きが進められます。

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ここでいう承諾とは、臓器提供すること、および臓器提供を前提にした脳死判定を受けることを指します。臓器提供と脳死判定それぞれの承諾書に署名します。

まず、脳死判定が行われます。

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脳波が平坦で反応がないこと、脳幹が機能していないこと、自分で呼吸できないことなどを検査します。同じ検査が間隔を置いて2回行われます。2回目の脳死判定の終了をもって、死亡となり、死亡診断書が書かれます。

ただ、脳死を「人の死」とすることについては、受け入れられる人もいれば、受け入れられない人もいると思います。
脳死ではなく、心臓が止まってから臓器を提供するという選択をする家族もいます。心臓が止まってから提供できる臓器は、腎臓、すい臓、角膜になります。
また、臓器を提供するための手術=「摘出手術」の前であれば、一度承諾した臓器提供を撤回することもできます。臓器提供をしないという選択もあります。

◇臓器提供と搬送、移植手術
臓器が提供されるとなれば、下の写真のような摘出手術が行われます。

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手術は、平均で4時間あまりかかります。

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提供された臓器は、クーラーボックスに入れられて運ばれます。写真のケースでは、複数の臓器が提供されました。このうち肝臓は、ヘリコプターで運ばれました。(右の写真の奥、明るいところにヘリコプターがある)このとき家族は、病院の屋上でヘリコプターを見送ったということです。
提供された臓器は、できるだけ早く移植する必要があります。心臓は提出手術から4時間以内に移植するのが望ましいとされています。肺は8時間、肝臓は12時間です。
搬送ルートや手術する医師のスケジュールなども考慮しながら、摘出手術の時間が決まります。搬送には、航空機の定期便や新幹線といった公共交通機関などが使われますが、特に時間の制約が厳しい心臓などについてはチャーター機やヘリコプター、緊急車両が使われることがあります。

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提供された臓器は、日本臓器移植ネットワークが基準に基づいて選定した患者のもとに運ばれ、移植手術が行われます。
提供した臓器が、無事移植されたかどうかといった情報は、希望すれば、家族に伝えられることになっています。提供した家族に対して、こうしたフォローも行われます。

◇日本の臓器提供の現状と課題
臓器移植法施行から26年で、臓器提供1000例という現状をどう見ればよいのでしょうか。海外と比べてみます。

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2022年、1年間の人口100万人あたりの臓器提供の数(心臓が止まった後の提供も含む)を比較したのが、上のグラフです。
世界的にみて、日本は臓器提供の数が少ない国の一つです。なぜなのでしょうか。
「人の死」に対する考え方など、理由は様々に指摘されています。その中の一つに、医療機関側の態勢があります。

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脳死からの臓器提供ができる病院は、脳死判定が適切にできるとされる全国およそ900の施設に限るとされています。さらに、これまでに脳死から臓器提供の経験があるのは、その3分の1、およそ300施設にとどまっています。
ここで臓器提供について、非常に大事なことがあります。「提供する意思」と「提供したくないという意思」、どちらも尊重される必要があるという点です。
「300施設」という数字を見ると、本人や家族に臓器提供の意思があっても、病院側の事情で、脳死からの提供が行われないケースが、少なからずあると考えられます。

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厚生労働省は、臓器提供の経験がない病院などを支援する制度を始めています。本人や家族の意思をできるだけ実現する取り組みは、引き続き必要だと思います。

突然、家族の死に直面したとき、臓器提供について、きちんと考えるというのは難しい面があると思います。

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医療機関によっては、コーディネーターが派遣されるより前の、早い段階から家族を支援できるよう専門の担当者をおいているところもあります。そうした人がいれば、家族も考えを整理して判断できるかもしれません。

そして必要なのは、臓器提供・臓器移植について、家族で考えておくことだと思います。
臓器提供について話すというのは、「家族の死」について話すことにもなります。家族といえども、家族だからこそ、そうした話は避けたいという思いもあるかもしれません。
ただ、自分の万が一のとき、家族にどうしてほしいと考えるのか。家族は、どうしてほしいと日ごろから考えているのか。それを知っておくこと、話し合っておくことが大切だと思います。
脳死と判定された人からの臓器提供1000例をきっかけに、一人一人が考えてほしいと思います。


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