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梅毒急増!胎児にも影響が

吉川 美恵子  解説委員

梅毒は、長い間「過去の病気」と思われてきましたが、ここ数年でぐっと身近な病気になり、新たな問題も生じています。

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◆拡大する感染

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こちらが梅毒の「報告数」のグラフです。ずっと年間千人未満だったものが、ここ数年で急増し、去年にはとうとう1万人を超え、今年は先月までのデータで13490例と、報告が始まってから最多になりました。

◆梅毒ってどんな病気?

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梅毒の原因は、「梅毒トレポネーマ」という細いらせん状の細菌です。これが、“あらゆる性的接触”により、粘膜や皮膚の細かい傷から感染するのです。ちなみに、プールや、一緒に食事をしたり、タオルを共有するなど、日常生活の中では梅毒はうつりません。

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梅毒の症状はまず、感染から1か月ほど後に菌が感染した場所、つまり性器や口などに、潰瘍やしこりができます。
ところが、こうした症状は梅毒が治っていなくても、いったん消えてしまうのです。

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そして、感染から3か月ほどたつと、今度は手足などの全身の様々な場所に赤い発疹が現れます。
人によっては、この頃に目に痛みや視力低下がおきたり、神経にまで影響が出て幻覚が見えるなどの神経症状が現れる人もいることが、最近分かってきました。

この発疹も数週間たつと消えてしまいます。
その後また症状が現れるのは5年以上先で、身体に柔らかいできものができたり、さらには、心臓や脳が侵されて深刻な状態になることもあります。

この「症状がときどき消える」というのが実は厄介で、本人は症状が気のせいだった、治ったなどと勘違いしてしまうのです。
さらに不思議なことに、症状が出るのがこの順番でなかったり、梅毒に感染しても「症状が現れない人」も中にはいます。

梅毒は、症状が出なかったり途中で消えたりするために、感染していても自覚がないまま、他の人にうつしてしまうリスクがあるのです。

◆梅毒が増えた理由は?
ではこの梅毒は、どうして最近こんなに急増したのでしょうか?

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こちらの2023年(ただし9月まで)のグラフでみると、青で示した男性は20~50代が多く、オレンジで示した女性は20代、特に前半が突出して多いことが分かります。最近、特に増えているのもこの世代です。

感染拡大の理由ははっきりしませんが、最近新しい傾向がいくつかみられるようになりました。
感染した女性の中には、ホストや地下アイドルに貢いだために支払いが滞り、性風俗産業で働くことになってしまった人もみられるといいます。

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梅毒は、性風俗産業で働く人や利用者だけの病気と思われがちですが、性感染症の患者の診療にあたっている東京プライベートケアクリニック小堀善友東京院院長は、「SNSの普及でマッチングアプリやいわゆる“パパ活”(デートをする代わりに金銭をやりとりすること)によって、不特定のパートナーとの性交渉が増えていることも、関係している可能性がある。」と言います。
しかし一方で、NHKと日本大学 川名敬主任教授によって行われたアンケート調査によれば、性感染症に感染したことがある人に性行為の相手についてたずねたところ、特定のパートナーと答えたのが男性の場合は約半数だったのに対し、女性は84%でした。こうした、「パートナーが一人だから自分は大丈夫」と思っていた女性が梅毒と診断されるケースも、最近はよくみられるといいます。

◆「先天梅毒」とは?

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そして、女性の感染者が多いことであらわれた新たな問題が「先天梅毒」です。
実は、梅毒は、妊娠中に母から胎児へ血液を通して感染することがあるのです。

「先天梅毒」で生まれた赤ちゃんの症状は様々で、皮膚に発疹ができたり、肝臓やひ臓が肥大したり、骨に異常があったり、目の炎症や難聴が現れることもあります。まれですが、精神発達遅滞症状がみられた例もありました。感染が原因で、流産・死産になることもあります。ただ、先天梅毒の子どもの半数以上は無症状といわれています。

この先天梅毒、実は以前から専門家の間では増加が心配されていました。実際、先天梅毒は、10年ほど前までは年に数人と稀な存在だったのですが、徐々に増えて今年は10月4日現在で32人とこれまでで最多となりました。

妊娠中の感染は「妊婦検診」の血液検査で判明するケースも多く、中には「まさか自分が性感染症にかかっていたとは」とショックを受ける女性もいるといいます。

先天梅毒に詳しい日本大学の川名主任教授は、こうした母子感染は全体の患者数の増加に少し遅れて増えてくることから、「今後数年は先天梅毒が増え続けるのではないか」と危惧しています。

妊婦が感染していると分かった場合は、抗菌薬を使って治療します。ところが、日本産科婦人科学会の調査では、感染が判明した妊婦を治療しても、14%は子供が感染してしまっていました。
調査のメンバー、川名主任教授は、「リスクを下げるためも、とにかく妊娠前に感染に気づいて欲しい」と言います。

◆梅毒は 予防できる?

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梅毒を予防することはできないのでしょうか?梅毒は、母子感染以外は、性交渉でしかうつりません。そのため、コンドームを使ったり、不特定多数との性交渉を避けたりすることで、リスクを下げることはできます。
しかし、感染の広がりを防ぐには、とにかく検査を受け、陽性だとわかったら治療を受けることが重要です。

ぜひ覚えておきたいのは、梅毒の治療はとても簡単だということです。 感染後1年ぐらいまでの早期であれば、4週間抗菌薬をきちんとのみ続ければ完治できますし、1回だけお尻に打てばよい筋肉注射の薬も去年から使えるようになっています。費用もそんなにかかりません。

専門家によると、検査を受けるべきタイミングは、性風俗を利用したときとパートナーが変わったときだといいます。少なくとも、少しでも疑わしい症状を見つけたときには、必ず検査を受けるようにしましょう。

大事なのは、もし感染していることが分かったら、すぐにパートナーにも検査や治療をしてもらうことです。そうしないと、せっかく治療してもパートナーとうつし合うことになってしまいます。

検査や治療を受けるには、男性なら泌尿器科、女性なら産婦人科、その他にも皮膚科や性感染症内科でも診療できます。また、各地の保健所などで、無料・匿名で受けられる検査も始まっています。中には郵送で検査が受けられる地域もあります。まずは自治体に問い合わせてみて下さい。

全国で患者数が増えている今、最も重要なのは、梅毒を他人事と思わないことなのです。


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