来年1月から、個人を対象にした投資の優遇税制「NISA」の新しい制度が始まります。今井解説委員。
【そもそもNISAとは、どのような制度ですか?】
個人の資産運用を後押ししようと、国がつくった税制の優遇制度です。ふつう、投資でもうけた利益には、税金が20%程度かかるので、10万円もうかったとしても、2万円程度ひかれてしまいます。それが、NISAは、税金がかかりませんので、まるまる受け取ることができます。これが最大の特徴です。
そして、これまで、大きくわけて、つみたてNISAと、一般NISAという2つのしくみがありましたが、それが来年1月から、それぞれ、つみたて投資枠と成長投資枠という名前で、新しい制度として始まります。
【2つの枠があるのですね?どう違うのですか?】
つみたて投資枠は、「長期・つみたて・分散」という、投資の原則に沿ったもので、投資が初めてという人でも、比較的安心して投資ができるようにという狙いのしくみです。
【長期・つみたて・分散ですか】
はい。上がった、下がったといって、すぐに売ったり買ったりするのではなく、長期にわたり、例えば、毎月一定額、コツコツ、投資信託のように、性質の異なる資産に分けて、つみたてていく考えです。
▼ (分散)投資信託というのは、例えば、様々な国、様々な企業の株式や債券などを組み合わせた商品で、どこかの国の景気が悪くなったり、どこかの企業が倒産したりしても、他が支えてくれる。
▼ (つみたて)また、時期をずらして一定額を買い続けることで、値段が高い時は買う量を抑え、値段が安くなったところで、多くの量を買う仕組みになっている。
▼ (長期)そして、2003年から、毎月1万円、世界の主な株価指数に連動して投資をした場合、どうなったかの試算を見てみます。濃い青い部分がつみたてた総額です。経済のショックなどで、損が出る時期があっても、がまんしてコツコツ積み立てていくことで、(この先はわかりませんが)、とりあえず、20年たったところでは、カバーすることができているという試算です。
【長く続けることが大事なのですね】
そうです。そして、つみたて投資枠は投資信託の中でも、長期、つみたて、分散投資に適していると、国が規定した要件を満たしている、今の時点だと260商品に対象が限られています。
また、通常、投資信託を購入するたびに金融機関に払う販売手数料は、この枠の場合ゼロ。投資信託を管理・運用してもらうための経費として、持っている間、払い続ける手数料も低く抑えられています。
【だから、比較的安心して投資ができるというのですね】
はい。初心者向けにつくられたしくみと言ってもいいと思います。
一方、成長投資枠は、個別の株式に投資したり、ある程度まとまった額を投資したりすることもできる。より自由度が高いしくみです。手数料に制限もありません。
【新しい制度になって、何が変わるのですか?】
それぞれの枠が大幅に拡充されます。いずれも
▼ これまで、期限限定の制度だったのが、恒久的な制度に。また、
▼ 非課税で保有できる期間も限られていたのが、無期限になります。
▼ 投資できる上限も増えて、つみたて投資枠は年間120万円まで。つまり、毎月10万円までつみたてができるようになり
▼ 成長投資枠は年間240万円まで投資できるようになります。
【両方、同時に投資できるのですか?】
はい。できます。そして、保有できる限度額は、あわせて1800万円。ただ、このうち成長投資枠で利用できるのは、1200万円までとなっています。
【なぜ、政府は、非課税の制度を拡充してまで、投資を後押ししようというのですか?】
人生100年と言われる、これからの時代。特に、若い人たちが老後を過ごすには、年金だけではなかなか厳しい。だから、自ら投資をして、ある程度、個人で資産を増やしてほしい。そして、投資されたおかねを企業が、思い切った事業の展開に使うことで、経済の活性化にもつながる。こうした狙いがあるからなのです。
【狙い通り投資は増えるのでしょうか】
若い人を中心に関心は高まっています。例えば、つみたてNISAの口座を持っている人は、835万人。20代と30代で半数近くを占めていて、この1年で、それぞれ30%近く増えています。
【でも、投資は、損をする可能性もありますよね。関心はあるけれど、不安もあるという人は、どう活用したらいいのでしょうか?】
何人かの専門家の話をまとめると・・確かに、投資は、損をする可能性はありますが、それを含め、家計管理の選択肢のひとつとして学んで、考えることが必要な時代になってきているのではないか。
その上で、NISAに投資をしようと思った場合、
▼ 特に、若い人、投資の経験がない人は、つみたて投資枠から始めるのがひとつの考えだということです。ひと月100円から始められる商品もあります。経験を積んでから、積み立てる金額を増やしたり、成長投資枠を使ったりすることもできます。
▼ 退職金や遺産が入ってきたからといって、あるいは、老後に必要な資金を、成長投資枠などで、まとめて投資することはリスクが高くなります。
▼ そして、専門家は「金融機関に勧められるままに投資するのは、リスクがある」としています。というのも、金融機関の中には「こちらの方が高い利益が期待できます」とか、「退職金をある程度まとめて投資できます」などと言って、高い手数料がとれる商品や、成長投資枠での投資を勧めてくるケースもあるからです。納得して投資するのならよいのですが、勧められて、よく理解しないまま投資をしてしまうと、後から後悔することになりかねません。
【NISAを始める場合、どういう手続きが必要ですか?】
証券会社や銀行などで、口座を開いて手続きをします。ネット証券でも扱っています。注意が必要なのは、一人につき、ひとつの金融機関・ひとつの口座しかもてないという点です。そして、それぞれの金融機関で扱っている商品の品ぞろえが違いますので、初心者向けのつみたて投資枠でも、ある程度、勉強した上で、自分がどの程度リスクを負えるのか。手数料は納得できるか、考えて選ぶことが大事です。金融庁が、新しいNISAを紹介するサイトに、長期・つみたて・分散の考え方をわかりやすくまとめた資料集などを載せていますので、そこから勉強を始めるのもひとつの方法です。
【すでにつみたてNISAをやっている場合はどうなるのですか?】
年末までこれまで通りつみたてて、今の口座で期限まで運用し続けることができます。
その上で、年が明けると、手続きなしで自動的に、同じ金融機関に新しい制度の口座がつくられて、同じ商品、同じ金額でつみたてが始まります。ですので、もし、新しい制度では、つみたてる金額を増やしたい。別の金融機関、別の商品でつみたてたい。あるいは、やめたい、という場合は、今、口座のある金融機関に連絡する必要があります。
他にも、投資では注意点があります。
FX(外国為替証拠金取引)とか、暗号資産とか、聞いたことがあるという方もいると思いますが、これは、値動きが激しく初心者向きではありません。大きな損をする人もいます。
とにかく、投資については、自分の資産の状況やリスクへの許容度を踏まえ、する、しないを含め、自分の責任で判断することが大事だと思います。
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