岸田内閣の支持率下落が止まらない。岸田首相は年内の衆議院解散を見送り物価高などへの対応に集中するとしているが、政務三役の辞任が相次いでいる。不透明感が漂う政治の現状と今後について考える。
●内閣支持率急落●
11月の内閣支持率は10月より7ポイント下がって29%。「支持しない」は8ポイント上がって52%だった。不支持が支持を上回るのは5か月連続。内閣発足時から20ポイント下げ、最も低くなった。支持率が内閣の「危険水域」とされる20%台になったのは菅内閣末期の2021年8月以来で、自民党が政権復帰後最低の数字に並んだ。
支持が低迷しているのは内閣だけでない。
自民党の11月の支持率は37.7%。10月より増えはしたが、政権発足時からは4ポイント弱減らしている。また特に支持する政党はない「無党派層」を7か月連続で下回った。
●年内解散見送り●
岸田首相が年内の衆議院解散を見送ったのは、今は選挙を有利に戦える環境にないと判断したためだろう。岸田首相は9日、衆院解散について記者団から問われ「まずは経済対策。先送りできない課題に一つ一つ取り組んでいく。それ以外のことは考えていない」と答え、これまで付け加えてきた「今は」「現在は」というフレーズは消えた。
選挙で勝つには所属する政党の支持を固めたうえで、無党派層の支持を少しでも拡げるのが鉄則だ。しかし11月、与党支持層の内閣支持が53%にとどまり、「無党派層」の支持は「野党支持層」と同じ12%にまで落ち込んだ。それだけに今回の発言は「解散を見送った」というよりむしろ、「解散したくても、当面できなくなった」「解散権が事実上封じられた」と解釈する向きも政界では少なくない。
今年に入り「解散風」を利用して与党内の求心力を維持し、時にはけん制もしてきた岸田首相だが、内閣支持率が自民党の支持を9ポイント近くも下回ったことで今後党側の意向をこれまで以上に配慮を迫られるなど力関係に変化が生じ、さらに苦しい立場に追い込まれる可能性も否定できない。
●減税と給付●
支持低下の要因はいくつか考えられるが、先に打ち出した経済対策や、所得税などの減税と給付に対する国民の冷めた評価が大きく影響したのは間違いない。一連の経済対策を通じて岸田首相は来年夏には、所得の伸びが物価上昇を上回る状態にしたいとしているが、これに「期待しない」という人は「あまり」「まったく」あわせて65%。一方「期待する」は「大いに」「ある程度」あわせて30%。また政府は所得税などを1人あたり4万円減税し、住民税非課税世帯には7万円を給付する方針だが、これを「評価しない」という人はあわせて59%。一方「評価する」は36%だったことからも明らかだ。「経済対策」は全ての世代の6割以上が、「減税と給付」は30代以上の過半数が、期待や評価していない。このため岸田内閣を「支持しない理由」として「政策に期待が持てない」という人は11月57%と、2か月連続で5割を超える結果となった。
減税と給付、評価が低い理由は何が考えられるのか。その点について聞いたところ「選挙対策に見えるから」が最も多く38%、次いで「物価高対策にならないから」は30%、「国の財政状況が不安だから」は24%、「実施時期が遅いから」は4%だった。
選挙対策と受け取られているのは、岸田首相が減税の検討を与党側に指示したのが10月の衆参補欠選挙直前で、早期の解散総選挙の観測もくすぶる時期と重なった点が大きく影響しているとみられる。政府は防衛費について今年度から5年間で43兆円程度確保しその財源の一部を法人税、たばこ税とともに、所得税の増税で賄うとしてきた。こうした将来の増税と今回の減税は「矛盾しない」と岸田首相は説明しているが、「納得できない」は67%に上り、「納得できる」は19%にすぎない。与党支持層でも「納得できない」は57%、無党派層では76%だった。賛否両論がある中、防衛増税を決めた去年暮れから1年も経たないうちに減税の方針が示されたことに国民の多くが唐突感を覚え、これまでの説明との整合性に疑問を感じている。岸田首相は、こうした声を真摯に受け止め、もし事実と異なるというのであれば国会できちんと説明すべきではないか。
また「物価高対策にならない」「実施時期が遅い」があわせて3割余りを占めたのは、減税実施には法改正が必要で開始は早くても来年6月と、給付に比べて即効性に欠けるためだ。また岸田首相は減税を「1回で終えられるよう経済を盛り上げていきたい」と述べているが、1回では多くが貯蓄に回り効果が薄いという指摘や、消費拡大には消費税の減税の方が有効だという見方もある。さらに国債の発行残高が1000兆円を超え、4人に1人が財政状況に不安を感じる中で、岸田首相が「税収増の一部を国民に還元する」と述べる一方、鈴木財務相は「過去の税収の増加分は政策や国債の償還などですでに支出しており、減税を行えばその分、国債の発行額が増える」と答弁したことも国民にはわかりにくい。
制度の詳細は与党の税制調査会で年末にかけて議論されるが、自民党内にはその効果を疑問視する見方もある。また富裕層も対象に含めるのか。また実施は1回きりか、それとも物価高が続いた場合に期間を延長するのかなど、自民・公明両党で意見が分かれる点も少なくない。さらに当初首相周辺のみで検討が進められたことへの不満や、支持率低下を招いた責任を問う声もくすぶっており、議論は紆余曲折も予想される。
●政治の行方は●
政治の今後の行方は物価と賃金の動向に大きく左右されるとみられるが、ここにきて波乱要因となりつつあるのが内閣改造から1か月余りの間に、政務三役が様々な理由で相次いで辞任に追い込まれていることだ。10月の山田文部科学政務官、柿沢法務副大臣に続き、13日には過去に税金の滞納を繰り返した神田財務副大臣が辞任したことで、来週からの補正予算案の審議、さらには政権運営への影響は避けられそうにない。
岸田首相は先の内閣改造を「適材適所」とする一方、「国民におわびしなければならない」とも述べている。ただ岸田首相に「任命責任がある」という人は「大いに」「ある程度」あわせて67%と、「ない」の26%に大きく差をつけている。去年秋にも初入閣の閣僚4人の相次ぐ辞任が支持低迷のきっかけともなっただけに、一連の問題が政治の先行きをさらに不透明にする可能性も否定できない。
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