NHK 解説委員室

これまでの解説記事

卵の値段の見通しは? 鳥インフルエンザの影響や業界の対応

佐藤 庸介  解説委員

m231110_002.jpg

ことし、多くの方々が卵の値上がりを実感したと思います。
全国で鳥インフルエンザの発生が相次いだことが大きな原因となりました。
秋に入って、ふたたび警戒が必要な時期を迎え、今後が気になるところです。
現状や見通しについて、詳しく解説します。

【最近の卵の値段 どうなっている?】
まず、総務省の統計をもとに、卵の小売価格を見てみましょう。

東京23区での1パック・10個入りの価格です。

m231110_005.jpg

去年の1月は234円でした。そのあともしばらく230円くらいで安定していました。

ところが、ことしの2月以降、急速に値上がりして300円を超えました。そのあとも値段はあまり下がらず、10月は307円でした。

東京以外の地域もばらつきはあるものの、同じような傾向です。

【鳥インフルエンザが値上がりの要因】
急に上がった理由には、ニワトリのエサ価格の高止まりもあります。ただ、大きいのは、致死率が高い「高病原性」の鳥インフルエンザの拡大です。その影響が、今もなお尾を引いている状況です。

ある農場で高病原性鳥インフルエンザが起きると、ウイルスを封じ込めるため、法律に基づいて同じ農場の鳥をすべて殺処分しなくてはなりません。

発生が広がって卵を産むニワトリが減ると、卵の供給に支障が出ます。しかも、なかなか回復しません。

【昨シーズン 卵用のニワトリで拡大】
鳥インフルエンザは、一般的に大陸方面からやってきた渡り鳥が日本にウイルスを持ち込むため、例年、秋から翌年の春にかけて発生します。

去年の秋からことしの春にかけての昨シーズンは、過去最多となる、およそ1771万羽が殺処分されました。中には肉用のブロイラーなどもありましたが、このうちのおよそ1654万羽、大半が採卵鶏と呼ばれる、卵を産むニワトリでした。

m231110_011.jpg

1654万羽という規模がどのくらいかと言いますと、卵用のニワトリは全国で1億3000万羽くらい飼われていますから、12%ほどにあたります。

12%という数字、あまり大きく感じないかもしれません。しかし、卵の価格は需要と供給の変化に敏感で、少し増減しただけでも動くと言われています。地域や時期によって違いはあるものの、「1%卵の供給が減ると、5%くらい値上がりする」という養鶏関係者もいます。

【全国に広がった卵の品薄】
さらに昨シーズンの特徴は全国的な発生です。

10月下旬に岡山県で1例目が発生した後、ことしの4月にかけて北海道から沖縄県まで、ほぼ全国各地で起こりました。

卵は鮮度が大事な食べものなので、養鶏場の近くで流通するのが一般的です。その結果、各地で一時、卵が品薄になる事態になりました。

m231110_013.jpg

夕方になるとスーパーの棚から卵がなくなったと感じた方もいるのではないでしょうか。

しかし、足りなくなったのは、パック入りの卵だけではありませんでした。外食業界では、オムライスなどのメニューを一時取りやめるなどの影響が出ましたし、加工用の卵を扱うメーカーでは、原料をやりくりできなくなって、数か月間、製品の販売量を減らす異例の対応を余儀なくされました。

【生産体制は今どうなっているのか】
発生した養鶏業者に対して、支援策は用意されています。

鳥インフルエンザの発生農場ができるだけ早く経営を再開できるように、法律に基づいて国から「手当金」が支給されます。これは強制的に殺処分された鳥の分です。

また、生産者と国が資金を出し合って、生産できない期間にかかる経費を賄う仕組みもあります。こうした支援措置に基づいて、多くの農場が生産を再開します。

それでも、生産体制は昨シーズンの鳥インフルエンザ拡大前にまでは戻っていません。

農林水産省によりますと、殺処分されたおよそ1654万羽のうち、ふたたび導入されたのは10月10日時点で半分程度にとどまっています。元に戻るには、あと半年ほどかかる見通しです。

m231110_019_002.jpg

というのも、ニワトリを一気に導入することは難しいからです。

まず、ニワトリはふ化してから卵を産めるまで成長するのに5か月かかります。前もって計画していなければ、ヒナを手当てすることはできません。

さらに年を取ると少しずつ産む卵が大きくなります。同じ時期にたくさんのニワトリを入れると同じサイズの卵ばかりできることになり、販売がうまくいかない恐れがあります。導入時期をずらし、偏りを防ぐ必要があります。

生産が完全に再開できるようになるまでには、どうしても一定の時間がかかるというわけです。

【今シーズンの鳥インフルエンザは】
多くの人たちは、「これからどうなるのか」ということに関心があると思います。

鳥インフルエンザについては、今シーズン、11月9日までの時点で国内の農場での発生はありません。しかし、引き続き警戒が必要です。というのも、すでに野鳥では発生しているからです。

10月11日、北海道の美唄市で見つかったカラスの死骸から高病原性鳥インフルエンザのウイルスが確認されました。

そのあと北海道内だけでなく宮城県でも見つかり、11月9日時点であわせて7件が確認されています。いずれも発生は北日本で、地域的は限られているように見えます。

m231110_021_004.jpg

しかし、家畜の伝染病に詳しい北海道大学の迫田義博教授は、すでにカラスなど国内にとどまる鳥にも感染が確認されていることから、全国的に警戒が必要な段階だと警鐘を鳴らしています。

m231110_0.jpg

【生産面での対策は「分割管理」】
十分生産が戻り切っていない段階で、ふたたび大規模な発生が続けば、また卵の供給に響くのではないかと心配になります。

そうした事態を避けるために、生産者側・メーカー側、それぞれで一定の対策を講じています。

まず、生産者側で始まったのが「分割管理」という方法です。

農場で発生すると、法律に基づいて同じ農場で飼われている鳥はすべて殺処分しなければなりません。大規模な養鶏場の一部で見つかっただけでも、すべて殺処分が必要で、業界からは負担が重いという声が上がっていました。

とはいえ、ウイルスの封じ込めは欠かせません。そこで農林水産省は、ことし9月、1つの農場を小さく分けて、それぞれが別だと認める条件を初めて具体的に示しました。

農場を柵で分けること、卵を集めるベルトコンベアを別々にすることなど、厳格に分けて管理していれば、仮に発生しても殺処分は一部で済むということです。

すでに工事を行って、11月から分割管理を始めている養鶏場もあります。

m231110_031.jpg

【メーカーは在庫と輸入で準備】
また、卵を使う側も対応を進めています。

たとえば大手食品メーカーは、卵を溶いた「液卵」を冷凍して、十分な在庫を準備しました。

さらに輸入のルートも確立しました。不足が顕著だったことし春の時点で、鳥インフルエンザが発生していなかったブラジルから、コンスタントに殻付きの卵の輸入を始めています。

これにより、会社では「仮に昨シーズンレベルの発生が起きても、販売を休止、抑制するような事態にはならない」と話しています。

養鶏業界では、もはや常に鳥インフルエンザのリスクがあるという前提で準備を進めています。ただ、いずれもコストがかかることです。

分割管理はまとまった投資が必要で、すべての養鶏業者ができるわけではありません。また、冷凍での保存は、冷凍庫の保管料がかかります。ブラジルからの輸入も運賃が高くつきます。あくまで足りなくなることに備える「保険」のようなものです。

【今後どうなる?卵の価格】
こうした状況で、いったい、卵の価格はどうなるのでしょうか。

何より鳥インフルエンザがどうなるかがカギを握っています。

今シーズンも昨シーズンと同じように大規模な発生が続けば、さらに値上がりする可能性もあります。

その一方で、大規模な発生が回避された場合でも、関係者の間では「価格はもう元には戻らない」という声が目立ちます。

感染動向が落ち着いていれば、むしろ「卵は余る」という見方があるにはあります。昨シーズンの不足に直面して、別の原料に切り替えたメーカーなどが相次ぎ、需要のパイが縮んでしまったからです。

とはいえ、生産コストは、鳥インフルエンザ対策に加えて、エサ価格の高止まりもあって高騰しています。「安売りしても赤字が増えるだけで何もいいことはない」と考える養鶏業者が増えているようです。

生産者、流通業者、メーカー、それぞれに話を聞くと、もう卵は「物価の優等生」とは言えない時代に入っていると実感します。

m231110_040.jpg

ただ、消費者としては、たとえ価格が多少上がるとしても、スーパーの棚から卵がなくなるというのは困ります。

ですから、養鶏関係者には、安定して供給する体制を整えて、そうした事態は決して起こさないようにしてもらいたいと思います。


この委員の記事一覧はこちら

佐藤 庸介  解説委員

こちらもオススメ!