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知っていますか?保護司の役割

清永 聡  解説委員

今回は地域で活動する「保護司」についてお伝えします。事件を起こした人などの立ち直りを支援する保護司。担い手の減少と高齢化が課題になっていて、国による検討も始まりました。
保護司の役割とこれからの課題とは何でしょうか。

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【保護司ってなに?】
Q:保護司さんって聞いたことはありますが、どういう人がどういう活動をしているのか、知らない人が多いんじゃないでしょうか。

A:保護司の主な活動は、刑務所や少年院を出た人などを社会で立ち直っていけるよう支えることです。法務省が保護司を紹介する動画を作っています。

木村祐一さんが保護司役を務めるショートムービーです。青年は保護司に付き添われて就職の面接に向かいます。
無事に青年は工場に就職できました。その後も木村さんは彼を励ましに顔を出しています。次第に青年も職場になじんでいったようです。

Q:こんな風に社会復帰を支えているんですね。

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A:保護司は「非常勤の国家公務員」です。公務員といっても、実際には地域の人が引き受ける無報酬のボランティアです。
定年退職した人や自営業、元学校の先生などが推薦を受けて就任します。

主な役割は、事件を起こした人や少年などと面接して仕事を見つける手助けをすることです。このほかにも生活していく上での手続きを手伝って調整を図ったり、指導したりします。
いまは全国に47000人います。地味ですが、なくてはならない大事な役割です。いまも全国各地で、人々のために熱心な取り組みを続けています。

【保護司の減少・高齢化も】
Q:その保護司さん、担い手が減っているということですが。

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A:さきほど、現在全国に4万7000人と言いましたが、国の計画だと本当は定数が5万2500人。つまり1割足りません。
取材すると、1人で何人もの面接や相談に応じたり、地域活動をしたりといくつもの仕事を抱えている人もいるそうです。

一方、日本では犯罪そのものが減少していますから、保護司の減少で制度がすぐに成り立たなくなるというわけではありません。また、単純に人数が増えれば良いということでもないと思います。私はむしろ、高齢化の方が心配です。

こちらは保護司の年代別の内訳です。1975年には半数近くが60歳未満でした。60歳を境に半々になっていて、バランスがとれていました。
ところが現在は60歳以上が全体の8割近く、70歳以上だけでも4割近くいて、高齢化が大幅に進んでいます。

Q:どうして担い手が減って高齢化したのでしょうか。

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A:一つには企業の定年延長が影響しています。保護司は2年ごとの任期制で以前は再任が75歳までになっていました。つまり人にもよりますが最大で77歳まで活動していました。
昔は60歳で会社を定年になって、それから保護司を引き受けて仮に75歳までなら15年間活動できます。
ところが、65歳定年になれば、そこから活動できるのは10年しかありません。
定年延長で、活動できる期間が短くなるわけです。
これが担い手の減っている要因の一つです。このほかにも過疎化や地域活動の低下などいくつか原因があります。

このため法務省はおととし、活動を限定した上で、本人が希望すれば78歳になる前日まで特別に再任できる仕組みを作りました。これで人数を確保しようというわけですが、ますます高齢化します。
もちろんベテランの経験や知恵は大事ですが、活発に活動できる若い世代も必要です。

Q:女性の保護司さんはどのくらいいるのですか。

A:女性の割合が現在26%あまり。つまり4人に1人です。少しずつ増えてはいるのですが、女性の保護司を増やしていくにはどうするかも課題になっています。

【サポートセンターで活動拠点に】
Q:現役世代はやはり忙しいですし、活動する場所もないですよね。

A:保護司は昔、地域の名士が就任して相談や面接も自宅で行い、個人情報の入った資料も自宅で保管するということがありました。
しかし、他人を家に入れることには抵抗がある、という声もあって、これも敬遠される要因と言われてきました。
そこで保護司会という単位ごとに「更生保護サポートセンター」という保護司が活動する拠点が作られています。現場を訪ねてきましたのでご覧ください。

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m231024_v2.jpg東京 大田区「大田区保護司会 更生保護サポートセンター」

ここは東京・大田区にある保護司会のサポートセンターです。
大田区の保護司は200人あまり。閉校した小学校の一部を借りてここを事務所にしています。
事務室は元々給食の調理室だったそうです。更生保護のための面談室も設けられています。
会議室は教室の1つです。外ではゲートボールが行われていて、地域のサークル活動と同居していました。現在は、ボランティアなど様々な活動もしているそうです。

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いまはこの施設、全国の880か所あまりに置かれています。すでにある公共施設の一部を使っているところが多くなっています。
活動の拠点ができたこともあって、非行防止や薬物防止の市民講座を開いている所、中学校で生徒に向けた法教育を行っている所。子供への絵本の読み聞かせなど。様々な活動を行っている保護司会があるようです。
立ち直り支援だけでなく、地域活動の中核の1つになっています。

【国の検討も始まる 待遇改善や若手の確保は】
Q:こうした多様な活動をするなら、ますます人材の確保が欠かせませんね。

A:そこで国もいま、検討会を作って対策を考えています。論点の1つは待遇を改善できないかというもので、お金の問題も含まれます。

Q:さきほど、保護司には報酬がないといっていましたね。

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A:現在交通費など「実費」として支払いは行われていますが、最初に説明したとおり、ボランティアです。自分でお金を出して活動している人も少なくないそうです。
また、保護司会は会費制となっています。これも奉仕活動なのになぜ会費を負担するのかという声もありました。
そこで報酬制にして、活動に対価を支払うことはできないかという意見もあります。
一方で、ボランティアの理念を大事にしたいという意見もあります。

若手が参加しやすくする取り組みの検討も必要です。もっと幅広い募集はできないか、とか、働いている人が参加できるように負担を軽くする方法がないか、などです。こうした点が、改善に向けて議論されることになります。

【「更生保護は社会への入り口」】
ある専門家は、「更生保護は社会の入り口だ」と指摘しています。
過去に事件を起こした人に、門戸を閉ざしてしまえば、再び犯罪に走ってしまう事態にもなりかねません。
だからこそ多くの人が更生保護の活動に参加して、助け合うことが大事です。
また一般の人たちもこの機会に、保護司の活動が地域の安全と安心につながっているということを、ぜひ、理解してもらいたいと思います。


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