ことしも新米が店頭に並び始めています。ただ、心配されるのは、この夏の猛暑です。コメの出来栄えや値段に影響は出ていないのか、調べました。
【全国を見渡すと平年並みだが…】
まず、全国の作柄について、農林水産省が10月13日、状況を発表しましたので、具体的に見てみましょう。
9月25日現在の作柄を示す「作況指数」を都道府県ごとに分けた地図です。「やや良」がオレンジ色、「平年並み」が黄色、そして「やや不良」が緑と色分けしています。
緑の「やや不良」で目立つのが、コメどころの新潟県と秋田県です。平年を100とした指数で新潟県が95、秋田県が97と振るいません。
このうち新潟県は、7月下旬から8月、猛暑に見舞われました。それに加えて、実は5月下旬から6月上旬にかけては、低温、日照不足にもなっていました。
もみの数を増やすのに大事な初夏の時期は低温、日照不足、もみの中身が充実する時期の8月は高温というダブルパンチを受けました。
一方、同じくコメの産地、宮城県、栃木県の作況指数は105、北海道、岩手県は104と順調です。こちらはむしろ日照が十分で、気温も高かったことがコメにとってプラスに働きました。
全国の作況指数は100と平年並みでした。
【新米の品質 米穀店の評価は】
ただ、これは「量」の評価で、「質」というとまた別です。確認するために専門店を取材しました。
訪れたのは、東京都千代田区の米穀店です。
取材した10月17日には、店頭に全国から集まった新米が並んでいました。新潟産、宮城産、長野産、島根産…、バラエティ豊かです。
9月後半から新米が届き始め、10月中には8割から9割ほどが新米に切り替わるということです。
店を経営する福士修三さんは、コメ販売に携わって40年以上。「五ツ星お米マイスター」の資格も持っています。福士さんは新米の魅力は「香りとみずみずしさ」と話します。
ただ、気になるのは、ことしの新米の出来栄えです。記録的な猛暑は品質に影響を与えたのかどうかを聞きました。
【品質変化の要因は「白未熟粒」】
プロの目で見て「品質が落ちている」というのはショックです。具体的には、どういうことなのでしょうか。
直接、品質の変化を証明するデータがあるわけではありません。行われているのは、見た目の検査です。
検査で、1等から3等の「等級」を決めています。全体のうち、形が整った「整粒(せいりゅう)」と呼ばれる粒がどのくらいを占めるか、検査機関が調べます。たとえば整粒が少なくとも70%以上なくては、「1等」にはなりません。
農林水産省によりますと、8月末現在の「1等」の比率を見ると、大きな産地の新潟県が41%と前の年より20ポイント以上、下がりました。この比率は今後さらに下がるとみられています。1等より価格が安い2等、3等が増えると、生産者の収入が落ち込む恐れがあります。
問題は、コメの色が白くなる「白未熟粒(しろみじゅくりゅう)」が多かったことです。
白未熟粒では、コメの細胞にデンプンが詰まらず、空気の隙間ができて、光を乱反射して白く見えます。イネの穂が出たあとの20日程度の間に、異常な高温状態に置かれると発生量が増えると言われています。
さらにコメを電子顕微鏡写真で見てみます。
透明な部分は左のようにびっしりとデンプンが詰まっているのですが、白い部分はよく見ると穴や隙間が空いているのが分かります。
高温でイネがダメージを受けて、光合成で作られる養分が減るうえに、もみの中でデンプンが合成される機能も低下する結果、デンプンが十分詰まらなかったということです。
【白いコメ 味への影響は】
このように白くなった場合、味はどうなるのでしょうか。
たしかに影響はあります。しかし、よく知ったうえで気にしすぎないことが大切ではないかと思います。
イネの品質や食味に関する研究が専門の、福島大学・新田洋司教授は「粒に占める白濁部分の割合が2割から3割を超えると、通常のコメと比べて糊状になる温度が低くなるので、柔らかくなりやすい。また、デンプンの隙間に水が入って割れやすいということもある」と話しています。
「柔らかくなる」、「割れやすい」ということですから、人によっては「味が落ちた」と感じるかもしれません。
一方で、新田教授は「粒に占める割合が大きくなければ、ほとんど味の違いは分からないだろう。また、栄養面でも大きくは変わらないのではないか」と話しています。
【違い知ったうえで応援を】
そこで、こうした違いはあると受け止めたうえで、生産者を応援するために、積極的に消費しようという動きも出ています。
日本生活協同組合連合会が、一部の新米に特別なシール貼っています。このシールには、消費者に現状を理解してもらうために、「この商品には、白く見える米粒が例年よりも多く見られます」と書いてあります。
新米の販売が始まった9月から、関東・関西の生協と連携し、新潟県産と茨城県産のコシヒカリ、秋田県産のあきたこまちを対象に、シールを貼っています。
シールを貼ったねらいについて、日本生協連では「見た目は悪いが、食味は問題ないと考えている。それを消費者に伝えることで生産者を支援したい」と話しています。
また、先ほど紹介した米穀店の福士修三さんは、白未熟粒の割合が多い時の食べ方について、「水につける時間を短めにして、水を1割ほど少なくして炊く」ことを勧めています。炊いた後、柔らかくしすぎないためのコツです。
【コメ値上がりの見方あるものの】
あとは値段もどうなるか、気になります。
業界関係者の間では「値上がりする」との見方が強まっています。
ただ、高騰してきたほかの主食に比べると、コメの価格はこれまで落ち着いていたということは留意が必要だと思います。
主食の消費者物価の推移を見ると、パンや麺類の価格は、主にウクライナ侵攻に伴う小麦価格の値上がりで、去年から上昇傾向にありましたが、コメの価格はあまり上がっていません。
需要の落ち込み傾向が続いていたことに加えて、在庫水準が比較的高かったこともあります。その点を考えると、少々値上がりしても「値ごろ感はある」と言えると思います。
また、今後収穫を控えている産地もありますので、その動向にも注目しておく必要があります。
【猛暑の影響は野菜にも】
これまでコメを取り上げましたが、野菜の中にも猛暑の影響が残っています。
農林水産省によりますと、10月16日の東京都中央卸売市場の価格は、トマトで平年の2.5倍以上になっています。また、だいこん、にんじん、それにねぎも平年より5割以上の高値です。
これらの高騰は、猛暑の影響でうまく育たなかったり、早く育ちすぎて秋の産地の野菜が出回るまで間が空いてしまったりしていることが主な原因です。
これだけ暑くなると、今後も続くという前提で準備を進めなければなりません。
国や自治体の研究機関では、暑さに強い品種の開発を進めています。また、生産現場でもそうした品種を採用する、田植え、作付けの時期をずらすなど、さまざまな工夫をしています。
ただ、温暖化が進行するなかで、今後も生産への影響は避けられそうもありません。消費者としても、毎日の買い物にあたって、現場が対応するのに相当な負担がかかっていることも頭に入れておく必要があるのではないでしょうか。
この委員の記事一覧はこちら