Q)パーソナルトレーニングとは、どういうものですか?
A)利用者ひとりひとりの目的や要望にあわせてつくられたトレーニングを、1対1で指導してもらえるサービスです。食事の指導をしてくれるケースもあります。コロナ禍で、運動不足になり、ダイエットをしたい、体を動かしたい。でも、3密になる大規模なスポーツジムは避けたい。という人が増えたことをきっかけに、急速に広がりました。ネット上で「60日間で平均〇キロダイエット」とか「プロのトレーナーが指導」こういった広告を見たことがあるという方もいらっしゃると思います。満足して利用している方も多くいると思いますが、中には、トラブルになる事例もあって、増えているとして、東京都が注意を呼び掛けています。
Q)どのようなトラブルですか?
A)例えば、こちら。弁護士や学識経験者などでつくる東京都の消費者被害救済委員会が、20代の女性からの相談について審議をし、報告書をまとめた事例です。どのような事例かというと、この女性、
▼ SNSの広告がきっかけで、ジムを訪れて、ダイエットをしたいと伝えたところ、「このプランなら絶対効果がでると実感する」「入会金無料、10%オフになるのは、きょうだけです」と勧誘されて、半年で48回、およそ30万円のプランを契約しました。
Q)高いですね。
A)パーソナルトレーニングの場合、目的に応じた効果を出すために、大規模なジムと比べて、長期間にわたり、継続的なサービスを受ける。そして、高額の契約が多いと言います。
▼ ところが、このケース。3か月たったころで、トレーナーに「補助するから大丈夫」と言われ、やったトレーニングで腰を痛め、
▼ 続けるのが無理なので、解約しようとしたところ、「契約の時に、一度払ったおカネは返金できないという書類に、同意しているではないか」と言われ、返金に応じてくれない。14回しかトレーニングを受けていないのに、納得がいかない。こうした事例です。
Q)半分も受けていないのに、お金が戻ってこないのは、納得できないですね。
A)トラブルは、この事例だけではありません。
東京都には、契約金額が5万円以上のパーソナルトレーニングについての相談が昨年度、145件寄せられました。コロナの感染拡大後、関心の高まりに応じて、相談もこのように増えています。そして、東京都の救済委員会は、こうしたパーソナルトレーニングに関して、審議の過程でいくつか問題点が見えてきたとして、報告書で指摘しています。
Q)どのような問題点ですか?
A)まず、広告について。ホームページなどに
▼ 「初めの1か月は無料」
▼ 「月3000円から」
▼ 「プロのトレーナーが指導します」。といった表示がみられるケースがあります。
Q)1か月分無料で受けられて、お得だな。月謝のようなもので、これなら払えそう。経験豊富な専門知識のあるトレーナーが見てくれ安心そう。と思います。
A)私もそう思いました。ところが、中には、
▼ クレジットを利用する場合、初回の引き落としは契約した次の翌月以降に始まるので、そのことをさしているだけ。つまり、全然お得ではない。とか
▼ 月謝のようなもので、利用をやめたら払わなくてもよいと思っていたら、総額数十万円の契約を、クレジットで分割払いにした、その月額を示している。つまり、利用をやめても、支払いは続くしくみになっている。そんなケースがある。
▼ さらに、プロのトレーナーといっても、会社で雇っているトレーナーをプロと表現しているだけで、経験や知識のない人を雇っている場合もある。ということです。
Q)えー。それ、いいのですか?
A)救済委員会は、これは景品表示法違反の可能性があると指摘しています。他にも、
▼ ジムが、マンションの一室など狭い場所で、同時にはひとりしか入れないため、希望する時間の予約が取りにくい。
▼ 先ほど紹介した事例のように、途中で解約しようとすると、一切返金できない。と言われる。さらに、
▼ トレーナーの指示通りにトレーニングをしたら、ケガをした。こうした問題点がみられると。
その上で、東京都の救済委員会は、解約の場合、消費者契約法上、一定のおカネを返さなければいけない。また、安全面については、事業者が、安全配慮義務を負っていると解釈される、という判断を示しました。
Q)すると、途中で解約した場合、一定のおカネを返さなければいけないということですね。
A)はい。実際、先ほどの東京の20代の女性のケースについて、救済委員会は、すでに受けたトレーニング代を差し引いて、21万円あまりを返金すべきだ。というあっせん案をつくり、事業者と消費者に示して、合意が成立したということです。この救済委員会の示した考え方。各地の消費生活センターの相談員が同じようなトラブルで事業者と交渉する際の参考にはなりますが、最後は、個別の交渉や裁判になってしまいます。救済委員会は、パーソナルトレーニングは、急速に広がった新しいサービスのため、法的な規制が追い付いていないとして、事業者に、問題がある広告や契約の改善を求めるとともに、国に対しても、消費者が安心して利用できるよう、対策が必要だという考えを示しました。
Q)どのような対策でしょうか?
A)まずは、
▼ クーリング・オフや中途解約のルールを適用するという点。というのは、同じように長期間・継続的、高額の契約をするサービスとして、語学教室やエステ、美容医療などがありますが、こうした7つのサービスについては、特定商取引法という法律の規制の対象に指定されています。そして、8日以内であれば、無条件で解約できるクーリング・オフが認められているほか、それが過ぎた後に解約した場合の返金のルールが定められています。ただ、パーソナルトレーニングは、新しいサービスのため、対象に指定されていないので、対象に追加して、クーリング・オフや返金ルールを適用するよう求めています。
▼ 次に、全国的に相談情報を集め、トラブルの実態を把握して、消費者に情報を提供してほしいという点。というのも、さきほど、東京都に相談がきた件数の推移は紹介しましたが、全国で集計したものはありません。パーソナルトレーニングについて、全国的なトラブルの実態はわかっていないということなのです。
▼ さらに、指導するトレーナーについて、公的な資格制度を導入することも指摘しています。
Q)法的な規制が追い付いていないとすると、利用する場合、注意が必要ですね。
A)東京都はきのう、消費者に対する注意情報を発表しました。この中では、
▼ 広告だけで判断せずに、契約の前に、トレーニングの内容や料金、支払方法、返金の条件や計算のしかたなどについて、きちんと確認し、契約書面にも目を通して、理解・納得したうえで契約する。そして、
▼ きょうなら、割引や入会金免除などの特典があると、契約を急がされても、その場で決めないで慎重に検討するよう呼び掛けています。
▼ その上で、トラブルになった場合、近くの消費生活センターに相談してください。直接電話をするか、全国共通で188の番号から、身近なセンターにつながるしくみになっています。お金を取り戻すための助言をしてくれたり、あっせんをしたりしてくれます。
今回の東京のように、消費者被害救済委員会を設けている自治体の場合、消費生活センターへの相談から、救済委員会のあっせんにつながるケースもあります。ぜひ、あきらめずに相談をしていただきたいと思います。
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